貧乏から貧困、その先。

護茶丸夫

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03 それでも厳しい

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 昨日の夜飛び込んできた親友とその義父を連れて、村長の所へ向かう。

 道すがら親友の親父さんと、何人かに声をかける。
 ぞろぞろと押しかける形になってしまったが、村長にはその方が良いだろう。

 村長って言っても、少し年の離れた兄貴みたいなモンだった。
 兄貴はちょっとした事でも、仲間外れになるのを嫌がった。
 そして誰かが仲間外れにならない様に、いつだって気を付けてた。
 おっさんになってもそれは変わらなかったし、村長に選ばれても変わらなかった。

 元気だった兄貴のズタボロな姿なんて、見たくない。
 尊敬できる兄貴のまま変わらないのが、余計に辛い。

 案の定すぐさま村長の家の中に通された。
 軽く説明すると、隣村に婿や嫁に出した家の人間も呼ぶように言われた。

 待ってる間、村長の怪我の状態をたずねる。
 保護してすぐに商会で知り合いの医者に見せ、いい薬を分けて貰ったらしい。
 それでも厳しいというのは、子供でも分かる。
 こうやって話が出来ただけでも、良かったと考えよう。

 急だったが、各家族の一人ずつは集まり、それぞれ床や椅子に座る。
 親友が、重い口を開く。

「ウチの村長な、税金が払えない家から順に、人買いに村の人間を売り飛ばしてたんだ。」
「今年の春に税の徴収が会った時、村長に借金があった家から人が減ってたんだ。初めの内は『出稼ぎ』だの『奉公』なんて言ってたんだけどよ……。さすがに年寄り一人残しては、家を空けないだろ……。」
「家に残った年寄りを一人にはさせられん。家で寝泊まりさせてたら、本当の事を話し出したんだ。」

 親友の義父は、辛そうに続けて話し出した。
 ギルは耐える様に膝の上のこぶしをぎゅっと握り、顔を上げて話を聞いている。

「犯罪以外の奴隷は違法だ。その違法を村長が行っている、それで町の役人に訴え出たんだ。もちろん村民の保護も含めてお願いした。」
「ところがだ。村長とその家族は町に連れて行かれたが、村民の保護に関しては『身内が買取するように』と、聞きとめて貰えなかった。」

 ギルの義父はそこで一度息を吐き、片手で額をこする。
 鼻と耳が赤くなり、涙をこらえるための動作なんだと分かった。

「村長の家に合った物はほとんど押収されて、今は何もない。どこに売られてしまったのかも、わからないままだ。町で役人に問い合わせると『町長一家はすでに処分した、財産は没収』それで終わりだ。」
「今、村には十一世帯の三十六人しか残っていない……。」

 何かを聞きたそうにしていた村長にかわり、アルバートがたずねる。

「さすがに、少ない気がするのですが。」
「ほとんどが家族を探しに町に行ったよ。みな、まだ戻ってこない……。」

「う、うちの娘は。嫁に行った娘は、モリーは無事なのか?」
「ああ、モリーは旦那が出稼ぎ、だと言っていたが、爺さんと一緒に旦那を待ってるよ。」
「すまんが、家の息子の事は……。」
「何と言うか。先月、ばあさんが逝っちまった。ちゃんと三人は村に残ってるよ。知らせるのが遅れてすまない。」

 話ながら、鼻をすすり額をこする手が止まらない。
 急にギルが、村長とアルバートに頭を下げた。

「兄貴、アルバート、あっちの村のみんなを助けてくれ。頼む。」

 ギルの義父が、慌てて周囲に向かって首を振る。
 義理の息子の腕を捕まえて、言い聞かせる。

「違うんだ!駄目だ!」
「でも、みんなこのままじゃ死んじまう!狩人のおっさん達だって、まだ戻って来てないんだ!」
「こっちの村の人間だけでも、戻したいから受け入れてくれって話だっただろ!」
「もう食うもんもないのにっ!」
「それでも、駄目だ!この村の人数の方が多いんだ!迷惑だ!」
「なんで!親父さん達も一緒にこっちで暮らそう!」
「駄目だ!俺は村に帰るぞ。お前はここで皆と暮らすんだ!」

 二人が怒鳴り合うのを、黙って見ているしかなかった。
 確かにこっちもギリギリだ。
 次の春には、もう。

 ゆっくりと、包帯代わりの布をあちこちに巻かれている村長の腕が上がる。
 アルバートが、村長の口元を見て頷く。

「お二人とも、いいですか?」
「ああ! す、すまないっ。」
「っ! あ……。」

「空き家が、二軒。小屋が一軒あります。お年寄りだけの世帯は、ウチで預かります。いいよね、父さん?」
「ん」

「では、トム兄とギル兄は向こうに迎えに行く人を集めて下さい。女性陣は空き家の手入れをお願いします。指示は叔母さん、お願いします。」
「わかったよ、兄貴の事はこっちで任せな! あんたも行って見ておいで。」
「っ! はい、わかりました。」

 きびきびと動き始めるアルバートとアンリに、ポカンとしたギルの義父。
 状況を把握した途端に、我慢できなくなったのか涙を流し始めた。

「ありがとうっありがとうっ!」
「ちょっと、お礼を言うのは早いよ!動ける奴はこれからもっと、動いてもらうからね!」
「もちろんだ!何でもやってやるさ!」
「無理しすぎても後から動けなくなっちまうよっ。さぁ、顔を洗ってきなよ!」

 アンリは笑いながら、ギルの義父の背中をバンバンと叩く。
 少しだけ、家の中が明るくなった様に感じたのは気のせいではないと皆が思った。
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