お姉ちゃんは女王様

ましゅまろ

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第6話: 刻まれる愛の証

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土曜日の昼下がり。
 部活もなく、今日はまっすぐ家に帰る予定だった。

 「ヒロくーん!」

 その声に振り返ると、クラスメイトの小さな女の子が駆け寄ってきた。
 栗色の髪を揺らしながら息を切らせて僕を見上げている。

 「どうしたの?」

 「ね、ねぇ……ヒロくんって、好きな人いる?」

 突然の質問に、僕の心臓は信じられないほど大きな音を立てた。

 「え、な、なにそれ……」

 「い、いるのかなって……。ヒロくん、優しいし、背が小さくて可愛いし……」

 女の子は恥ずかしそうに頬を赤くしながら、僕の袖を小さく引っ張った。

 「……私ね、ヒロくんのこと……」

 その続きは聞かなくても分かった。
 でも胸の奥がぎゅっと痛むのは、目の前の子に対してじゃなく、もっと別の人のことを思い出したからだった。

 (……お姉ちゃんが、これ見たら……)

 急に怖くなった。

 「ご、ごめん」

 「え?」

 「僕……そういうの、誰とも付き合うとか、まだ考えられないんだ……」

 「そっか……」

 女の子は少しだけ寂しそうに笑って、「変なこと言ってごめんね」と言って走り去っていった。

 残された僕は、罪悪感と安堵で胸が苦しかった。

 (……でも、これでよかったんだよな……)



 家に帰ると、いつものようにリビングでお姉ちゃんが待っていた。
 制服のままソファに座り、脚を組んでスマホを弄っている姿は相変わらず女王様そのものだ。

 「ただいま……」

 「おかえり、ヒロ」

 お姉ちゃんは視線を上げると、すぐに僕の顔をじっと見つめた。
 その瞳が少し鋭い。

 「……何かあった?」

 「え……な、何も」

 「嘘つき」

 ソファから立ち上がり、僕の前に立つ。
 それだけで圧倒される。僕よりずっと背の高いお姉ちゃんに見下ろされると、息が浅くなる。

 「ヒロ、ちゃんと目を見て言いなさい」

 「……ほんとに、何もないよ」

 「まだ嘘つくの?」

 お姉ちゃんは僕の顎に指をかけ、ぐっと持ち上げた。
 視線が絡む。冷たい光を帯びた瞳が僕を射抜く。

 「女の子に、告白されそうになったでしょ?」

 「っ……」

 図星だった。
 僕が何も言えずにいると、お姉ちゃんの瞳が細くなる。

 「やっぱり」

 「……で、でもちゃんと断ったよ!」

 「当然でしょ。ヒロは私のものなんだから」

 お姉ちゃんはそう言って、僕の額に自分の額をそっと押し当てた。
 冷たい吐息が肌にかかって、背筋がぞくぞくする。

 「……でも許さない」

 「……え?」

 「ヒロが他の女の子に好きって言われるのも、想われるのも、全部嫌。全部全部……私だけでいいの」

 お姉ちゃんの腕が僕の腰に回り、強く抱きしめられた。
 体温が高い。心臓が痛いくらい鳴ってるのが、きっとお姉ちゃんにも伝わってる。

 「ねぇヒロ」

 「……なに」

 「今日はもっと分からせてあげる」

 低い声に体が震えた。
 お姉ちゃんは僕の手を引っ張って、自分の部屋へ連れていった。



 ベッドに腰掛けると、お姉ちゃんは僕の膝の上にまたがるように座った。
 制服のスカートが僕の太ももにふわりと落ちる。
 それだけで頭が真っ白になる。

 「ヒロ」

 「……なに」

 「さっきの子の顔、思い出してる?」

 「そ、そんなの……思い出してない……」

 「ほんとに?」

 指先が僕の頬をそっと撫でる。
 それが急にきつく抓られ、僕は小さく声を上げた。

 「痛っ……!」

 「ヒロはこれから、他の女の子なんて考えられなくなるくらい、お姉ちゃんのものになるの」

 そう言って、お姉ちゃんは僕の首筋に顔を埋めた。
 熱い吐息が耳にかかり、ぞくっとする。

 「ねぇ、印つけてもいい?」

 「……い、印?」

 「他の誰にも見えないところに……お姉ちゃんのキスの跡」

 「……や、だよ……」

 「でも私が欲しいの」

 首筋に柔らかい唇が触れた瞬間、頭が真っ白になった。
 ちゅっと音を立てて何度も何度も吸われ、次第に軽く甘噛みされる。
 痛いのに、それ以上に気持ちがいい。

 「これで、ヒロは今日からもっとお姉ちゃんのもの」

 そっと離れたお姉ちゃんの口元には、少しだけ唾液が光っていた。
 その妖艶さに、また心臓が跳ねた。



 「ねぇヒロ?」

 「……なに」

 「“僕はお姉ちゃんだけのものです”って言って?」

 「……やだよ……」

 「言いなさい」

 もう逃げ場はなかった。
 お姉ちゃんの脚の上に座らされ、顎を掴まれ、目を逸らせない。

 「……ぼ、僕は……お姉ちゃんだけのもの、です……」

 「いい子」

 お姉ちゃんはとても満足そうに微笑むと、僕を抱きしめ直した。
 長い指が髪を撫で、首筋の印を優しく触れた。

 「ヒロはずっと女王様の騎士。浮気なんか許さないから」

 「……しないよ」

 「もっと強く言って」

 「……しない! お姉ちゃんが一番好きだもん!」

 お姉ちゃんの瞳がとろりと甘く細められた。
 そしてそっと額をコツンと当てて、息を吐く。

 「よし。これで許してあげる」



 夜、自分の部屋に戻ってから、僕は制服を脱ぐとそっと鏡の前に立った。
 首筋には小さく赤い跡があって、それを見るだけで胸が苦しくなる。

 (……お姉ちゃんの印……)

 指先でそっと触れる。
 ちくりと痛い。けれどその痛みさえ、どうしようもなく嬉しかった。

 (僕はもう……ずっと、お姉ちゃんのものだ)

 誰にも取られない。
 そしてお姉ちゃんも、絶対に僕だけのものだ。

 そう思ったら、胸の奥が熱くて仕方がなくなった。
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