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第三章 ダンジョン
幕間 ギルベルトの活躍?
しおりを挟む俺は、ギルベルト。皇太孫のユリウスやライムバッハ辺境伯の第一子であるアルノルトと同級生だ。
正直な話、アルノルトと同級生になれたのはラッキーだと思っていた事もあった。
実際の所は、どうだろうと思えてしまう事も多い。総合的に見れば大幅なプラスで動いているのだろう。特に、実家の商会は”ここ数年”大きくなっている。全部アルのおかげだ。オヤジが言うには、最初は玩具の売上が大きかったが、最近では”燻製”の売上がすごいことになっていると言われた。
オヤジの商会で売り出した所、川や海が近くにある貴族からの引き合いがすごい事になっているようだ。その上、燻製器を使って作られた物をオヤジが買い取って王都に輸送させて直営店(アルのアイディア)を開いた。
魚の燻製は、最初は作っているところを見なければ、忌避されるだろうと考えた。アルの意見を聞いて、”試食”を行えるようにしたら、冒険者だけではなく王都の住民から始まって貴族のお抱え料理人たちにも売れるようになった。
直営店では、”イートインコーナー”を作ってその場で燻製にした物を調理して食べる事ができる場所を作った(アルの提案)。
イートインコーナーがまた当たった。
新しい調理方法や料理教室を開いたりするアイディアを実行した所、予約待ちの客ができるほどだ。
その上で、従業員にスラム街の孤児を雇って欲しいと言われた。俺も当初は反対した。従業員として考えるのは無理があると思ったのだ。他の事業がアルの意見を聞いて成功していることを考えて1つくらいダメものでやってもいいだろうと思って実行に移した。アルの提案に従って、風呂を作って働く前に風呂に入ってもらって、皆が同じ衣装/服を着る様にした。最初は、イートインコーナーではなく、近くにドリンクスタンド(アルの提案)を作ってそこで働いてもらった。
スラム街の孤児はたしかに文字を読んだり書いたりできなかった。計算も殆どできない状況だったのだが、アルがそれなら商品で調整すればいいと提案してきた。
料金は、全部大銅貨一枚。ドリンクメニューとしてはちょっと高めの設定にした。軽食とドリンクでの値段だ。そして、アルのすごい所はドリンクや軽食のトレイを店に返しに来てくれたら、銅貨一枚を客に返却する事にしたのだ。そうする事で、実質的には、銅貨9枚で飲み食いできるようにした。その上、計算ができなくても、トレイを渡す時に大銅貨を一枚もらって、トレイを受け取る時に銅貨を一枚返す。計算ができなくても大丈夫だ。そして、トレイの回収を行う人員を減らす事ができた。
それに、孤児の中から絵が上手な奴が居て、アルがその娘に商品を絵で説明する様に書いてもらったメニューが当たった。字がよめない人は意外と多い。その人達にもわかりやすい商品説明ができるようになった。
孤児たちは俺たちの予想をいい意味で裏切った。すごく有能ですごく働いてくれる。オヤジや古参の従業員がすごく驚いていた。今までの常識では考えられないと言ってきたほどだ。
仲良くなった孤児に話を聞いたら、しっかりご飯を食べさせてくれて(アルの提案)、かわいい/かっこいい制服を着て、しっかり給金がもらえる仕事だし、余った食材は安く売ってもらえて家族も喜んでいる。だから、自分たちは雇い主の為にしっかり働くのだと胸を張って答えてくれた。
正直嬉しかった。涙が出そうになったのを覚えている。商会だから、金儲けは当たり前だし当然の行為だと思っていた。しかし、感謝される事がこれほど嬉しい事だとは思わなかった。
孤児を使った商売の噂が広がって、他でも真似しようとしたのだがうまくいかなかった。理由は様々だが孤児たちを下に見ている事が大きな理由だろう。最初に、アルに言われたのだが、店舗のトップは孤児院やスラム街で育った者にしたほうがいいと言われた。アルのおかげで儲かっているオヤジはそれに従った。そして、トップだけを商会からの人間と話をさせるようにしたのだ。
制服を作る店もアルの提案から作った。店員である事がひと目でわかる事やステータスになってしまったので、従業員用の服を揃える店が増え始めた。
その上、アルは従業員の確保の方法を提案してくれた。
今までの方法とは全く違った方法だった。
鑑定が使える従業員と古参の従業員と従業員の子供を数名伴って、孤児院を回ったのだ。
孤児院もシュロート商会の商売の噂は耳にしていたのだろう。歓迎ムードで受け入れてくれた。寄進をした上で孤児を雇いたいという申し出をして、働ける子供達を紹介してもらったのだ。面接を行うという事で、二人の従業員が孤児たちを見ている最中に一緒に行った子供を預けて孤児たちと一緒に遊ばせたのだ。
大人には隠している事や、子供同士でないと判明しないことや、要領がいいだけの子供の話は、子供に聞くのが一番なのだ。
孤児院の先生の前では優秀ないい子なのに、裏で年下の子を虐めていたとかいう話も簡単に聞き出せる。
特殊な才能・・・・。絵がうまいとか、ものづくりが得意とか、料理ができるとか・・・。そんな隠れた才能も子供同士なら案外と教えてくれるのだ。
