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11.海の向こうの答え
洋上の約束
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――1942年(昭和17年)8月8日
日本海軍・特別輸送艦〈八洲丸〉 洋上
海は静かだった。夜明け前の水平線に、薄く霞む光が差し込んでいた。
その甲板に立つのは、14歳の少年――蒼月レイ。
彼は、これから訪れる地の名を何度も口にしていた。
「……サンフランシスコ」
講和への布石が整いつつあるなか、日本とアメリカの“信頼構築”の一環として、特別外交使節団が極秘裏にアメリカ本土を訪問することとなった。
その団長に任命されたのは、正式な肩書きこそ持たぬ少年、だが“日本国民の声”として認知された蒼月レイだった。
同行するのは、外務省の若手官僚・吉岡健吾、通訳官・真鍋ルリ子。そして、特高から転属された元情報士官・古橋啓治。
「どうして俺が子守りに回されたんだか……」
古橋が小声でぼやくのを背に、レイは船室に戻った。
⸻
同日、ホワイトハウス執務室。
フランクリン・D・ルーズベルトは、海軍作戦部長と話をしていた。
「日本から、あの少年が来る。君はどう見る?」
「国際法上、公式の使節とは認めがたい存在です。だが……政治的な象徴として、侮れません」
「そうだ。私が認めたのは、“肩書き”ではない。彼の“意志”だ」
ルーズベルトは答えた。
⸻
8月12日 サンフランシスコ湾・特別入港区
軍用桟橋に並ぶ歓迎の列。その前に、無言で降り立った蒼月レイの姿を、多くの記者がカメラに収めた。
「Are you the boy who stopped the war?(君が“戦争を止めた少年”なのかい?)」
そう尋ねた記者に、レイは英語で、静かに答えた。
「No. I’m just the one who asked everyone to stop.(いいえ。ただ“止めよう”と皆に呼びかけただけです)」
⸻
同日午後、カリフォルニア州知事公邸にて非公式懇談会。
レイは初めて、アメリカの高官たちと膝を突き合わせて話した。
互いに険しい顔をしていたが、議論は思いのほか建設的だった。
「我々が恐れているのは、“軍部の暴走”だ」
「それは、僕も同じです。だから、あなた方に“見せたいもの”がある」
レイは懐から取り出したのは一枚の草案――
『太平洋共栄構想案』。
それは、“敵国”同士が同じ海を隔てて“隣人”になるための、新しい秩序の設計図だった。
「日本は、アジアの盟主としてではなく、“共存者”としての地位を選びます」
「ならば我々も、“敵国”ではなく、“監視者”をやめるかもしれない」
老外交官が、唇の端をわずかに吊り上げた。
レイは、拳を軽く握った。
「……この海が、憎しみの境界ではなく、“未来を分かち合う線”になると信じています」
夜空の星は、言葉を超えて、どこまでも澄んでいた。
日本海軍・特別輸送艦〈八洲丸〉 洋上
海は静かだった。夜明け前の水平線に、薄く霞む光が差し込んでいた。
その甲板に立つのは、14歳の少年――蒼月レイ。
彼は、これから訪れる地の名を何度も口にしていた。
「……サンフランシスコ」
講和への布石が整いつつあるなか、日本とアメリカの“信頼構築”の一環として、特別外交使節団が極秘裏にアメリカ本土を訪問することとなった。
その団長に任命されたのは、正式な肩書きこそ持たぬ少年、だが“日本国民の声”として認知された蒼月レイだった。
同行するのは、外務省の若手官僚・吉岡健吾、通訳官・真鍋ルリ子。そして、特高から転属された元情報士官・古橋啓治。
「どうして俺が子守りに回されたんだか……」
古橋が小声でぼやくのを背に、レイは船室に戻った。
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同日、ホワイトハウス執務室。
フランクリン・D・ルーズベルトは、海軍作戦部長と話をしていた。
「日本から、あの少年が来る。君はどう見る?」
「国際法上、公式の使節とは認めがたい存在です。だが……政治的な象徴として、侮れません」
「そうだ。私が認めたのは、“肩書き”ではない。彼の“意志”だ」
ルーズベルトは答えた。
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8月12日 サンフランシスコ湾・特別入港区
軍用桟橋に並ぶ歓迎の列。その前に、無言で降り立った蒼月レイの姿を、多くの記者がカメラに収めた。
「Are you the boy who stopped the war?(君が“戦争を止めた少年”なのかい?)」
そう尋ねた記者に、レイは英語で、静かに答えた。
「No. I’m just the one who asked everyone to stop.(いいえ。ただ“止めよう”と皆に呼びかけただけです)」
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同日午後、カリフォルニア州知事公邸にて非公式懇談会。
レイは初めて、アメリカの高官たちと膝を突き合わせて話した。
互いに険しい顔をしていたが、議論は思いのほか建設的だった。
「我々が恐れているのは、“軍部の暴走”だ」
「それは、僕も同じです。だから、あなた方に“見せたいもの”がある」
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それは、“敵国”同士が同じ海を隔てて“隣人”になるための、新しい秩序の設計図だった。
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「ならば我々も、“敵国”ではなく、“監視者”をやめるかもしれない」
老外交官が、唇の端をわずかに吊り上げた。
レイは、拳を軽く握った。
「……この海が、憎しみの境界ではなく、“未来を分かち合う線”になると信じています」
夜空の星は、言葉を超えて、どこまでも澄んでいた。
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