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第1章「普通」
第8話
しおりを挟む「…なさいってば!」
何故だか揺れているような感覚がある。
そして上空から誰かの声が聞こえる。
さっきのは夢?
夢だとしたら、あの二人は一体……?
「いい加減に起きなさぁぁぁい!!」
その叫び声で朦朧としていた意識が一瞬にして呼び戻され、「ひぃっ?!」と声を上げてしまった。
上手く状況が把握出来ないが、見上げるとカナコの顔がそこにはあった。
「まったく…私これでも体力には自信ないんだから」
息を切らしながら呆れたようにカナコは呟いた。
そして突然立ち止まり、お姫様抱っこしていた私をやや乱暴に降ろす。
しかし、降ろすしても尚、カナコは私の手だけは離さず、そのまま走り出した。
よく分からないが、私が気を失っている間、カナコは私を抱えながらずっと走り続けていたようだ。
だから起きた時にあんなに揺れていたのか……。
突然のことで身が寄ろけるも、私も取り敢えずカナコにつられて、走り出す。
「あの、一体どういう状況ですか…?」
全く持って現在の状況が理解出来ず、問い掛けた。
気絶する前の記憶を思い出そうと、頭をフル回転にさせる。確か、山頂から落とされて、カナコに助けられて……。
そうだ、実乃梨に殺されかけたんだった……!
「説明は後!今は走りなさい!
それから、絶対に私の手を離してはダメ!」
そう言われた直後、カナコの手を握る力が強くなっていくのを感じた。
山を下り、街に出てからもカナコは足を止めることはなく、気が付けば一駅分走っていた。
その光景はまさに衝撃的だった。
辺りはすっかり真っ暗で、周囲はこれから帰宅するスーツ姿の社会人ばかりが歩いている姿がうかがえた。
しかし、その人達は身動き一つも取らずに止まったままなのだ。
全く微動だにしない。皆息すらし忘れているのではないかとさえ思う。
ただでさえ真っ暗な夜なのに、周りが無音なので、街の中にいるはずなのに不気味さを感じた。
それからようやくカナコから解放され、公園で走り切ったせいかお互いにその場で崩れ落ちた。
カナコの手を離した瞬間、周囲の人々が一斉に動き始めた。
雑音が轟き始め、やっと街らしさが戻った。まるでさっきまで時が止まっていて、今ようやく時が動き出したみたいだ。
「な、なんで…っ、こんなにっ、走ったんですかっ…?!」
私は息を切らしながら今まで不思議に思っていた疑問をぶつけた。
しかしカナコの方も息を切らしており、すぐに答えが返ってこなかった。
「あの子、操られていたのよ。」
数分経ってもなお、息を整えながらカナコは告げた。
カナコの指す”あの子”って……実乃梨のこと?
操られてたって誰に?マインドコントロール的な感じなの??
聞きたいことがあり過ぎて、何から質問していいのか分からない。
それを察したのか、カナコは私の困惑した顔を見て、立ち上がった。
「聞きたいことが沢山ありますって顔してるわね。
せめてベンチに座りながら話をしましょう。」
そう告げると、カナコは私に手を差し出した。
差し出された手を掴み、立ち上がると、久々に全力で走ったからか足がプルプルと小刻みに震え、悲鳴を上げているのを感じた。
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