スケッチ・ビッチ・リベンジ

🍚🐴

文字の大きさ
1 / 7

1話 運命の出会い※

しおりを挟む
僕にとって彼との出会いは、ーー運命的だった。

整った顔立ち、スっと伸びた鼻筋。
黒髪が風に揺れ、午後の光を柔らかく包んでいる。

公園のベンチで静かに眠り込んでいた彼の姿に、思わず息を飲む。
その瞬間、胸の奥の何かが弾けた。

「……描かなきゃ」

都内にある、そこそこ有名な美大に通っている僕ーー風見彰かざみあきらは、今週末締め切りの提出課題の下見に、色々なスポットを巡っていた。

⋯⋯色々といっても、たったの二ヶ所だけど。

最初は、家から二十分ほど歩いたところにある、人の通りの多い神社にしようと考えた。
だけど、カップルが恋愛成就の神様に肖り、デートコースとして参内している姿が多く見受けるため、気分が萎えそうなので家の近所の公園に変更した。

もの寂しい公園で、あるのはたったのブランコ一つ。

そんな廃れた公園で、昼間から遊んでいる子供なんかはもちろんいない。
僕もスケッチするには物足りなく感じていて、今までは無視し続けていた。

しかし、今回の課題のテーマは“生命と神秘”
徒歩で行ける、尚且つ思い付く場所が神社と公園ここには無かった。

そして僕と彼は、運命的な出会い(一方的)を果たした。

いつもなら風景を描くはずだったのに、今日はどうしてもこの“人間”を描きたかった。

「ふわぁぁ……!綺麗!眩しい!まるで王宮に暮らす王子さまみたい!か、描きたいッ!」

背負っていたリュックから、あたふたとスケッチブックと鉛筆を取りだす。
眠っている王子の前に腰を落とし、その姿を紙と眼に焼き付けるよう筆を踊らせる。

「こんな綺麗な人、今まで見たことないっ!」

随分と大きな独り言を度々連発しつつ、爽快と筆を躍らせる。
サラサラの黒髪、長いまつ毛、血色の良い唇。
ベンチに腰掛ける姿勢からでも分かる、スラリと伸びた長い脚の曲線は完璧だった。

