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3.帝都に蠢く影
銃口の前の演説
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昭和十七年(1942年)一月三日、午後二時。
場所は、東京・日比谷公会堂。
政府と軍部主催の「国民団結大会」が開催される日だった。
だが、会場の空気は異様な緊張に包まれていた。
二日前に帝大構内で起きた爆破事件の件を、新聞各社は「事故」と報じていたが、
人々の間では「蒼月レイが狙われた」という噂が広まっていた。
そして――会場に、その少年が現れた。
⸻
壇上に上がるレイの姿に、会場がざわつく。
軍服でもない、学生服でもない。
白のシャツに黒のネクタイ――まるで葬儀の喪服のような服装だった。
レイは、壇上中央の演壇に立ち、マイクを握る。
その瞬間、後方の観客席から“何か”が動くのが見えた。
久坂が即座に反応し、身構える。
が、レイは止めるように手を上げた。
「……いいんです。そのままで」
そして彼は、静かに口を開いた。
⸻
「皆さん。
いま、僕の胸のどこかに、“銃口”が向いていることは分かっています」
会場が凍りついた。
「先に言います。撃ちたいなら撃ってください。
僕の命で、日本が勝てるなら、僕はそれでも構いません」
ざわざわと、民衆が動揺し始める。
だがレイは続ける。
「でも――それは、本当に“勝ち”ですか?」
演壇の奥にいた東條英機が、険しい顔で腕を組む。
レイは彼をまっすぐに見据えて語る。
「僕たちは、戦ってばかりです。
言葉で交わすよりも、力で決めようとする。
正しさを主張するよりも、声の大きさで勝とうとする。
でも、それがこの国の未来を守ってくれるでしょうか?」
「僕を殺せば、黙る人はいるかもしれません。
でも、“考える人”は消せません」
会場の一角――小さな男の子が母親の袖を引っ張る。
「お母さん、あの人……こわくないの?」
母親は、首を横に振る。
「いいえ、あの人は、こわがってるのよ。私たちと同じようにね」
⸻
レイは最後にこう締めくくった。
「僕は、未来を知りません。
でも、未来を考える自由だけは、奪わせません。
それができない国に、勝利など意味がありません」
その瞬間、銃声は――響かなかった。
⸻
演説の音声や記事は、瞬く間に国民に広がった。
「銃口の前で語った少年」として、レイの名は再び熱狂的に広まる。
一方、作戦を指揮していた水原和典と辻政信は、
「無断行動により国家の威信を傷つけた」として、陸軍省から内密に処分された。
レイは撃たれなかった。
だが、この瞬間――彼の言葉は、日本の“運命”に撃ち込まれていた。
⸻
久坂が会場の外で言った。
「……あれが、君の武器か」
「銃よりも、遠くまで届くと信じてる」
そう答える少年の横顔に、もう幼さはなかった。
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でも、“考える人”は消せません」
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「いいえ、あの人は、こわがってるのよ。私たちと同じようにね」
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そう答える少年の横顔に、もう幼さはなかった。
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