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初めての週末
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「ねえ、おにいちゃん、これなあに?」
はるはソファの上で胡座をかくように座りながら、蒼のノートパソコンを指差した。
蒼はキッチンから顔をのぞかせる。
「それはね、仕事で使うパソコン。文字を打ったり、資料を作ったりするんだよ」
「ふーん、僕も触ってていい?」
「いいけど、難しいことはできないと思うよ」
「じゃあ、お絵描きできる?」
「お絵描き……か。ちょっと待って、アプリ探してみる」
蒼ははるの興味に応えるように、手早く無料のお絵かきソフトを立ち上げた。
マウスを持たせると、はるはおそるおそる動かしながら、画面に赤い丸を描く。
「できたー!これ、おにいちゃんの顔!」
「え、これ俺?」
「うん。まゆげがへの字で、いつもつかれてるかお!」
「……そんなに疲れて見える?」
はるはケラケラと笑っていた。
その笑い声が、部屋に新しい空気を運んでくるようで、蒼はふっと肩の力を抜いた。
⸻
その日以来、はるは毎日のように蒼の家に遊びに来るようになった。
母親が看護師で夜勤の日は、夕食も一緒に取るようになった。
「おにいちゃん、またカレー?」
「作りやすいからね。嫌い?」
「ううん、大好き!」
そんな会話も、もう日常の一部になっていた。
⸻
そして、週末。
「今日はどこか行きたいところある?」
「えっ……ほんとに?いいの?」
「うん。せっかくの休みだし、たまには外に出ないとね。どこか行きたい場所ある?」
はるは少し考えてから、ぱっと目を輝かせた。
「じゃあ、公園いきたい!ひろーいとこでボール蹴りたい!」
「いいね。じゃあ、ボール持って、ピクニックでもする?」
「ピクニック!おにいちゃん、サンドイッチ作れる?」
「作ったことないけど、挑戦してみるよ」
ふたりでキッチンに立ち、蒼がパンに具を挟み、はるがラップで包む。
出来上がった簡単なサンドイッチを持って、ふたりは近くの大きな公園へ向かった。
春の陽射しが心地よく、風が頬をなでていく。
芝生の上で転がりながら、ボールを蹴って笑うはるを見て、蒼はぽつりとつぶやいた。
「……癒されるなぁ」
はるがくるりと振り返り、少し照れくさそうに言った。
「僕、おにいちゃんがニコニコしてると、嬉しい」
その言葉が、蒼の心の奥にやさしく染みわたっていく。
その日の夕方、ピクニックから帰ると、はるの家の前で母親が待っていた。
白い看護師の制服に薄いカーディガンを羽織った優しげな女性だった。
「はる!おかえり。蒼さん、いつもありがとうございます」
「あ、いえ、こちらこそ……。はるくんと一緒に過ごすの、すごく楽しいです」
「そう言ってもらえると助かります。私、夜勤が多くて、家にいないことも多いんです。はるもひとりの時間が増えてしまって……」
母親は、少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「でも、蒼さんのような方が隣にいてくださって、本当に救われてます。はるも、いつも楽しそうにしていて」
はるはというと、母親の後ろからぴょこんと顔を出し、「ねー!きょうサンドイッチつくったんだよ!」と自慢げだ。
「蒼さん、これからもはるのこと、よろしくお願いしますね。よければ、うちにいないときは、はるのことお願いしても……?」
蒼は少し驚きつつも、頷いた。
「もちろんです。俺でよければ、いつでも」
母親は安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。はる、ちゃんと迷惑かけないようにね?」
「うん!ぼく、いいこにする!」
その日を境に、はるはより自由に蒼の家を訪れるようになった。
学校から帰ると「ただいまー!」と自分の家のように玄関を開けてくる。
夜勤の日は、母親から事前に連絡が入り、はるは夕飯を一緒に食べて、リビングでうとうとするまで過ごす。