「うわぁっ筆が止まらない~!!」

興奮気味に独り言を漏らす。
次第にその熱量は、全身に血が通う。

「あぁっ、この人……スーツの“中”はどうなってるんだろう?きっと美しくて、逞しいんだろうなぁ……」

恍惚と顔を染め、口内に唾液が溜まる。
ジュルと喉を鳴らすと、僕は無意識に鉛筆とスケッチブックを地面に置いていた。

「よく見ると、目の下のクマが凄い。疲れているのかな?僕が癒してあげます……♡」

組まれた脚を慎重に崩し、その間に身体を滑り込ませる。
ピシ、と締められたベルトに手を掛け、慣れた手付きで金具を外す。

スラックスの留め具を外し、中から覗く紺のボクサーパンツにそっと手をかけ、躊躇いもなく下ろした。

「わっ♡想像以上……♡」

気付けば、見ず知らずの王子の股間に、僕は顔を埋めていた。



ーーー



「ンっ♡……ひゅご、どんどん大きくなる……♡」

水音が響く。
未だ眠る王子の剛直は、天を仰ぎ、小さく脈を打っていた。
それに応えるように舌を這わせ、まるでご褒美だと言わんばかりに吸い付く。

「ふぁっ♡僕ももう我慢できないぃ……欲しいなぁ……♡」

やかましい独り言に、目覚めを誘ったのか、瞼をピクリと揺らした王子は、ついにその瞳を覗かせる。

「……ん、なんだ?なんか、スースーす、」

パチ、と目が合う。
その瞬間、世界が止まった。

「お、お前……何してる……?」

眠気眼を擦り、訝しげに僕を睨む王子の眼差しに、射抜かれた。
口に含む熱が、また質量を増した気がした。

「ふっ、ぼ、僕、風見彰かさみあひあとひいまふ!はまりにふつふしくお休みになってひたので!つい……」

「っ!?てめ、咥えたまま喋んなっ……てか、いい加減はなせっ!」

「へっ、ひいんれすかっ!?つらそうなのに……僕にまかへてくらはい……♡」

何の悪気もなく言い放ったその言葉に、ベンチに座る王子は完全に覚醒し、眉を顰めた。
隣に置かれた鞄を手に持ち、そのまま構える。

「気持ちよくしてあげますよっ」

「するな!!」

バコンと鈍い音が、小さな公園に響く。
痛みで視界が滲んだ僕の頭に、鞄の角が容赦なく落ちていた。

「い、痛いぃ⋯⋯何するんですかぁ⋯⋯」

「こっちのセリフだ!警察呼ぶぞ!」

怒鳴る姿すら美しく、動きのある王子の挙動に、ますます目が離せない。

「あ、あの!僕本当は、ここで課題をしてて⋯⋯でもつい興奮しちゃって⋯⋯ついでに僕と付き合ってください!」

「はぁ⋯⋯?」

何を言っているのか、何のついでた、と言わんばかりに王子は眉間に皺を寄せる。
乱れたスラックスを元に戻そうと、手をかける王子の大きな手のひらに、自分の手のひらを重ねる。

「待ってください!僕たち、きっと運命だと思います!」

言いながら、僕は腰掛ける王子の膝の上に跨がろうとした。

「おいっ!まてまてまて!何やってんだ、お前!」

「僕とセックスしましょう♡」

ゴツンと、先ほどとはまた違う鈍い音が響く。
右手の拳を握る王子が、僕を睨みつけている。

「い、痛いですぅ⋯⋯!」

「何なんだ、お前は。マジで警察呼ぶぞ」

痛みに悶えていても容赦なく突き飛ばされ、鞄を抱え身を守る王子。

「そんなっ、僕はただ!貴方を気持ちよくさせたくて⋯⋯」

「きっ……、余計なお世話だ!それに第一、会って間もないヤツと、しかも男と、付き合うか!」

まるでゴミでも見るかのような、その鋭い眼差しも、今の僕には興奮材料にしかならない。

「意外と荒っぽい王子さまだなぁ。でもそんなトコもギャップ萌えです!」

「キモいぞお前⋯⋯」

めげずに再び近付こうと試みるが、完全に警戒態勢に入った王子は、急いでその場から逃げようとする。

「あっ、だめ!!」

しかし一歩早く、逃がさんとばかりに僕はキツく王子の背中を抱きしめた。

「おいっ!?」

「ま、待ってください!僕は男だけど、顔は結構可愛い方だし、会って間もなくても、運命だと思えば別に⋯⋯」

「良くねぇ!おい、はなせ!俺はまだ仕事があるんだ!」

全く、貴重な時間が、とんだ災難に遭った。とブツブツと愚痴を漏らす王子。
どうやら仕事の休み時間に、彼はここで仮眠を取っていたらしい。

「そんな!せ、せめて名前だけでも教えてください!じゃないとはなしませんから!!」

「大原!大原聡一おおはらそういち!分かったらもうはなせ変態野郎!」

名を知り、キツく抱き留めていた両手をパッと離す。

「大原さん!また会いたいです⋯⋯!電話番号も教えてください!」

そんなナンパな言葉を無視し、大原さんはそそくさと公園から立ち去ろうとする。

「明日も!この時間にここにいますから!絶対!絶対来てください!!」

「……。」

そんな叫びも虚しく、大原さんは振り返ることもなくこの公園から姿を消した。

「あぁ⋯⋯。行っちゃった⋯⋯絶対、運命の相手なのに」

最後までこちらを振り向こうともせず立ち去った大原を見送り、僕はポツンと立ち尽くす。
暫くして、手に握っている物に目を落とした。

「ま、いっか。これがあれば、嫌でもここに来るだろうし」

手に握っていたそれは、スマートフォン。
先ほど大原さんに手を回した際に、胸ポケットに忍ばせて手に入れた、彼の携帯電話だった。

「それに、スケッチも中途半端だし。来てもらわなきゃ困る」

地面に放り出されたスケッチブックを取り上げ、数回はたき砂を落とした後、リュックに乱雑に仕舞う。

「ふふ、早く明日にならないかな」

るんるんとハミングをしながら、リュックに大原さんの携帯電話も詰め込む。
その代わりに、自身の携帯電話を取りだし、すぐに電話をかけた。

「もしもし湊?今から会えない?ヤるつもりだったのに逃げられてさ、今すっごいムラムラしてるんだよね⋯⋯え、バイト?何だよもう!⋯⋯⋯⋯あ、亮太が暇してる?おっけ、そっちに電話かけるわ⋯⋯何、バイト終わったらシたい?仕方ないないなぁ、高くつくよ?うん、ばいばい」

数分も立たないうちに通話を切り、僕は次の相手に電話を繋ぐ。

「あ、もしもし亮太?ーーーー」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...