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後輩ちゃんの親友

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「すみません、ありがとうございます」
「どういたしましてー」

 あれから僕たちはお姉さんと一緒に館内へ戻ってきていた。

 少し話して分かったことがあった。
 彼女はやっぱり央光おうこう医療大学から見学に来た3年生らしい、しかもかなり優秀な。

「それで、君たちはこれからどうするの?」

「もうお昼なので、一旦休憩室に行ってから担当の看護師さんが戻ってきてくれるのを待ちたいと思います」
「......ん」

 るなちゃんもコクコクと頷いてくれた。

「じゃあ一緒に行って待とっか!」
「いえいえ、お気になさらないでください」
「いやいや、ここまで来たら最後までちゃんと送るよー」

 この人お人好し過ぎないか?  ...一緒に居てもらった方がるなちゃんも安心できるし、居てもらおうかな。

「ありがとうございます」
「いいえー!」

 そんな会話をして5分後、僕たちは休憩室に着いていた。

「担当の看護師さん居ない?」
「居ないですね」
「じゃあ入れ違いにならないようにここで待ってよっか」
「そうですね」
「......うん」

 そう言ってくれた矢先に廊下の方から小さく僕の名前が聞こえた。

「奏汰くーん!  ──あっ!  いた!」
「静華さん!  神崎さんまで!」


「ん......え...なん...?」
 彼女は驚いてその場に立ち尽くしてしまった。


「どこ行ってたのー!?  もー!  心配したんだから」
「ごめんなさい...」

「あっ......私...が......誘っ...て......庭...園......に...」
「るなちゃんが誘ったのー!?  大丈夫だったー?」

 あれ...?  私の知ってる神崎かんざき雪希子ゆきこさんじゃない......

 静華さんは奏汰に、神崎さんはるなちゃんに話しかけ心配している様子で頭を勢いよく撫でられた。

「奏汰......と...一緒だっ......た...から...大丈夫......」
「良かったー!  部屋に行っても居ないから探してたんだよー」

「ごめ......なさ...」
「いいよー!  あんまり気にしないでね。元々こっちが悪いんだから」

 そう言いながらるなちゃんの体を両手で優しく包み込み、落ち着きを保たせる神崎さん。


 今思えば確かに、庭園だって病院の敷地内だし大丈夫だと思うんだけど。
 ......もしかして2人って結構過保護なのかな?

 あっ、でも基本移動する時とか庭園に行くってなったら肋骨と右足折れてるし看護師さんがついて行かないと部屋みたいにナースコール無いし危ないよね。そこは反省。

「すみません、神崎さんですよね?  さっき試験を見てくれた」

「あっ、はい。そうですけど...あなたは......!?」


「静華さん!  この子ですよこの子!」
「すみませんが今は奏汰くんを堪の......って!  もしかして咲苺わらめ佳子かこちゃん!?」

「なんで北条さんが私の名前を...?」
「ちょうどいいわ!  聞きたいことがあったの!」
「え、いや......」

 勢いが凄い......お姉さんも少し引いてるじゃん。

 あっそういえばお姉さんの名前まだ聞いてなかった、咲苺 佳子さんって言うんだ。凄い苗字だ。

「ちょっ...ちょっと待って静華さん。咲苺さん引いてるから......」
「あっ!  ごめんなさいね」
「いえいえ...何か話があったんですよね」
「そう!  そうなのよ!」

「まぁまぁ落ち着いて、お昼ご飯食べながらでもゆっくり話しましょ?」

「それもそうね、奏汰くんとるなちゃんもお腹すいてるだろうし」
「......うん...すい......た...」
「僕もです」

 僕はいいけど咲苺さんは多分時間が...

「すみません、私はじゃあ理事長に許可を取りに行ってきますね。望みは少ないと思いますけど...」

 咲苺は少し言いづらそうな顔をして口を開き静華さんに話した。


「大丈夫!  そうですよね、理事長先生?」
「ああ、昼食を食べ終わったら央光《おうこう》に戻ってくるんだよ」

「えっ!  理事長?  ...ありがとうございます!」

 静華さんが名前を出した瞬間咲苺は後ろに振り向き、お礼を言った。

「ということで行きましょうか、食堂へ!」
「はい」


こうして5人は食堂へ歩き始めた。
そこで1つの話題が上がった。

「咲苺さんって病院食初めて?」
「そうですね、入院など大きな怪我はしてないので今回が初めてです」

 そう、初めての病院食。
 央光医療大学の近くでここの病院もかなり評判いいから、食事制限のある病気とかになってなかったら普通に美味しいものが出てくるはず......

「お口に合うかどうかは分からないけど普通に美味しいと思うよ」
「そうなんですか。病院食って栄養第一の食事みたいなイメージでしたけど」

「それもそうだが作ってる側からしたらかなりの美味しさで作ってるぞ。...味は少し薄いが」
「ん......もしか...して......前の...お味噌汁...」
「そうそう、作ってたよ」

 やっぱり作ってたんだ。病院食の中ではまた食べたいと思えるぐらいには美味しかったなー。

「あっ、着きましたよ食堂」
  

 病院食を初めて食べる咲苺は緊張していた。
 なぜなら、3年連続十二光じゅうにこうに入った天才が3人中2人いるのだから。
 それに初対面の2人の子供。何かの試験と疑ってしまうのも無理はない。

 咲苺の心の中で色んな気持ちが入り交じっておかしいぐらい緊張していたのだった。
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