135 / 179
第五章 共和国
第三十四話 ウイルス
しおりを挟む中層のキャンプ地に、物資を届けた。
途中で狩った魔物や採取した物も一緒に渡した。
共和国内では、少量だがマジックバッグが流通している。容量も大きくないのだが、物が流通していれば、使っても不思議には思われない。
と、いうことで、問題はあるが、使ってしまおうということになった。
今回は、途中で狩った魔物や採取した物を提供する。
中層にキャンプを張って、イレギュラーに対応が可能な者たちだ。俺たちが持っている、マジックバッグを見ても奪おうとはしないだろう。
それに、奪われても、袋ではなくステータスボードに格納しているので、袋が奪われても困らない。
一応、言い訳として、とあるダンジョンの下層で見つかった物で、個体認証が行われて、俺以外が使おうとしても一般的な袋と同じになってしまうと説明しておく、俺専用の道具になってしまったとしておけばいいだろう。
中層のキャンプ地では、イレギュラーの情報は得られなかった。
「旦那様」
「何か、情報は得られたか?」
「はい。下層の安全地帯に魔物が出たようです」
「セーフエリアに?入ってきたのか?」
「違います。”魔物が湧きだした”と言っています」
カルラの説明では、セーフエリアの入口は塞がれた状態になっていて、それでも中に魔物が居たので、最初は不思議に思いつつ駆除した。しかし、しばらくたって魔物がまた出現したので、”湧きだした”と結論づけて、セーフエリアを放棄したそうだ。
問題は、湧きだした魔物が”黒い靄”を纏っていたことだ。
中層のキャンプでは、問題と感じていなかった。カルラから事情を聞いた、俺たちはよくわからない気持ち悪さを感じていた。
「兄ちゃん。どうするの?」
「最下層を目指す」
キャンプ地から少しだけ離れた場所で、カルラからの報告を聞いてから、アルバンが俺に今後の方針を訪ねてきた。
元々、このダンジョンは攻略すると決めている。
「エイダ。人や魔物が居ない場所を案内してくれ」
『了』
エイダは、アルバンが抱きかかえている。
移動速度を考えれば、誰かが抱きか開けるのがいいのだが、最初はカルラが抱きかかえて、走っていたのだが、カルラは近くに居る魔物を討伐して戻ってくる。アルバンでは、討伐時間で差が出てしまう。従って、今はアルバンが抱えている。
カルラは、エイダから指示された、近づいてきそうな魔物の討伐を行う。
避けられそうにない戦闘は、俺とカルラが担当して、大きな群れの場合には、アルバンも参戦する。
『マスター!』
「エイダ?」
『イレギュラーの可能性があります』
「どういうことだ?」
『通常の魔物や人と違う反応があります』
「何体だ?」
『3体。大きさから、フォレストウルフ系列』
少しだけ考えて、討伐を決意する。
これが、黒い靄を纏った魔物なら、エイダの探索の精度が上がったことを意味する。確認しないのは気持ちが悪い。下層を移動することを考えれば、エイダが見つけたイレギュラーを既知にしておいた方がいい。一度でも索敵をして、討伐を行えば情報が収集できる。積み重ねは必要だが、既知にできる。チャンスと考えたい。
「兄ちゃん」
やはり、黒い靄を纏った魔物だ。
「アル。カルラ」
エイダは、俺が抱きかかえて、いつでも離脱が可能な体勢にする。
相手の強さも解らない。今までと同じ程度なら余裕だが、イレギュラーな状態だと、いきなり強くなっている可能性もある。
姿は、フォレストウルフだ。しかし、こんな下層に居る魔物ではない。
ブラック・フォレストウルフとでも呼べばいいのか?
