異世界猫カフェでまったりスローライフ 〜根暗令嬢に憑依した動物看護師、癒しの猫パラダイスを築く〜

きよぴの

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第1部 伯爵邸での日々

セシリアの尾行と、張り巡らされる罠

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​セシリアは、アイリスの異常な変化の裏に、自分の優越感を脅かす何かがあると確信していた。彼女の傲慢な正義感は、すぐに具体的な行動へと移った。

​(お姉様は、早朝と夕食後に必ず裏庭へ向かう。使用人のサイモンやガスパーと接触しているのは間違いないわ)

​翌日の早朝。まだ夜の冷気が残る時間帯、セシリアは誰も気づかないよう、地味な外套を羽織り、アイリスの尾行を開始した。

​アイリス(梓)は、何も知らない様子で、いつものように裏の物置小屋へと向かう。

​(今日も始めたわね。一体、あんな薄汚れた場所で、何を企んでいるの?)

​セシリアは、物置小屋の近くにある、使われなくなった温室の陰に身を潜めた。

​物置小屋の内部からは、小さなすり鉢で薬草を砕く音、油を煮詰めるような熱源の音、そして、サイモンやガスパーとアイリスの、真剣な話し声が漏れ聞こえてくる。

​(よし、石鹸の熟成は順調ね。今夜は、ハンドクリームに使うラヴィ・ハーブを、少し多めに摘み取っておきましょう、サイモン)

​(承知しました、お嬢様。その油の温度であれば、分離することなく均一に混ざります)

​セシリアは、心の声が聞こえないため、彼らが話す内容の半分も理解できなかったが、聞こえてくる単語—―「油」「ハーブ」「熟成」「温度」—―は、どう考えてもなにかの製造に関わるものだった。

​(まさか、お姉様、裏で何かを作っている?それが、ハンナの手が滑らかになった理由?そんな卑しいことを!)

​貴族の娘が、使用人と組んで裏で物を生産するなど、セシリアにとって想像を絶する「名誉を汚す行為」だった。

​セシリアの尾行は、三日間にわたって続いた。彼女は、アイリスが物置小屋とその奥の薬草園、そして厨房の蒸留器の間を行き来していることを突き止めた。

​(これは、ただの趣味ではないわ。サイモンとガスパーを巻き込んで、組織的に何かを販売している。このまま放置すれば、ローウェル家の名前に傷がつくわ)

​セシリアは、傲慢な優越感から、事態をこれ以上見過ごすことはできないと判断した。

​「お姉様、貴女の卑しい秘密は、私が暴くわ」

​セシリアは、父である伯爵や伯爵夫人を頼ることは、自身の評判を落とすと考えた。彼女が真っ先に頼ったのは、彼女を「光」として崇める、アラン殿下だった。


​その日の午後、セシリアはアラン殿下に秘密裏に連絡を取り、屋敷近くの別邸で会う約束を取り付けた。
​アランは、セシリアの優雅な姿を見て、心の声で満足感を示す。

​(ああ、やはりセシリアは完璧だ。それに比べて、あのアイリスは……早く婚約を破棄したい)

​セシリアは、涙ぐむ演技をしながら、アイリスの「名誉を汚す行為」を報告した。

​「殿下、わたくし、心を痛めております。お姉様が最近、サイモンやガスパーといった下賤な使用人たちと裏で接触し、何かを製造・販売しているようなのです」

​「製造?販売だと?」

アランの表情が変わった。

​「はい。早朝から裏の物置小屋にこもり、『油』や『ハーブ』といった単語を話しているのが聞こえました。殿下との婚約を控える身でありながら、そのような卑しい商売に手を出すなど、ローウェル家だけでなく、殿下の名誉をも傷つけることになります!」

​セシリアは、アイリスを陥れることで、自分の株が上がり、殿下との関係が深まると確信していた。
​しかし、アラン殿下の心の声は、セシリアの予想とは全く違う反応を示していた。

​(裏で商売?まさか、あのアイリスが。……待て。もし、彼女がこの件で多額の資金を稼いでいるとしたら?それは、我が軍事資金に回せるのではないか?そして、彼女の商売がローウェル家の鉱石の価値に影響を与える前に、抑え込まなければならない!)

​アランは、表面上はセシリアに感謝し、優しく抱きしめた。

​「セシリア。よく知らせてくれた。君の家族への愛は、深く尊いものだ。心配するな、私が全て解決しよう。彼女の行動は、王族への重大な反逆行為だ」

​アランは、優雅な笑みの裏で、アイリスの商売を乗っ取ること、そして、それがローウェル家の鉱山に結びつく前に、彼女を完全に抑え込むための冷酷な計画を立て始めた。

​梓が築いた小さな工房は、アラン殿下の陰謀の網に、絡め取られようとしていた。
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