はるの存在は、蒼の孤独にじんわりと染み入っていた。
はるはソファの上で胡座をかくように座りながら、蒼のノートパソコンを指差した。
蒼はキッチンから顔をのぞかせる。
「それはね、仕事で使うパソコン。文字を打ったり、資料を作ったりするんだよ」
「ふーん、僕も触ってていい?」
「いいけど、難しいことはできないと思うよ」
「じゃあ、お絵描きできる?」
「お絵描き……か。ちょっと待って、アプリ探してみる」
蒼ははるの興味に応えるように、手早く無料のお絵かきソフトを立ち上げた。
マウスを持たせると、はるはおそるおそる動かしながら、画面に赤い丸を描く。
「できたー!これ、おにいちゃんの顔!」
「え、これ俺?」
「うん。まゆげがへの字で、いつもつかれてるかお!」
「……そんなに疲れて見える?」
はるはケラケラと笑っていた。
その笑い声が、部屋に新しい空気を運んでくるようで、蒼はふっと肩の力を抜いた。
⸻
その日以来、はるは毎日のように蒼の家に遊びに来るようになった。
母親が看護師で夜勤の日は、夕食も一緒に取るようになった。
「おにいちゃん、またカレー?」
「作りやすいからね。嫌い?」
「ううん、大好き!」
そんな会話も、もう日常の一部になっていた。
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そして、週末。
「今日はどこか行きたいところある?」
「えっ……ほんとに?いいの?」
「うん。せっかくの休みだし、たまには外に出ないとね。どこか行きたい場所ある?」
はるは少し考えてから、ぱっと目を輝かせた。
「じゃあ、公園いきたい!ひろーいとこでボール蹴りたい!」
「いいね。じゃあ、ボール持って、ピクニックでもする?」
「ピクニック!おにいちゃん、サンドイッチ作れる?」
「作ったことないけど、挑戦してみるよ」
ふたりでキッチンに立ち、蒼がパンに具を挟み、はるがラップで包む。
出来上がった簡単なサンドイッチを持って、ふたりは近くの大きな公園へ向かった。
春の陽射しが心地よく、風が頬をなでていく。
芝生の上で転がりながら、ボールを蹴って笑うはるを見て、蒼はぽつりとつぶやいた。
「……癒されるなぁ」
はるがくるりと振り返り、少し照れくさそうに言った。
「僕、おにいちゃんがニコニコしてると、嬉しい」
その言葉が、蒼の心の奥にやさしく染みわたっていく。
その日の夕方、ピクニックから帰ると、はるの家の前で母親が待っていた。
白い看護師の制服に薄いカーディガンを羽織った優しげな女性だった。
「はる!おかえり。蒼さん、いつもありがとうございます」
「あ、いえ、こちらこそ……。はるくんと一緒に過ごすの、すごく楽しいです」
「そう言ってもらえると助かります。私、夜勤が多くて、家にいないことも多いんです。はるもひとりの時間が増えてしまって……」
母親は、少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「でも、蒼さんのような方が隣にいてくださって、本当に救われてます。はるも、いつも楽しそうにしていて」
はるはというと、母親の後ろからぴょこんと顔を出し、「ねー!きょうサンドイッチつくったんだよ!」と自慢げだ。
「蒼さん、これからもはるのこと、よろしくお願いしますね。よければ、うちにいないときは、はるのことお願いしても……?」
蒼は少し驚きつつも、頷いた。
「もちろんです。俺でよければ、いつでも」
母親は安心したように微笑んだ。
「ありがとうございます。はる、ちゃんと迷惑かけないようにね?」
「うん!ぼく、いいこにする!」
その日を境に、はるはより自由に蒼の家を訪れるようになった。
学校から帰ると「ただいまー!」と自分の家のように玄関を開けてくる。
夜勤の日は、母親から事前に連絡が入り、はるは夕飯を一緒に食べて、リビングでうとうとするまで過ごす。
はるの存在は、蒼の孤独にじんわりと染み入っていた。
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