日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

文字の大きさ
87 / 120
22.帝国の目覚め

帝国の実感

しおりを挟む
三月上旬、東京。

春の兆しが街に満ち、街路樹には淡い緑の芽がのぞいていた。皇居前の広場では、子どもたちが走り回り、年配の夫婦が連れ立って散歩する姿も見られた。新聞の経済面には、「農村部の電化率、九割突破」「全世帯の八割が冷暖房完備」といった見出しが踊っている。

電車は定時に走り、舗装された道路には整備されたバスが行き交う。農村部でも、かつては高級品だった白米や味噌が安価で手に入るようになり、夜になっても灯りが絶えない村が増えていた。

帝国全体――本土はもちろん、満州・台湾・朝鮮半島に至るまでの地域に、経済的な恩恵が波及していた。

その中心にいるのが、十五歳となったばかりの少年、蒼月レイである。



「……この数字を見て、驚かない国はないでしょうね」

桜がそう言って、レイの机の上にある資料を覗き込んだ。そこには、帝国内全域のGDP、雇用率、インフラ進捗率が細かく記されていた。

「驚くだけならいいけど、警戒する国も出てくる」

レイは穏やかな表情で応じたが、その瞳には冷静な鋭さが宿っていた。

彼の執務室には一時的な静けさが漂っていた。重臣たちが退室したあと、束の間の休息の時間だった。桜はその合間を縫って、彼を訪ねていた。

「でも、実際に暮らしている人たちは……本当に豊かになってるのを感じてると思う。今日も地下鉄で通ってきたけど、子どもたちが安心して乗ってた。お年寄りが笑ってた。あれって、昔は当たり前じゃなかったよね?」

「……ああ。僕たちが変えたんだ」

レイはそう呟くと、書類を閉じ、窓の外へ視線を向けた。夕暮れの光が街を赤く染めていた。どこか懐かしく、そして、未来の気配を孕んだ景色だった。

「桜。君がいてくれて、本当に良かった」

「え……?」

「君は、僕にとって……誰よりも、対等に話してくれる存在だ。政治家も軍人も、僕に意見を言うときは、どうしても遠慮や忖度が入る。でも君は違う。僕の理想にも、疑問があればちゃんと聞いてくる」

桜は、やや照れたように笑った。

「だって、レイが完璧すぎるから。……私は、少しでも支えになりたいの。あなたの“人間らしさ”を保つために」

「……人間らしさ、か」

レイは小さく笑った。

「僕は、自分がどこかで“道具”になってしまいそうで、怖くなる時があるんだ。使命に飲み込まれて、心を置いていくんじゃないかって。でも、君と話していると、それを取り戻せる気がする」

桜はその手を、そっとレイの手に重ねた。

「じゃあ、忘れそうになったら……何度でも私が言う。あなたは人間よ。世界を変えた、美しい、優しい“ひとりの男の子”なんだって」

レイの表情が、ふっと和らぐ。

「ありがとう。……僕が守りたい未来に、君がいてくれて嬉しい」

静かな時間が流れる。執務室の窓の外では、街に灯がともり始めていた。



その夜、レイはひとつの通達書を署名した。

それは――東京を中心とした経済圏の正式な名称を「帝都圏」とし、そこに属する満州・朝鮮半島南部・台湾の主要都市群を、“経済特区”として段階的に統合するというものだった。

すなわち、レイがかねてから構想していた“帝国経済連携圏”が、名実ともに動き出す瞬間である。

「……これで、次の二十年が変わる」

レイは桜にそう告げた。

「君と、この国と、この世界を、もっと温かくしていくために。僕は止まらない。……でも、ひとつだけ。もし、どこかで僕が自分を見失ったら――そのときは、君が止めてくれ」

桜は一度、真剣なまなざしで彼を見つめ――そして頷いた。

「約束する。私は、あなたの“最後の歯止め”になる。だから、安心して進んで」

レイは、安心したように目を閉じた。

その夜、東京の空は雲ひとつなく澄み渡っていた。
“帝国の実感”は、確かに人々の生活と心の中に、静かに根を下ろし始めていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

征空決戦艦隊 ~多載空母打撃群 出撃!~

蒼 飛雲
歴史・時代
 ワシントン軍縮条約、さらにそれに続くロンドン軍縮条約によって帝国海軍は米英に対して砲戦力ならびに水雷戦力において、決定的とも言える劣勢に立たされてしまう。  その差を補うため、帝国海軍は航空戦力にその活路を見出す。  そして、昭和一六年一二月八日。  日本は米英蘭に対して宣戦を布告。  未曾有の国難を救うべく、帝国海軍の艨艟たちは抜錨。  多数の艦上機を搭載した新鋭空母群もまた、強大な敵に立ち向かっていく。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...