8 / 31
第一部
決別 ※無理やり描写あり
しおりを挟む*無理やり描写あり
「あっ…ぅ…」
なんで、こんなことになってるんだっけ。
「はじめ…はじめっ」
「あっひぃっ…や…」
慣らされてもいない後ろから嫌な水音がして、内臓が破られているかのような熱い痛みが襲う。
いたい、いたい…頭の中がその感情に占領されて、何も考えられない。
「も……やめ…いぎぃっ!?ゔぅ……」
まだ高校に入る前にシた数回だけの行為は、どれも痛みもあったけれど、こんなにつらくなかったのに。
「ごめん…はじめ…愛してる」
自分の名前を呼ぶことのない元恋人は、自分の快楽を追うためだけに腰を動かした。謝ってるくせに収まらない欲望が徐々に張り詰めていくのが分かってぎゅっと目を瞑った。
いっそ痛みも何も感じない人形になれたらいいのに。
今日、部活から門限ぎりぎりの時間に部屋に戻ると、そこに兄さんはいなかった。熱を出してしまったので先生が病院へ連れて行ったらしい。
原因は、健斗と体をつなげたこと。
体の丈夫な人でも体には負担がかかる行為は、当然のように兄さんにはきついものだったのだろう。先に先生に連れられて帰ってきた健斗は、半ば八つ当たりのように僕を抱いた。
「なんで元は体が弱いんだ……!アキみたいに強ければ…俺だって……俺だって抱くたびに苦しませたくないんだ……!」
兄と元恋人の性事情なんて知りたくもない。僕が人形ではないのだと、痛みを感じ血も出る人間なのだと、どうして忘れてしまったのだろう。
「アキ…お前は大丈夫なんてずるいよな。なんで……元が健康だったらよかった……」
逃げを打つ体を引き寄せられてまた激痛が走る。
「元……愛してる…」
「ひっもう…健斗ぉ…」
いたい。目からこぼれた涙が、生理的なものなのか感情からくるものなのかもわからない。
「くっ…そろそろ…」
ひときわ強く腰をつかまれて、無意識に逃げようとする体を押さえつけられる。体の中に熱いものを感じて、彼が果てたのだと分かった。
健斗は僕から離れて、また兄さんの名前を呼んだ。
僕はそれを白み始めた視界の中で見つめていた。ああ、ようやく終わったんだ……
ガチャ
急にカギの回された音がして、静まり返っていた空間が現実に引き戻される。
「ただい…健斗……?あ、き?」
思っていたよりは顔色の良い兄さんは、呆然とした目でこちらを見ていた。
健斗は驚いたような顔をして、それから今の状況を自覚して真っ青になった。
「はじめっ、大丈夫だったのか?」
「け、健斗、なに、これ…」
動揺している兄さんを、健斗はきつく抱きしめた。
そのそばで僕は痛む体を無理やり起こす。惨めな姿を家族に晒したくなかった。
「ごめん、ごめん…俺、お前を抱くたびに体調悪くさせたらって思って…俺…元のこと愛してるから…」
「愛してるから?それなのにアキと…」
言葉を詰まらせた兄さん。
「ちがうっ!アキのことは好きなんかじゃない!でも、元とはシなくても幸せになるにはどうしたらいいかって考えてたらアキが…」
その言葉に、兄さんはようやく僕を見た。
ぼんやりと兄さんの目をとらえると、その瞳に今まで見たことのない憎悪がはためいていて、冷水を頭からかぶせられた気分になった。
「アキ…もうアキは健斗の恋人じゃないのに…おれが、体が弱いからって健斗の体は自分のものにしようと…」
「…ちがう」
「なにが?アキのことは健斗はもう好きじゃないって言ってるのに!今やってたのはそういうことでしょ!」
ちがう、健斗が帰ってきたときに、健斗自身が何を考えてたのかなんて知らないけど、僕はそんなむなしいことしたくない。健斗は、兄さんに負担をかけない程度に後腐れなく自分の欲をぶつける相手を探さなきゃって思ってたのかもしれない。
僕なら…僕なら、その気持ちを汲んでくれると……
ああ、馬鹿な男を好きになったなぁ、といっそのこと笑い出したくなった。寮のみんなにも聞こえるくらいに大きな声で笑ったら、誰かが飛び込んできてくれるかもしれない。
兄さんのことは気遣うのに、その弟にレイプまがいのことをして。
裏切られたことなんてない兄さんに、ひどい姿を見せちゃって、その口で兄さんを好きだという。
「はじめ…俺は本気で元を愛してるんだ…アキとはもう近づかない…だから、もう一回だけ…」
泣きそうな健斗の声。浮気男のすがり方そのものだなと、遠い過去にテレビで見た昼ドラを思い出した。
「…そんなの信じられないよっ」
あぁ、兄さんはもう泣いてるじゃないか。
健斗はまたきつく兄さんを抱きしめたかと思うと、今度は兄さんに深いキスをした。
「キスをしたいと思うのは元だけだ…アキとシてても、元のことしか考えてなくて…」
くだらないワンシーンの戯言一つにもこころがずきずきするのはなんでだろう。
はぎ取られた服をぎこちない動きで着ると、後ろの痛みに顔がこわばった。
そんな僕を、今度は二人で見てくる。
健斗は一瞬罪悪感をうつしたが、兄さんは汚らわしいものを見る目をしていた。所詮は似たもの兄弟なのだ、一度好きになった人間の悪いところときちんと向き合わないで他の要因に責任を押し付ける。僕だって、兄さんだって。
「どうしたの?お好きにやればいいでしょ。僕がいても勝手にさ」
自嘲的な響きが口からこぼれて、自分でもびっくりした。
兄さんは涙をこぼしたまま僕に近づいた。
「…なにっ」
自分でもきつい言い方になったな、と思った瞬間、頬を走った痛みに呆然とする。いま、兄さんは僕をたたいたのか。初めてのことばかりだな、となんとなく思って、呑気な自分に呆れる。
「出てって!健斗に近づかないで!アキがこんなことするなんて思ってなかった」
ちらっと健斗を見ると、健斗はもうこちらと目を合わせようとはしなかった。罪悪感があるのかもしれない。
健斗は調子のいいところはあるけど、こういうときに逃げるタイプだったなんて思っていなかった。つい数ヶ月前まで大切に思っていた2人に、こんな感情を向けられる日が来るだなんて知りたくもなかった。
だんだんと頭の中がごちゃごちゃしてきて、泣きたいんだか怒りたいんだかわからなくなってきた。
「もう、いいよ」
はっきり言ったつもりだったのに、思いのほか声は小さくて震えていた。兄さんはぐっと僕をにらみつけた。
大丈夫でしょう、兄さんも。
兄さんのためならほかに犠牲を出すこともいとわない彼氏がいるんだから。犠牲にされたこっちはたまったもんじゃないけど、でもいいよ。
「僕は大丈夫だから、もういいよ。出ていくから、あとはお好きにどうぞ」
「アキっ!」
あまり大声を出さない兄さんの僕を呼ぶ声はひっくり返っていた。兄さんのこんなに大きな声を聴くのはいつぶりだろう?まさか自分を責める声になるなんて想像もしていなかった。
痛む体を引きずって、扉に向かう。
荷物も何も持ってない。どこに行く当てもないけど、とにかく立ち去りたかった。
すれ違いざま、健斗はもの言いたげな顔をしていたけど、結局口を開くことはなかった。
大丈夫。
兄さんの体のことは学校のみんなも気にしてるから、何かあっても大丈夫。
僕も、きっと大丈夫。
この痛みが消えるころには、きっと大丈夫。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる