維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第17章 生まれと育ち

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一仕事終えた薫は、醒ヶ井にある近藤の別宅を訪れていた。

中庭に植えられた一本の紅葉の木は赤い葉で染められている。

お腹の膨らんだお孝は転ばないように一歩一歩ゆっくりと足を進めながら玄関まで薫を出迎えた。

「薫さん、いつもありがとう。」

お孝も臨月を迎え、まもなく子供が生まれる。

薫やお孝の生きていた現代と違い、子供を産むということは命懸けである。

近藤が自ら雇った女中の人が一日中家に詰めていたが、

気晴らしになるようにと薫は仕事の合間にお孝の所へ通い続けていた。

「体調は大丈夫?」

「うん、お腹の子も元気でよく私のお腹を蹴ったりするの。」

「早く出ておいでね。」

お孝のお腹を優しく撫でると、小さな足で蹴ったのかお孝のお腹が少しだけ飛び出たような気がした。

二人で顔を見合わせてフフフ、と笑い合う。



薫とはいくつも年が離れているはずなのに、今のお孝はとても大人びて見えた。

自分のお腹を愛おしそうにさする彼女は母親そのものだ。



こんな世界に飛ばされていなければ、私も母親になれたのだろうか。

袴に二本差しで武士の格好をしている薫には自分のお腹をさすることさえ許されないような気がした。



「ごめんください。」

聞き慣れた声が玄関から聞こえた。

お孝は誰だろう、と首をかしげるようにして立ち上がろうとしたが、薫はそれを制した。

「私が行ってくるから、お孝ちゃんは休んでて。」

薫は畳の上に置いていた刀を腰に差すと玄関へ向かう。



「いたのか。」

「お孝の様子を伺いに。」

玄関に立っていたのは土方だった。

手元には酒の入った大きな徳利。

近藤と飲む約束でもしているのだろうか。

しかし、土方はあまり酒を好まない。

だとしたら、どうして。



先達ての三条大橋での一件が関係しているのだろうか。



「客人だぞ。さっさと上がらせろ。」

あれこれと思案している薫に痺れを切らした土方は

徳利を薫に押しつけると我が家のようにずかずかと中へ上がった。

「お酒なんて珍しいですね。」

居間に繋がる障子を開けようとした土方の視線が薫を向いた。

「今宵ここは戦場になる。

上手い肴を用意しておけ。」


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