つよくてもろい君たちへ

そうな

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第一部

齟齬

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 僕が健斗に振られたと言うことは学校中に瞬く間に広がっていった。僕には同情するような視線が向けられ、兄さんたちには「仲睦まじいカップル」という視線が向けられた。表立って白い目で見られたり、弟の恋人を寝取った、なんていわれないのも二人が人気者だからだろうか。
「まあアキならすぐ別の恋人できるだろ」
「そうそう、お前ってなんでもできるからなー」
 無責任な励ましは心に響きはしなかったけど、小さくお礼を言ってまたプールに飛び込む。感謝すべきは、今は水泳部が一番活動の盛んな夏だということくらいだろう。泳ぐことに没頭すれば面倒なことから逃避できる。聴きたくない声や視線から逃げるように、毎日プールに向かっていた。

「今日も居残り練か?」
「はい、鍵は僕がかけておきます」
 前は早く帰っていたけれど今は待ち人もいないので寮の門限ギリギリまで練習をする。プールに入るには適さない時間になれば陸に上がってストレッチや走り込みをする。最初は生徒にカギ締めをさせることに否定的だった先生も、いつのまにか任せて帰っていくようになった。
 元恋人と、今はその彼氏である兄はまたいっしょに期末テストの勉強でもしているんだろう。僕と兄さんの部屋で。

 二人はきっと僕がもう過去のことは振り切っていると思っているのだろう。平気で目の前で甘い会話を繰り広げる。そのたびに空間から消え去りたいと思うのに、外野の視線が逃げることを許してくれないような気がして、せめて小さく縮こまっていることしかできない。

「ねぇどうしてアキはいっしょに帰らないの?」
 悲しそうに言う兄にごめんね、と返した。なんだ、前は二人だけで帰ろうとしてたのに、今は一緒に帰ってもいいって?言えやしないけれど、兄の言葉は、もはや自分はどうでもいい人間に成り下がったのだと知らしめられているようで苦しかった。
「アキはまだまだいくつか大会もあるから練習忙しいんですよ」
 兄さんの肩に優しく手を置いた健斗は、恋人だった人たちがわかれたところで友情は消えないと信仰するタイプらしい。二人で僕を無視してくれた方が楽なのだと叫ぶこともできないで、あいまいな答えを繰り返す。
「うん、ごめんね兄さん」
 いっしょに帰るのは嫌だから、健斗の言葉に乗っかる僕も大概性格が悪い。
「そっか…アキは一人で帰るの大丈夫だもんね!」
「そうそう、元はどこで転ぶかわかんないもんなあ」
「ええ、そんなにうっかりしてないと思うけどなぁ」
 兄さんの、花が咲くような笑顔。この笑顔を直視できないようになってしまったのはいつからだろう?
 でも大丈夫。夏が終わるまでには前みたいな僕に戻れるはずだから。

 兄さんの荷物を持って、怪我や病気をしないかきちんと見て、世話をする。
 しっかり者で、誰からも信頼される僕に、戻らなければ。
 これまでずっとやってきたことだし……大丈夫、大丈夫。



 大丈夫、だよね?
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