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顔合わせと加護 9
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現役聖女様達に会うために移動。
テクテクとマーガレットと手を繋ぎ、ハイジさんと並んで歩く。
今は神殿の広い中庭から、建物の外周を回っている。
移動先は神殿の奥、森の入り口。
聖獣様達が暮らす聖なる森に接する場所で、人間はそこまでしか入れないらしいけど。
「その奥は聖域か何かなの?」
ハイジたんに訊ねる。
『いいや。ただ単に人が入るには厳しい森というだけじゃよ?』
「そっか、じゃあ入っても罰があるとかではないのね。」
『なんじゃ、入ってみたいのか? それならば一人で行くのはやめておくのじゃ。』
「ありゃ? 何かあるの?」
『あると言うか、いると言うべきかの。』
「んもー、じれったい。何よー。」
「私も気になります! 何か恐ろしい事が起こるのでしょうか?」
私とマーガレットが、中々話したがらないハイジに食い下がる。
ふと人の気配の少なさに気が付くと、侍女さん達は声が聞こえない距離まで離れている。
ちょ、ま。
タイミングよく後ろを歩く、スノウィワールドが呆れた声で答えた。
『人間種より大きな虫が出るぞ。お前たちは虫は平気か? 我は足が多いムカデは好きではない。』
『我は、いやハイジは、木の棒の様な細っこいのが苦手じゃ。気味が悪い!』
『おお、アレはビックリするな! 近寄っても気配が無いのに急に動く。幼き時に見つけた時は、良くおもちゃとしたが。』
『われ、ハイジもそうであった。あと、飛ぶものは蝶以外は嫌じゃ。羽音がうるさくてかなわん。』
『確かに。あれらが人里に降りれば大騒ぎになる。人の幼きものが犠牲になるのも憐れだ。』
『大人しく草木や虫同士で喰らいあっておれば良いものを。 バッタ共は面白いがな。』
『ははははは。今でも良い運動になっておるようだな。』
『うむ。アレの飛ぶのも五月蝿いが、面白い故我慢も出来る。肉食はたまにしか出ないしの。』
……。
森コワイ。
そういえばこっちに生まれて、虫は見た事が無い。
いや、ハエは見たけど、大きさは変わらなかったハズ。
あとは本かな。
絵のついた図鑑があって、なるべく見ない様にしてた。
虫の言葉が出た時から、マーガレットの足が止まっている。
(ムシ、イモムシ、トゲトゲイモムシ、茶色い足のモガモガ動く虫……。)
視線を向けると頭の中で、虫の名前を繰り返してるのがわかった。
あ、これトラウマあるやつだ。
定番の男の子からのいたずらで、枝の先にいるのを見せられたってやつかな?
『ベロニカ、ハエもいるぞ。種類は違う故、大きさが違うのは当たり前じゃろう。』
『他にも人里より大きなものも多いぞ。そうだな、イタズラならば。必ず皆が悲鳴をあげるのが、黒い羽根の……』
もしや、この世界にもアイツがいるのかっ!
人を恐れず向かってくる、黒いアイツが!
「ダメ! これ以上はダメ! 聞きたくない!」
『なんじゃ? あの触角が長い足の棘が多い……』
まーちーがーいーなーいー!
「ハイジ、ストップ! ステイ! お願い!」
『意味はわからんが、喋るなという事じゃな?』
『やはり人間種は虫が駄目なんだろう。可哀想に、二人とも泣きそうになっておる。』
『森に一人で入ってくれるなよ? どうしてもという時は、わ、ハイジも一緒に行ってやるゆえ。』
うん、二度と森に入ろうなんて言わないから、安心して?
絶対何があろうと、決して森には行きません。
フラグじゃないからっ。
マーガレットと二人で手を握り合って、震えているのを慰められた。
戻ってくる侍女さん達を見る目が、ジト目になってるのがわかる。
みんなが離れたのは、アレの話を聞きたくないからって急いで離脱したのね!
ふふふ。どこでもアイツは嫌われてる……。
しかも大きいとか、ないわ……。
……人里より大きい?