この採用方法があるので、シュロート商会の飲食部門の従業員は一定の質を確保できて、他の商会が失敗する事でも成功をおさめた。
そんなシュロート商会にとっては”神にも等しい”アルの家族が惨殺された。
俺がもっと早く・・・。これは、行ってもしょうがない。俺の責任だ。アルの大事な従者も殺された。
俺は、アルに返しきれない恩義がある。その上で・・・。
そんなアルが今ライムバッハ領のウーレンフートに行っているらしい。
クリスの情報だから、正しいのだろう。
しばらく、クリスとユリウスが忙しそうにしていたのを、ディアナと眺めていた。
俺とディアナは、アルが作っていった魔道具や道具を精査して、世間に発表していいか悪いかを判断している。
アルが作っていった物の多くは売りに出せない。理論が理解できないだけならいい。アーティファクトと同じかそれ以上の魔道具だったりする。売る事はできるだろう。しかし、売ってはダメな物が多い。すでにそれで生活をしている者たちから仕事を根こそぎ奪ってしまうような物まである。
アーティファクト級で言えば、ディアナが首から下げている、俺とディアナの目と同じ色の石を使ったネックレスは、汎用性をもたせた物が作る事ができれば、貴族や商人から引き合いが大量に来るだろう。それこそ、大金貨数枚でも売れるだろう。
ディアナがエヴァ経由でアルに聞いてもらったのだが、汎用化は無理だろうという事だ。異物と認識するためのプロセスが・・・。長々と説明されたがわからなかったので覚えていない。
唯一製品化できそうな物は、”トイレの後で洗浄する魔道具”だったのだがユリウスから止められた。アルからは、シュロート商会から売り出していいとは言われている利用料をアルのマナベ商会に振り込む様にすればいいだろうと思っていた。
ユリウスはダメと言っただけで細かい説明はしてくれない。皇太孫にして、アルの親友であるユリウスの言葉だから従う事にしたのだがなにかモヤモヤしていたら、夜ディアナが教えてくれた。
ユリウス自身もクリスから説得を受ける形で止めたのだと言っていた。
”間違いなく爆発的に売れるだろう”
これは、皆の共通意見だ。だからこそ、売り出そうと小型化を要求したのだと思っていた。
ディアナは恥ずかしそうに説明してくれたのだが、なるほどと思ってしまった。
クリスの話では2つの理由で止めたのだと言っていた。
1つ目は、商品は素晴らしいが説明が難しい。実践で試してもらえば素晴らしい事はわかるが身内以外にも難しいだろう。
2つ目は、もう少し貴族的な考え方だ。カール・フォン・ライムバッハ辺境伯が成人した時に、”トイレ用品”で金儲けした辺境伯と呼ばれるのを回避するためだ。”下の辺境伯”と呼ばれたら可哀想だ。
最低でも、領都での販売は避けたほうがいいだろうという結論に至った。
そんな状況の中で、アルがやらかした。
ウーレンフートのギルドで揉め事を起こして、なぜかホームを乗っ取ったという事だ。
意味がわからなかったが、クリスが得た情報と俺が商人仲間から得た情報から、状況がよめてきた。状況は皆で共有した。そして、皆の意見が”アルだからしょうがない”でまとまったのもある意味信頼している証拠なのかもしれない。
そして、ユリウスから命令が出た(実質的にはクリスからの命令だろう)。
俺もウーレンフートに赴いて、アルのやっていることをフォローする事になった。
ウーレンフートにはシュロート商会は出店していない。
オヤジの許可をもらって、シュロート商会の支店をウーレンフートに作る事になった。アルからも同じような提案があるだろうから、それまで黙っているように言われた。クリスからは、アルが俺にお願いする事で、俺が抱いているアルへの恩義を少しは軽くできる。そう、アルが考えてくれる事が目的なのだと説明されたが、よくわからない。よくわからないが、ザシャからも似たようなことを言われたので、それが正しいのだろう。
店の従業員候補も王都から送ってくれる事になっている。
ウーレンフートでは、クリスの思惑通りに話が進む。途中から、アルも気がついてそ話を合わしている雰囲気があった。
何も変わらないアルと話をして、ホームの内側と外側に商店を作る事になった。
アルに話をして、ホームの職人を使って、”トイレの後で洗浄する魔道具”を作る許可をもらった。アルの提案で、値段をできるだけ抑えて駆け出しの冒険者が少し無理をすれば買える位の商品を主軸に置くことになった。もちろん高級な商品も作成して貴族や上位冒険者に飼ってもらえる物も作る事になった。
俺はダンジョンに潜った事はないが、野営しているときとかにあれば使いたくなるだろう。ディアナは間違いなく持っていくだろう。
そういう事なのだ!
俺はアルのためなら・・・。違うな。アルはそんなことを求めていない。
俺は、アルを利用してアルが欲する情報を得る。商人にしかできない事でアルに支えていきたい。
まずは、ウーレンフートに2つの商会を作る!
そして、アルが安心できるような体制を作る!
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