時の嵐の中で〜メッセージを受け止めて〜

夕妃

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終着

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目を開くと、オレンジ色の夕陽に包まれたお城のような廊下に私達は立っていた。
異様な雰囲気が漂っている。
気がつくと『石』が緑色に似たような光を放っている。
「早く姫と会わなくちゃ」
前を見て、歩き始める私に2人が話しかける。
「美沙希、先程言ってた『時間がない』ってどういう事ですの?」
「理沙と未奈は無事なの?」
「心配ないわ。理沙と未奈は『石』の力を浴びて気絶しただけ。…私の事は…」
そこまで言った時、『石』の光が強くなった。
扉のある右を向く。
「ここみたいね。入るわよ」
「えぇ」
「OK」

2人が力強く頷くのを確認して、扉を勢いよく開ける。
広い畳の部屋には、姫と《巫女姫》が対峙していた。姫は膝をついて、息も絶え絶えのようで辛そうに顔だけ上げて《巫女姫》を見つめていた。姫と同じくらいボロボロになりながら、姫の両脇を津薙と三若が泣きながら支えている。姫の帯留めの『石』が弱々しく光を放っている。
「姫!《巫女姫》見つけたわ!」
私達を横目で一瞥して、鼻で笑う。
『随分と早い事。わざわざ命を捨てに来るとは《姫巫女》といい、愚かな者達よ』
「私達は殺されに来たんじゃない!《巫女姫》あなたに本当の事を知って欲しくて来たのよ!」
利津と若葉に支えられながら、私は精一杯出る限りの声を張る。
『本当の事?何を訳も分からぬ事を口にする』
自信に満ちた顔。
「あなたは悪霊に乗り移られているだけ!《巫女姫》あなたの魂はあなたのものよ!」
私は心の底から叫ぶ。《巫女姫》の顔付きが変わったように見えた。自信に満ちた顔から歪む。
『うるさい!我はあの方に魂を委ねたのだ!そして、あの方は約束してくれた。《姫巫女》の魂を捧げ、その報酬として、わたくしの願いを叶えてくれると!』
取り乱し始める《巫女姫》。
「それは違う!あんたは今、引くに引けなくなってるだけだ!本当はわかってるでしょう?《姫巫女》様の事が好きなんだって!」
利津が《巫女姫》に向かって声を張る。若葉が続ける。
「ご自分の気持ちに正直になってくださいな!気が付いていらっしゃるのでしょう?今ならまだ間に合いますわ!悪霊に魂を委ねてはいけませんわっ!」
『違う…違う違う!我はこの女を憎んでいるのだ!こやつを葬り全てを手に入れる。我の事等かまうなっ!』
頭を抱えて振り乱し、顔を上げた《巫女姿》の目は真っ赤に染まっていた。
「いいえ!放ってなどおけないわ!私達はあなたを姫を助ける為にきたんだもの!利津、若葉!いくわよ!」
「おう!」
「ええ!」
支えてくれている2人から一歩前に出て、私は『石』に手をかざす。残っているありったけの力と姫と《巫女姫》を救いたいと思う気持ちをのせて。
利津と若葉も『石』に手を伸ばす。
『小賢しいわっ!全員まとめて葬ってくれようっ!』

《巫女姫》の身体に宿いし魔に告ごう
今より速やかに出ていかん事を
混沌の渦へ戻らず光の彼方へ導かれり

「悪霊よ!これで最後よ!」

言葉と共に『石』を《巫女姫》目掛けて投げる。
『石』が紫色の光を放ち、《巫女姫》を覆った。
《巫女姫》に取り憑いていた悪霊の叫びが聞こえた気がして《巫女姫》がその場に倒れる。

紫色の光が消えると白く光る『石』の中から球が出てきた。透き通るような紫色の光の中に真っ黒な物体がうにょうにょ動いていた。そして、すっと空に消えていく。
白く光る『石』は紫色の球の行方を見届けたかのようにその後3つに分かれて、すぅっと消えた。

がくんっ。
私は床に膝をつく。
「美沙希!」
利津と若葉が両方から私を支えてくれた。
「ありがとう。大丈夫。」
弱々しいのは承知していたが、笑顔で返す私。
何となくわかる。『石』に生命力を吸われてしまったかのように身体に力が入らない。それどころか自分の身体ではないみたいである。
《美沙希…》
「《姫巫女》様!」
前を向くと、津薙と三若に支えられながら、憔悴仕切った中にも嬉しさを感じる笑顔で姫が立っていた。
「姫…」
私も微笑み返す。
「大丈夫。《巫女姫》は気を失っているだけね」
横たわっている《巫女姫》を見て、頷く姫。
《ありがとう。本当にありがとう》
姫の頬に涙が伝う。
《美沙希のおかげで、津薙と三若も無事でおります。ですが、その為に美沙希に負担をかけてしまった…》
津薙と三若も深々と頭を下げた。
利津と若葉が、心配そうに私を見る。2人とも目に涙を溜めている。
「姫。《巫女姫》と仲良くね」
私は精一杯、笑いかけた。姫が頷く。
《ありがとう。あなた方を元の世界にお戻しします》

その前に…
そう言って、姫が帯留めの『石』に手をかざして私の胸元に反対の手を当てた。
美沙希…お元気で…
姫のそう言った台詞が聞こえたような気がして意識が遠くなる。


真っ白な壁に真っ白なカーテン。真っ白なシーツと布団に横たわる5人の側で葉月は泣いていた。
「みんな…どうしちゃったの?美沙希と利津と若葉は消えたと思ったら傷だらけで突然光の中きら現れるし、わけわかんない…しっかりしてよ~」
「ん…葉月?」
眩しそうに目を開ける理沙。
頭を下げていた葉月が、勢いよく顔を上げた。
「んー、ここどこ?」
寝ぼけたように目を擦りながら、身体を起こす未奈。
「理沙!未奈!気が付いたのね!」
「葉月…あたし達…」
「私が正気に戻れて、救急車を呼びに行って戻ったら理沙と未奈が倒れてて、美沙希と利津と若葉がいなくて、救急車の音が聞こえてきたら光に包まれて3人がボロボロで気を失ってて…」
混乱している葉月の説明に、状況が飲み込めない2人。
落ち着かせて、もう一度聞いた葉月の説明に2人の顔が凍りつく。3人が、まだ目覚めない3人に目を向けた時。
「んん…葉月?あぁ、戻って来ましたのね」
「若葉!」
若葉が目を覚まし、葉月達を認識する。
上半身を起こした若葉に3人が駆け寄る。
「若葉、私が救急車を呼びに行ってた間に何があったの!?」
若葉が葉月を見る。
「若葉、あたし達3日も寝てたらしい」
理沙の言葉に目を丸くする若葉。
「ねぇ、若葉。私達、美沙希が怪我した所までの記憶しかないの」
未奈が若葉の顔を覗き込む。
「…実は…」
複雑な顔で、葉月が教室を出て行ってからの事を静かに話した。
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