異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
102 / 179
第五章 共和国

第一話 出国の前に・・・

しおりを挟む

「兄ちゃん!」

 御者台に座っているアルが、中につながる窓を開けて、俺を呼んでいる。
 結局、人が居ない場所では、アルとエイダが御者台に座っている。執事とメイドは、---それぞれ”クォート”と”シャープ”と名前を与えた---俺の世話をすることになった。特に、クォートは執事なので、俺が”成そうとしている”内容を説明した。基礎知識は十分ある上に、ダンジョンと繋がっているために、情報の集約をしながら日々”感情”を学んでいる。学んでいるのは、”シャープ”も同じなのだが、シャープはカルラからメイドの振る舞いを学んでから、感情を学ぶことに決まった。

「どうした?」

 アルの慌てた声だったが、移動している時に何度も聞いてしまって、俺もカルラもクォートもシャープも慣れてしまっている。
 緊急事態の時だけ呼びかけろと言っていたけど・・・。道中で自分が知りたいことがあると、俺を呼び出す状況を変えられなかった。別に、困らないから放置したのが悪かったかもしれないが、俺も変わった物が見られるので面白かった。問題は・・・。カルラの機嫌が少しだけ悪くなって、アルだけではなく俺にも辛辣なセリフをぶつける頻度が上がることが問題と言えば問題かもしれない。

「国境が見えてきた」

 今回は、重大な内容だ。
 アルが御者台に座るのは、国境が見えるまでと約束している。ユニコーンやバイコーンとの連携なら、エイダが居れば困らないが、それでもクォートが担当した方が自然に見える。

「そうか、クォート。アルと変わってくれ、アル!」

「わかった!」

 馬車を止めて、アルが御者台から馬車の中に入ってくる。変わりに、執事のクォートが御者台に座る。

「旦那様」

「出してくれ」

「かしこまりました」

 エイダも、アルに抱きかかえられて、馬車の中に入ってきた。

『マスター』

「どうした?」

 念話に、普通に言葉で返す。

『このまま進むと、国境近くで暗くなってしまいます』

「そうだな」

『よろしいのですか?』

「クォートとユニコーンとバイコーンには、暗い場所でもよく見えるような仕組みを組み込んである」

『夜の移動を?』

「国境を越えてからは、なるべく暗い間に、国境から離れておこうと考えている」

「マナベ様。夜に移動するのは・・・」

 カルラが、俺とエイダの話に割り込んできた。カルラが言っているのは正しいだろう。夜に移動する物好きは少ない。

「カルラ。気がついているのだろう?」

「はい。しかし、国境を越えれば、諦めるのではないでしょうか?」

「そうか?俺は、国境を越えたら襲ってくると思っている」

「え?」

「アイツら、俺のことが解っている様子だからな」

「・・・。はい」

「だよな・・・。どっから漏れたのかは、クリスに調べてもらうとして・・・」

「それなら、国境を越えてから、始末しますか?」

「できそうか?」

「素人とは言いませんが、訓練を受けた者ではないと思います」

 カルラの言葉だと余裕だと受け取れる。
 クォートとシャープの能力を把握する上でも、ちょうどいい相手かもしれない。

「クリスに渡すのなら、国境を超える前に捕らえたいな」

「それなら、国境前で野営をして、襲ってもらいましょうか?」

「襲ってくるか?」

「わかりませんが、国境前で捉えるのなら、襲わせた方が”楽”だと思います」

「そうだな。戦闘力で言うと、アルとエイダが、馬車の中に残っていれば大丈夫だろう?」

「そこは、旦那様も残るべきかと・・・」

「素人に毛が生えた程度の奴らを送り出す程度だぞ?俺の戦闘力を知らないと考えてもいいと思うぞ?」

 エイダを交えて、打ち合わせをした結果。
 俺は馬車の中で休んでいる”風”にする。外には、カルラとシャープが出て、火の見張りをすることに決まった。相手の様子から、カルラだけでも無力化できるとは思うが、シャープの戦闘力を確認するために、盗賊もどきを捉える役目はシャープが行うことになった。
 馬車を止める場所は、不自然な場所では、こちらの意図を見抜く可能性があるために、国境からは距離があり、休んでも不自然に思われない場所にする。注文が難しいが、一箇所だけふさわしい場所がある。
 国境までの道から少しだけ外れるが、野営に適した場所があった。川の近くで、周りに木々もなく見晴らしが良くなっている場所だ。