カルラが牽制で放ったスキルをしっかりと避ける。ヘイトがカルラに集中する。
それほど、動きが賢い感じではない。アルバンが後ろに回っても、無視している。
カルラが、避けタンクのようにブラック・フォレストウルフを引き付ける。
二人でなんとかなりそうだ。
アルバンの攻撃もしっかりとダメージとして残る。物理攻撃を行えば、一体だけヘイトがアルバンに向く、釣ってくることが出来そうだ。下層に居る魔物の様に、連携してこない。強さがアンバランスに感じる。
10分程度で、3体のブラック・フォレストを倒した。
やはり、ドロップは何もしない。黒い靄になって消えてしまう。現象としては、同じだ。
エイダが情報を分析した。
ダンジョンに属さない魔物だと分析されたが、それならダンジョンの魔物の様に消える謎が残ってしまう。
「アル。カルラ。黒い石が無いか探してくれ」
俺の指示で、二人にも協力して貰って、30分ていど近くを探してみたが”黒い石”は見つからなかった。
”黒い靄”と”黒い石”には繋がりがないのか?魔物が移動した可能性もある。近くにないと言って、”関係がない”とは、言い切れない。
「カルラ!アル!」
二人を呼んで、下層に移動を開始する。
何度か、黒い靄を纏った魔物を討伐した。弱い魔物が、黒い靄を纏っても、俺たちなら討伐は簡単だ。
「兄ちゃん?」
「どうした?」
「ブラック系の魔物だけど、なんで上層の魔物だけなの?」
アルバンに言われて、考えてみた。
確かに、黒い靄を纏っているのは、このダンジョンに居ない物も存在していたが、他のダンジョンでも上層と呼ばれる場所に出て来る魔物だけだ。
「わからない。”黒い石”が関係しているとしたら、何かしらの制限があるのかもしれない」
そうなると、階層主が黒い靄を纏って徘徊しているのは、違う理由があるのか?
考えても解らない。頭の片隅からはがれない違和感。
階層主のイレギュラーとは遭遇しなかった。
本来なら、階層主が居るべき部屋は、魔物が存在しなかった。
部屋の中央に、石が散らばっている。
魔石でもなさそうだ。黒い石が変化した物か?
スキルを付与した形跡もない。本当に、ただの石なのか?
調査をしたいけど、持っていくのは何か危険な感じがする。
『マスター』
「何か、見つけたのか?」
『はい。魔石が一つだけ混ざっています。スキルが付与されています』
「解析は可能か?」
『可能です』
「・・・」
何か、引っかかる。気持ちが悪い。
こういう時の”感”は無視しないほうがいい。
何かある?気持ちが悪い。
もしかしたら・・・。
「エイダ。解析を中止!」
『了』
まだ開始していなかった。
俺が、魔物を乗っ取ろうとしたら、ウイルスを仕込む。もしかして、黒い靄を纏った魔物の動きが単純な物なのは、ウイルスに犯されているからなのか?
低級な魔物を”生み出している”のか?ダンジョンが犯されて魔物を産み出している?
魔法をプログラミングできるのなら、魔物を乗っ取る為に、ダンジョンを乗っ取る為に、ウイルスが有っても不思議ではない。
なんで、最初に”それ”の危険性を考えなかった。
すぐに、対策を考える必要がある。
どこに潜伏して、どこに影響があるのか調べなければならない。
自己増殖型でない事を祈るけど、現状を見ると、単なるワームではなさそうだ。潜伏型かもしれない。
黒い石が、ウイルスを増殖させる物なのだとしたら、ダンジョンを吸収している。ウーレンフートも危ない状況だ。
ウーレンフートでは異常な状況は発生していない。接触しているアルトワダンジョンも平気だ。
何がトリガーになっている?何が感染源だ?
「兄ちゃん!」
「ん?」
「兄ちゃん。考えても、解らないのなら、まずは情報を集めよう」
アルバンに言われて、自分が慌てていたのが解った。
確かに、これ以上は解析して、現状を分析して、情報を集めなければ解らない。
このダンジョンが感染しているのなら、攻略してしまえば、感染源を抑えられるかもしれない。ウーレンフートに繋ぐのは、辞めた方がいいかもしれないが、持ってきている端末を繋いで調査を行うのはできる。
「そうだな。アル」
アルバンの頭を撫でながら、カルラを見る。
「エイダ。最速で、最下層に向かう。アルとカルラも手伝ってくれ」
「はい」「うん!」『了』
まだ何か秘密があるかもしれない。
でも、まずは俺ができる事をやってしまおう。それから、考えればいい。
「いくぞ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる