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第五章 共和国
第一話 出国の前に・・・
しおりを挟む「兄ちゃん!」
御者台に座っているアルが、中につながる窓を開けて、俺を呼んでいる。
結局、人が居ない場所では、アルとエイダが御者台に座っている。執事とメイドは、---それぞれ”クォート”と”シャープ”と名前を与えた---俺の世話をすることになった。特に、クォートは執事なので、俺が”成そうとしている”内容を説明した。基礎知識は十分ある上に、ダンジョンと繋がっているために、情報の集約をしながら日々”感情”を学んでいる。学んでいるのは、”シャープ”も同じなのだが、シャープはカルラからメイドの振る舞いを学んでから、感情を学ぶことに決まった。
「どうした?」
アルの慌てた声だったが、移動している時に何度も聞いてしまって、俺もカルラもクォートもシャープも慣れてしまっている。
緊急事態の時だけ呼びかけろと言っていたけど・・・。道中で自分が知りたいことがあると、俺を呼び出す状況を変えられなかった。別に、困らないから放置したのが悪かったかもしれないが、俺も変わった物が見られるので面白かった。問題は・・・。カルラの機嫌が少しだけ悪くなって、アルだけではなく俺にも辛辣なセリフをぶつける頻度が上がることが問題と言えば問題かもしれない。
「国境が見えてきた」
今回は、重大な内容だ。
アルが御者台に座るのは、国境が見えるまでと約束している。ユニコーンやバイコーンとの連携なら、エイダが居れば困らないが、それでもクォートが担当した方が自然に見える。
「そうか、クォート。アルと変わってくれ、アル!」
「わかった!」
馬車を止めて、アルが御者台から馬車の中に入ってくる。変わりに、執事のクォートが御者台に座る。
「旦那様」
「出してくれ」
「かしこまりました」
エイダも、アルに抱きかかえられて、馬車の中に入ってきた。
『マスター』
「どうした?」
念話に、普通に言葉で返す。
『このまま進むと、国境近くで暗くなってしまいます』
「そうだな」
『よろしいのですか?』
「クォートとユニコーンとバイコーンには、暗い場所でもよく見えるような仕組みを組み込んである」
『夜の移動を?』
「国境を越えてからは、なるべく暗い間に、国境から離れておこうと考えている」
「マナベ様。夜に移動するのは・・・」
カルラが、俺とエイダの話に割り込んできた。カルラが言っているのは正しいだろう。夜に移動する物好きは少ない。
「カルラ。気がついているのだろう?」
「はい。しかし、国境を越えれば、諦めるのではないでしょうか?」
「そうか?俺は、国境を越えたら襲ってくると思っている」
「え?」
「アイツら、俺のことが解っている様子だからな」
「・・・。はい」
「だよな・・・。どっから漏れたのかは、クリスに調べてもらうとして・・・」
「それなら、国境を越えてから、始末しますか?」
「できそうか?」
「素人とは言いませんが、訓練を受けた者ではないと思います」
カルラの言葉だと余裕だと受け取れる。
クォートとシャープの能力を把握する上でも、ちょうどいい相手かもしれない。
「クリスに渡すのなら、国境を超える前に捕らえたいな」
「それなら、国境前で野営をして、襲ってもらいましょうか?」
「襲ってくるか?」
「わかりませんが、国境前で捉えるのなら、襲わせた方が”楽”だと思います」
「そうだな。戦闘力で言うと、アルとエイダが、馬車の中に残っていれば大丈夫だろう?」
「そこは、旦那様も残るべきかと・・・」
「素人に毛が生えた程度の奴らを送り出す程度だぞ?俺の戦闘力を知らないと考えてもいいと思うぞ?」
エイダを交えて、打ち合わせをした結果。
俺は馬車の中で休んでいる”風”にする。外には、カルラとシャープが出て、火の見張りをすることに決まった。相手の様子から、カルラだけでも無力化できるとは思うが、シャープの戦闘力を確認するために、盗賊もどきを捉える役目はシャープが行うことになった。
