消された絵師と残された少年

ましゅまろ

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禁じられた絵

発禁浮世絵の存在

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奉行所に保管されていた千尋の絵が、完成した。
 写楽の筆致を写し、父の構図をなぞり、そして“消された声”を記録した、千尋自身の絵。

 それは「記録」としてではなく、「絵」としてあまりにも鮮烈だった。

 だが、奉行所の反応は割れた。

 「この絵は……公には出せん」

 一人の与力が、眉をひそめて言った。

 「風紀を乱す」「不穏を煽る」「幕府批判と捉えられかねぬ」――
 そんな声が、次々と上がる。

 「また、消されるのか……!」

 千尋の声が震える。

 「父さんの絵も、写楽の絵も、そして“声なき絵師”たちも……みんな、ただ“見たこと”を描いただけなのに」

 真魚は、黙ってその背に手を添えた。

 「千尋。君は、描いてはならないと言われた絵を、描いてしまった。だから――君は“本当の絵師”だ」

 そのとき、奉行・鳥越が口を開いた。

 「……お前の絵は“発禁絵”にあたる。だが、それは“罪”ではない。……“記憶をつなぐ行為”だ」

 鳥越は懐から、一枚の古い浮世絵を取り出した。
 それは、黄ばんだ一枚の刷り物。
 その中央には、水の中に沈みかけた男の姿が描かれていた。
 顔は墨で潰されている――が、その足元に、小さく「写楽」の落款があった。

 「これが“最初の発禁絵”だ。今まで、誰にも見せたことはなかった。だが……君の絵を見て思い出した。あのとき、我々は“封じる”ことしかできなかった」

 鳥越は続けた。

 「時代は、絵師に赦さぬことが多すぎた。だが今――描かれたものが、描いた者を救う時代に変わるかもしれない。……その絵の火を絶やすな」

 千尋は小さく頷いた。
 「発禁」という言葉の重みが、もはや恐れではなく、“使命”として胸に響いていた。

 描いてはいけないからこそ――描く。
 それは、父の遺志でもあり、写楽の遺言でもあり、千尋自身の選択だった。
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