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やっと言える、“好き”
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夜の街を駆ける風はまだ冷たかったが、
蒼の足取りは軽くも、どこか震えていた。
(この気持ちを、もうごまかさない)
電車を降り、駅前の通りを抜けて、はるのマンションが見えてきたとき、
自然と呼吸が浅くなる。
インターホンを押すと、すぐに扉が開いた。
そこに立っていたのは――
いつもより少しだけ緊張した顔の、はるだった。
「……おにいちゃん」
「来たよ」
たったそれだけの言葉が、胸の奥まで沁みてくる。
「上がって。あったかいお茶、入れてるところ」
「うん……ありがとな」
靴を脱いで部屋に入り、湯気の立つマグカップを受け取る。
小さなテーブルを挟んで座ったふたりの間には、
言葉が生まれるまで、ほんの少しだけ沈黙が流れた。
先に口を開いたのは、蒼だった。
「今日、元カノに会ってきた。
ちゃんと話して……終わりにした」
はるの瞳が、少し揺れた。
「……そっか」
「自分の気持ちにウソついて付き合い続けるの、もう無理だった。
それに、今、俺が考えてるのは……あいつじゃない」
蒼は、マグカップを置き、はるを見つめた。
「お前のことばかり考えてる。
会ってない時間も、ずっと。……離れてるのが、つらいって思った」
「……っ」
はるの指が、テーブルの下でぎゅっと握られるのが見えた。
「俺、気づくの遅かったけど……
お前がくれた“好き”の意味、やっとちゃんとわかった気がする」
言葉が詰まって、少しだけ呼吸を整える。
「俺も、はるのことが好きだよ」
静かな夜に、その一言だけが落ちた。
しん、とした空気のなかで、はるの目にゆっくりと涙が浮かぶ。
「……やっと、言ってくれた」
「遅くなってごめんな」
「ううん。……すごく嬉しい。
今日、この言葉が聞けるって、どこかで信じてた」
はるは椅子から立ち上がり、テーブルを回り込んで蒼の隣に座る。
そして、そっと手を握った。
「ぼくも……おにいちゃんのことが、大好き」
あたたかな掌が重なる。
あの夜よりも強く、確かに、ふたりの指が絡み合った。
もう、名前のない関係じゃない。
いま、ここに――
**“恋人”**という言葉が、ちゃんと生まれた。
⸻
「じゃあさ」
はるが、ちょっとだけいたずらっぽく笑う。
「今日から“彼氏”って呼んでいい?」
蒼は吹き出しながら、小さく頷いた。
「……似合わないけど、悪くないな」
「ふふっ、じゃあ練習するね。
おにいちゃん……じゃなくて、“蒼くん”」
「お前、それ逆戻りしてない?」
ふたりの笑い声が、静かな部屋に響いた。
夜の外では、春の風がやさしく吹いていた。
蒼の足取りは軽くも、どこか震えていた。
(この気持ちを、もうごまかさない)
電車を降り、駅前の通りを抜けて、はるのマンションが見えてきたとき、
自然と呼吸が浅くなる。
インターホンを押すと、すぐに扉が開いた。
そこに立っていたのは――
いつもより少しだけ緊張した顔の、はるだった。
「……おにいちゃん」
「来たよ」
たったそれだけの言葉が、胸の奥まで沁みてくる。
「上がって。あったかいお茶、入れてるところ」
「うん……ありがとな」
靴を脱いで部屋に入り、湯気の立つマグカップを受け取る。
小さなテーブルを挟んで座ったふたりの間には、
言葉が生まれるまで、ほんの少しだけ沈黙が流れた。
先に口を開いたのは、蒼だった。
「今日、元カノに会ってきた。
ちゃんと話して……終わりにした」
はるの瞳が、少し揺れた。
「……そっか」
「自分の気持ちにウソついて付き合い続けるの、もう無理だった。
それに、今、俺が考えてるのは……あいつじゃない」
蒼は、マグカップを置き、はるを見つめた。
「お前のことばかり考えてる。
会ってない時間も、ずっと。……離れてるのが、つらいって思った」
「……っ」
はるの指が、テーブルの下でぎゅっと握られるのが見えた。
「俺、気づくの遅かったけど……
お前がくれた“好き”の意味、やっとちゃんとわかった気がする」
言葉が詰まって、少しだけ呼吸を整える。
「俺も、はるのことが好きだよ」
静かな夜に、その一言だけが落ちた。
しん、とした空気のなかで、はるの目にゆっくりと涙が浮かぶ。
「……やっと、言ってくれた」
「遅くなってごめんな」
「ううん。……すごく嬉しい。
今日、この言葉が聞けるって、どこかで信じてた」
はるは椅子から立ち上がり、テーブルを回り込んで蒼の隣に座る。
そして、そっと手を握った。
「ぼくも……おにいちゃんのことが、大好き」
あたたかな掌が重なる。
あの夜よりも強く、確かに、ふたりの指が絡み合った。
もう、名前のない関係じゃない。
いま、ここに――
**“恋人”**という言葉が、ちゃんと生まれた。
⸻
「じゃあさ」
はるが、ちょっとだけいたずらっぽく笑う。
「今日から“彼氏”って呼んでいい?」
蒼は吹き出しながら、小さく頷いた。
「……似合わないけど、悪くないな」
「ふふっ、じゃあ練習するね。
おにいちゃん……じゃなくて、“蒼くん”」
「お前、それ逆戻りしてない?」
ふたりの笑い声が、静かな部屋に響いた。
夜の外では、春の風がやさしく吹いていた。
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