まって、こっちの犬や馬は向こうと特に変わらない。
でも、聖獣様達は大きい。
その感覚で、考えてみたら……。
しばらくは無言で歩いた。
『ベロニカ、ハイジの事が嫌いになったのかえ?』
ハイジたんがしょんぼりしてる。
両耳がペタンと下がって、おヒゲまで力なく下がっている。
目の高さがそんなに変わらないから、表情が良く見えて分かりやすい。
その後ろに、同じ様な顔でしょんぼりしてるスノウィワールドが見える。
マーガレットと頷きあい、それぞれに聖獣様の首に抱き付き、大好きを伝える。
ハイジたんは悪くないんだよう。
心配させてごめんね、ハイたん。
すべてはあの、黒いアイツが悪いんだよ。
『ふふふふ。ハイジの愛称が増えた。ハイジは自分の事を、ハイタンと言うべきかの?』
「我ってのもカッコイイけど、練習中のハイジって言うのも可愛いからね。」
『ベロニカは、どちらが良い? 我はベロニカが良いようにしてやりたい。』
「ハイたんは私だけが呼びたいなぁ、どうかな?」
『相分かった。そうしよう。』
ふふふんと聞こえてきそうなくらい、ご機嫌なハイたん。
アゴが上がってますよ。
はいはい、撫でましょうね~。
「そういや、何でハイたん、のじゃ侍言葉なの? 誰から習ったの、それ。」
『はて、のじゃサムことばはわからぬが、幼い時に鳥の長老から教わったのじゃよ。かわゆきムスメごはかように喋るが最も正しい、とな。』
「鳥の長老ぇ……。」
『おかしいかの? さすがにベロニカの頼みであっても、すぐには変えられぬ。』
「いやいやいや。無理しなくていい。変えなくても、うん。ハイたんはどっちでも可愛い!」
えへへ。照れて慌てて毛づくろいしてる姿も可愛い。
ぼかぁー幸せだなぁー。
さてさて、先輩方にはどんな人がいるんだろうね。
ハイたんがいるから心配ないけどねっ!
『のう、スノウィワールドよ。あれがタラシと言うやつかの?』
『ううむ。マーガレットも似たような事を考えておる。二人ともタラシなのかもしれぬ。』
テクテクとマーガレットと手を繋ぎ、ハイジさんと並んで歩く。
今は神殿の広い中庭から、建物の外周を回っている。
移動先は神殿の奥、森の入り口。
聖獣様達が暮らす聖なる森に接する場所で、人間はそこまでしか入れないらしいけど。
「その奥は聖域か何かなの?」
ハイジたんに訊ねる。
『いいや。ただ単に人が入るには厳しい森というだけじゃよ?』
「そっか、じゃあ入っても罰があるとかではないのね。」
『なんじゃ、入ってみたいのか? それならば一人で行くのはやめておくのじゃ。』
「ありゃ? 何かあるの?」
『あると言うか、いると言うべきかの。』
「んもー、じれったい。何よー。」
「私も気になります! 何か恐ろしい事が起こるのでしょうか?」
私とマーガレットが、中々話したがらないハイジに食い下がる。
ふと人の気配の少なさに気が付くと、侍女さん達は声が聞こえない距離まで離れている。
ちょ、ま。
タイミングよく後ろを歩く、スノウィワールドが呆れた声で答えた。
『人間種より大きな虫が出るぞ。お前たちは虫は平気か? 我は足が多いムカデは好きではない。』
『我は、いやハイジは、木の棒の様な細っこいのが苦手じゃ。気味が悪い!』
『おお、アレはビックリするな! 近寄っても気配が無いのに急に動く。幼き時に見つけた時は、良くおもちゃとしたが。』
『われ、ハイジもそうであった。あと、飛ぶものは蝶以外は嫌じゃ。羽音がうるさくてかなわん。』
『確かに。あれらが人里に降りれば大騒ぎになる。人の幼きものが犠牲になるのも憐れだ。』
『大人しく草木や虫同士で喰らいあっておれば良いものを。 バッタ共は面白いがな。』
『ははははは。今でも良い運動になっておるようだな。』
『うむ。アレの飛ぶのも五月蝿いが、面白い故我慢も出来る。肉食はたまにしか出ないしの。』
……。
森コワイ。
そういえばこっちに生まれて、虫は見た事が無い。
いや、ハエは見たけど、大きさは変わらなかったハズ。
あとは本かな。
絵のついた図鑑があって、なるべく見ない様にしてた。
虫の言葉が出た時から、マーガレットの足が止まっている。
(ムシ、イモムシ、トゲトゲイモムシ、茶色い足のモガモガ動く虫……。)
視線を向けると頭の中で、虫の名前を繰り返してるのがわかった。
あ、これトラウマあるやつだ。
定番の男の子からのいたずらで、枝の先にいるのを見せられたってやつかな?