馬車を止める場所は、不自然な場所では、こちらの意図を見抜く可能性があるために、国境からは距離があり、休んでも不自然に思われない場所にする。注文が難しいが、一箇所だけふさわしい場所がある。
国境までの道から少しだけ外れるが、野営に適した場所があった。川の近くで、周りに木々もなく見晴らしが良くなっている場所だ。
「旦那様」
「クォート。ありがとう。今日は、もう休んでくれ、俺も休む。最初の見張りは、カルラとシャープに頼む」
芝居がかった、大きめの声で指示を出す。
馬車をしっかりと停留した。ユニコーンとバイコーンは、川の近くに簡易的な柵を作って、休ませている。水と餌を与えて、寝るように指示を出している。ヒューマノイドタイプと同じなので、食事や水分補給は必要ないが、カモフラージュのためだ。
「アル」
「なに?兄ちゃん?」
「アルは、俺と最後の見張りだから、先に寝てくれ」
「兄ちゃんは?」
「俺は、日課の訓練をしてから寝る」
「わかった。カルラ姉ちゃん。シャープさん。先に寝るね」
アルも芝居だと解っていて、わざと普段以上の声を出しているが、少しだけ棒読みに聞こえてしまうのはしょうがないのかも知れない。カルラからの説明で、襲ってくる連中の力量は共有している。アル1人でも過剰な戦力かもしれない。エイダでは無理だけど、ユニコーンかバイコーンに相手をさせても、”殺す”前提なら対処は可能だろう。今回は、背後関係を調べる必要があるために、シャープに対処を行わせる。殺してしまいそうなら、カルラが参戦する。
カルラの探知では、全部で9人だと言われた。俺の結果と同じなので、9人で間違いは無いだろう。
俺たちが、休憩するために脇道に入ったら、慌てて後を追ってきたので、狙いは俺たちで間違いは無いだろう。
賊は、左右に4人ずつに分かれて、中央に1人が残っている。
『カルラ。どうする?』
スキルで、カルラに話しかける。所謂、念話だ。
『マナベ様。全員を捕らえる必要はないと思います』
『旦那様。私も、カルラ様と同意見です』
クォートが話に加わる。クォートは、ノートパソコンをプロキシにして、ダンジョンに繋がっている。パスカルに権限を渡しているので、パスカルが調整を行っている。与えた情報から、最適解を導き出すだけなら、クォートたちに任せたほうが良いかも知れない。
『そうだな。中央の1人は確保したい。左右に展開しているのは、どちらか一方だけは必ず確保してくれ』
俺の判断を聞いて皆が了承を伝えてくる。
作戦は簡単にした。野営地の火を故意に消したのを合図に作戦を開始する。
ユニコーンとバイコーンで、近くに居る4人を捕縛してみる。無理そうなら、殺してしまえばいい。特に、ユニコーンとバイコーンが居る方に居る4人は、力量が1段落ちる。もしかしたら、ユニコーンとバイコーンを狙っているのかも知れない。
カルラが、中央に居る人物を捕らえる。力量を考えても難しくはない。
残りの4人を、シャープが捕らえる。シャープだけで難しい場合は、カルラが援護をするが、タイミングが難しい場合には、クォートがシャープを手伝うことが決定した。
俺とアルとエイダは、馬車の中だが9人以外にも襲撃者が居た場合には対処を行う。馬車の周りに開発した結界を張って、賊の侵入を防ぐ役割もある。襲撃をされている最中に、ダンジョンとの接続が可能なのか、実地でのデータ取りが主な役目だ。エイダに助手を頼みながら、シャープとユニコーンとバイコーンの戦闘データをダンジョンにリアルタイムで送って、パスカルに解析させるつもりだ。
『準備はいいか?』
皆が返事をする。少しだけ遅れて、パスカルからも返事があった。
パスカルの戦闘データ解析の準備ができたら、確保を開始する。
俺が、皆に念話で伝えて、パスカルからの”OK”を受けて、俺が信号弾を展開する。
『GO。賊を確保しろ!』
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
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