「旦那様」

「クォート。ありがとう。今日は、もう休んでくれ、俺も休む。最初の見張りは、カルラとシャープに頼む」

 芝居がかった、大きめの声で指示を出す。
 馬車をしっかりと停留した。ユニコーンとバイコーンは、川の近くに簡易的な柵を作って、休ませている。水と餌を与えて、寝るように指示を出している。ヒューマノイドタイプと同じなので、食事や水分補給は必要ないが、カモフラージュのためだ。

「アル」

「なに?兄ちゃん?」

「アルは、俺と最後の見張りだから、先に寝てくれ」

「兄ちゃんは?」

「俺は、日課の訓練をしてから寝る」

「わかった。カルラ姉ちゃん。シャープさん。先に寝るね」

 アルも芝居だと解っていて、わざと普段以上の声を出しているが、少しだけ棒読みに聞こえてしまうのはしょうがないのかも知れない。カルラからの説明で、襲ってくる連中の力量は共有している。アル1人でも過剰な戦力かもしれない。エイダでは無理だけど、ユニコーンかバイコーンに相手をさせても、”殺す”前提なら対処は可能だろう。今回は、背後関係を調べる必要があるために、シャープに対処を行わせる。殺してしまいそうなら、カルラが参戦する。
 カルラの探知では、全部で9人だと言われた。俺の結果と同じなので、9人で間違いは無いだろう。

 俺たちが、休憩するために脇道に入ったら、慌てて後を追ってきたので、狙いは俺たちで間違いは無いだろう。

 賊は、左右に4人ずつに分かれて、中央に1人が残っている。

『カルラ。どうする?』

 スキルで、カルラに話しかける。所謂、念話だ。

『マナベ様。全員を捕らえる必要はないと思います』

『旦那様。私も、カルラ様と同意見です』

 クォートが話に加わる。クォートは、ノートパソコンをプロキシにして、ダンジョンに繋がっている。パスカルに権限を渡しているので、パスカルが調整を行っている。与えた情報から、最適解を導き出すだけなら、クォートパスカルたちに任せたほうが良いかも知れない。

『そうだな。中央の1人は確保したい。左右に展開しているのは、どちらか一方だけは必ず確保してくれ』

 俺の判断を聞いて皆が了承を伝えてくる。
 作戦は簡単にした。野営地の火を故意に消したのを合図に作戦を開始する。

 ユニコーンとバイコーンで、近くに居る4人を捕縛してみる。無理そうなら、殺してしまえばいい。特に、ユニコーンとバイコーンが居る方に居る4人は、力量が1段落ちる。もしかしたら、ユニコーンとバイコーンを狙っているのかも知れない。
 カルラが、中央に居る人物を捕らえる。力量を考えても難しくはない。
 残りの4人を、シャープが捕らえる。シャープだけで難しい場合は、カルラが援護をするが、タイミングが難しい場合には、クォートがシャープを手伝うことが決定した。

 俺とアルとエイダは、馬車の中だが9人以外にも襲撃者が居た場合には対処を行う。馬車の周りに開発した結界を張って、賊の侵入を防ぐ役割もある。襲撃をされている最中に、ダンジョンとの接続が可能なのか、実地でのデータ取りが主な役目だ。エイダに助手を頼みながら、シャープとユニコーンとバイコーンの戦闘データをダンジョンにリアルタイムで送って、パスカルに解析させるつもりだ。

『準備はいいか?』

 皆が返事をする。少しだけ遅れて、パスカルからも返事があった。
 パスカルの戦闘データ解析の準備ができたら、確保を開始する。

 俺が、皆に念話で伝えて、パスカルからの”OK”を受けて、俺が信号弾ライトを展開する。

『GO。賊を確保しろ!』
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...