『ベロニカ、ハエもいるぞ。種類は違う故、大きさが違うのは当たり前じゃろう。』
『他にも人里より大きなものも多いぞ。そうだな、イタズラならば。必ず皆が悲鳴をあげるのが、黒い羽根の……』
もしや、この世界にもアイツがいるのかっ!
人を恐れず向かってくる、黒いアイツが!
「ダメ! これ以上はダメ! 聞きたくない!」
『なんじゃ? あの触角が長い足の棘が多い……』
まーちーがーいーなーいー!
「ハイジ、ストップ! ステイ! お願い!」
『意味はわからんが、喋るなという事じゃな?』
『やはり人間種は虫が駄目なんだろう。可哀想に、二人とも泣きそうになっておる。』
『森に一人で入ってくれるなよ? どうしてもという時は、わ、ハイジも一緒に行ってやるゆえ。』
うん、二度と森に入ろうなんて言わないから、安心して?
絶対何があろうと、決して森には行きません。
フラグじゃないからっ。
マーガレットと二人で手を握り合って、震えているのを慰められた。
戻ってくる侍女さん達を見る目が、ジト目になってるのがわかる。
みんなが離れたのは、アレの話を聞きたくないからって急いで離脱したのね!
ふふふ。どこでもアイツは嫌われてる……。
しかも大きいとか、ないわ……。
……人里より大きい?
まって、こっちの犬や馬は向こうと特に変わらない。
でも、聖獣様達は大きい。
その感覚で、考えてみたら……。
しばらくは無言で歩いた。
『ベロニカ、ハイジの事が嫌いになったのかえ?』
ハイジたんがしょんぼりしてる。
両耳がペタンと下がって、おヒゲまで力なく下がっている。
目の高さがそんなに変わらないから、表情が良く見えて分かりやすい。
その後ろに、同じ様な顔でしょんぼりしてるスノウィワールドが見える。
マーガレットと頷きあい、それぞれに聖獣様の首に抱き付き、大好きを伝える。
ハイジたんは悪くないんだよう。
心配させてごめんね、ハイたん。
すべてはあの、黒いアイツが悪いんだよ。
『ふふふふ。ハイジの愛称が増えた。ハイジは自分の事を、ハイタンと言うべきかの?』
「我ってのもカッコイイけど、練習中のハイジって言うのも可愛いからね。」
『ベロニカは、どちらが良い? 我はベロニカが良いようにしてやりたい。』
「ハイたんは私だけが呼びたいなぁ、どうかな?」
『相分かった。そうしよう。』
ふふふんと聞こえてきそうなくらい、ご機嫌なハイたん。
アゴが上がってますよ。
はいはい、撫でましょうね~。
「そういや、何でハイたん、のじゃ侍言葉なの? 誰から習ったの、それ。」
『はて、のじゃサムことばはわからぬが、幼い時に鳥の長老から教わったのじゃよ。かわゆきムスメごはかように喋るが最も正しい、とな。』
「鳥の長老ぇ……。」
『おかしいかの? さすがにベロニカの頼みであっても、すぐには変えられぬ。』
「いやいやいや。無理しなくていい。変えなくても、うん。ハイたんはどっちでも可愛い!」
えへへ。照れて慌てて毛づくろいしてる姿も可愛い。
ぼかぁー幸せだなぁー。
さてさて、先輩方にはどんな人がいるんだろうね。
ハイたんがいるから心配ないけどねっ!
『のう、スノウィワールドよ。あれがタラシと言うやつかの?』
『ううむ。マーガレットも似たような事を考えておる。二人ともタラシなのかもしれぬ。』
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