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ふたりきりの夜、心がふれた
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「好き」――そう言葉にしたあとも、しばらくふたりは手を握ったまま、
何も言わずに部屋の静けさに耳を傾けていた。
夜の窓の外では、街の灯りが瞬いている。
でも、この部屋の中は、まるで世界から切り離された小さな宇宙のようだった。
はるがゆっくりと口を開いた。
「……ねえ、おにいちゃん。
今夜、帰らなくてもいい?」
蒼は一瞬、迷うように目を伏せた。
けれど、すぐに小さく頷いた。
「……ああ。俺も、帰りたくない」
⸻
照明を落とした部屋は、カーテンの隙間から漏れる街の光でぼんやりと明るかった。
ベッドにははるが先に入っていて、蒼はその隣に静かに腰を下ろした。
「狭いけど……ふたりで寝るの、はじめてだね」
「……あのときも、一緒に寝たことあったろ? 俺の部屋のソファで」
「でも、あれは……まだ子どもだったから」
はるがそう言って、ふっと笑う。
「今は違う。“好き”って言ったあとに、こうして隣にいるの、初めてだよ」
蒼は、その横顔を見つめたまま、言葉を探す。
(この距離で、触れてしまいたい。
でも……急ぎたくない)
「……こっち、来ていい?」
はるがそう囁くように言って、蒼の胸に身体を寄せてきた。
抱きしめた瞬間、柔らかな髪の香りがふわりと鼻をくすぐった。
蒼はその身体をそっと包むように抱いて、
耳元で静かに言った。
「……俺、お前のこと、ほんとに大事にしたい。
だから、無理はしたくない。焦らなくていい」
はるは、蒼の胸元に顔を埋めたまま、小さく首を振る。
「無理なんかしてないよ。
ぼくがこうしていたいの。……今日だけじゃなくて、これからも、ずっと」
その言葉に、蒼の胸の奥がゆっくりと溶けていく。
やわらかく、確かにそこにあるぬくもり。
手のひらで肩をなぞり、指先で頬に触れ、
額を寄せて、そっと唇を近づける。
触れるか触れないかの距離で、はるが瞳を閉じた。
そのまま、静かに――
ふたりの唇が重なった。
長くも短くもない、けれど確かに想いが伝わるキス。
どちらからも、言葉はなかった。
ただ、重ねた唇に、これまでの8年と、これからの“ふたり”が詰まっていた。
⸻
布団のなかで、腕のなかのはるの髪をゆっくりと撫でながら、
蒼はふと思う。
(これはもう、“好き”だけじゃない)
あたたかくて、守りたくて、手放したくない。
そんな気持ちが、胸いっぱいに広がっていた。
「……好きだよ」
もう一度、囁くように伝えると、
はるは小さく笑って、背中に腕を回した。
「ぼくも……大好き。今日だけじゃないからね。これからも、ずっと」
ふたりは、言葉を重ね、手を重ねたまま、
眠りについた。
――何もなかったわけじゃない。
でも、それ以上に、すべてが“あった”夜だった。
何も言わずに部屋の静けさに耳を傾けていた。
夜の窓の外では、街の灯りが瞬いている。
でも、この部屋の中は、まるで世界から切り離された小さな宇宙のようだった。
はるがゆっくりと口を開いた。
「……ねえ、おにいちゃん。
今夜、帰らなくてもいい?」
蒼は一瞬、迷うように目を伏せた。
けれど、すぐに小さく頷いた。
「……ああ。俺も、帰りたくない」
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ベッドにははるが先に入っていて、蒼はその隣に静かに腰を下ろした。
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「……あのときも、一緒に寝たことあったろ? 俺の部屋のソファで」
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はるがそう言って、ふっと笑う。
「今は違う。“好き”って言ったあとに、こうして隣にいるの、初めてだよ」
蒼は、その横顔を見つめたまま、言葉を探す。
(この距離で、触れてしまいたい。
でも……急ぎたくない)
「……こっち、来ていい?」
はるがそう囁くように言って、蒼の胸に身体を寄せてきた。
抱きしめた瞬間、柔らかな髪の香りがふわりと鼻をくすぐった。
蒼はその身体をそっと包むように抱いて、
耳元で静かに言った。
「……俺、お前のこと、ほんとに大事にしたい。
だから、無理はしたくない。焦らなくていい」
はるは、蒼の胸元に顔を埋めたまま、小さく首を振る。
「無理なんかしてないよ。
ぼくがこうしていたいの。……今日だけじゃなくて、これからも、ずっと」
その言葉に、蒼の胸の奥がゆっくりと溶けていく。
やわらかく、確かにそこにあるぬくもり。
手のひらで肩をなぞり、指先で頬に触れ、
額を寄せて、そっと唇を近づける。
触れるか触れないかの距離で、はるが瞳を閉じた。
そのまま、静かに――
ふたりの唇が重なった。
長くも短くもない、けれど確かに想いが伝わるキス。
どちらからも、言葉はなかった。
ただ、重ねた唇に、これまでの8年と、これからの“ふたり”が詰まっていた。
⸻
布団のなかで、腕のなかのはるの髪をゆっくりと撫でながら、
蒼はふと思う。
(これはもう、“好き”だけじゃない)
あたたかくて、守りたくて、手放したくない。
そんな気持ちが、胸いっぱいに広がっていた。
「……好きだよ」
もう一度、囁くように伝えると、
はるは小さく笑って、背中に腕を回した。
「ぼくも……大好き。今日だけじゃないからね。これからも、ずっと」
ふたりは、言葉を重ね、手を重ねたまま、
眠りについた。
――何もなかったわけじゃない。
でも、それ以上に、すべてが“あった”夜だった。
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