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第五章 共和国
第五十五話 内通者
しおりを挟む準備が出来た馬車を、あえて王国とは逆の方角に馬車を進めた。
カルラは、反対したのだが、俺が押し切った形だ。
3つの情報を流した。流し方にも工夫をした。俺たちの情報だと解るようにした物と、俺たちだと解らないようにした情報だ。
・アルトワ町に寄ってから共和国内の別の国から王国に帰る
・馬車は囮で、徒歩で王国に向かっている
・数多くの嘘情報を流して、裏切り者を探している。実際にはダンジョン内に隠れている者をあぶりだす。
情報を流して、すぐに効果が現れた。半日程度で状況が変わったのには驚いた。しっかりと、耳が設置されている証拠だ。
釣れたのは、ダンジョンの中に隠れているという情報だ。俺たちを狙った物ではなく、ダンジョン内に異常な魔物が現れて、討伐に向かうという情報だ。
捕えた者たちを見たが、知らない顔だ。
アルトワ・ダンジョンに来ている連中も、捕えた者の素性を知らなかった。”○○さんの知り合い”だとか、”△△さんの関係者”だとか、曖昧な状況だ。
拷問をしても情報を漏らすとは思えない。解放するのも、問題に繋がる。裏切り者はダンジョンに隔離することにした。ダンジョンの中なら、監視は簡単にできる人員もヒューマノイドが居る。手間を考えれば、ダンジョンの中が都合がいい。
尋問で得られた情報がすくない。
裏切り者というよりも、内通者なのだろう。元々、別の組織に属していて、ウーレンフートの俺たちのホームの秘密を得るために、忍び込んだ。そして、新たなダンジョンにホームを築くと聞いて、付いてきた感じがする。
それだけでは無いように思える。
他にも、仲間や連絡員が居るように思える。
『マスター』
エイダが、何かを思いついたようだ。エイダからの提案は珍しい。
「どうした?」
『さきほどの男たちと同じヒューマノイドを作ってはどうでしょうか?』
ヒューマノイド?
確かに、いきなり調査をしていた者が消えたら不審に思うか?
ヒューマノイドは、本人の記憶を継承できない。記憶の継承が出来るのなら、インスタンスとしても優秀なのだけど、難しい。どうやっても、記憶のバックアップを作る事が出来ない。バックアップが出来れば、そこからの復元も可能だ。ヒューマノイドを使う上での懸案が減る。
「ん?」
『アルトワ・ダンジョンに残っている内通者たちの関係者が釣れる可能性があります』
”釣り”と言ってしまっている。
実際に、友釣りに近い方法だ。内通者同士で連絡を取り合っているのなら、釣れるだろう。
「そうか、そうだな。やってみるか?」
俺たちにデメリットが発生しない。
メリットは、釣れた場合だけだが・・・。
『はい』
ヒューマノイドを使った釣りは、面白いように釣れた。
結局、アルトワ・ダンジョンで内通者と思われる者は、当初に捕まった3名とは別に4名を捕えた。
その中の一人が、ウーレンフートに行商人として入ってきて、そのままウーレンフートで生活をしていた者だ。全体の統括をしていたと俺たちは見ている。連絡方法は、スキルを使っていない。原始的な方法だ。
その為に、どんな情報を得ようとしていたのか判明した。そして・・・。
「帝国か?」
「はい。まず、間違いないかと・・・」
カルラと俺の見解が一致した。
そして、情報としては、ダンジョンの状況を逐一送っているような報告だ。
なぜ、ダンジョンの情報を欲していたのか解らないが、細かい情報を欲していた。
ダンジョンの変化や魔物の変化を調べていたようだ。
「黒い石か?」
「はい。私も、マナベ様と同じ考えです」
そうなると・・・。
「エイダ!」
『ウーレンフート・ダンジョンおよびアルトワ・ダンジョンには、”黒い石”および類する物は存在していません』
まずは、安心してよさそうだ。
俺が、ウーレンフートのギルドを掌握していなかったら、ウーレンフートにも仕掛けられていた?
ウーレンフートのホームを改造して、ギルドに関しても、粛清を行った。帝国に関連している連中を拘束して、追放した。犯罪に加担していた場合には、ライムバッハ家の”法”に照らし合わせて処理を行った。
帝国が狙っていたのは、ウーレンフートでの実験なのだろうか?
「マナベ様。内通者はどうしますか?」
処分してしまうのが、後腐れなくていいようにも思える。
アルトワ・ダンジョン内で実験に付き合ってもらうのもいいかもしれない。
「トラップで、中に配置した魔物を倒さないと出られない部屋は設置できるよな?」
『可能です』
「部屋を囲うように部屋を作って、同じように、配置した魔物を倒さなくては抜け出せない部屋は可能か?」
『可能です』
「時間の制限を付けて、時間以内に倒しきれなければ、最初の部屋に戻されるようにはできるか?」
『可能です』
「よし。罠を構築して欲しい。配置する魔物はゴブリンのみ。部屋は11層。最初の部屋には、ゴブリンは配置しない。次の部屋には、2体のゴブリン。次は、2×2で4体。次は、4×2で8体。16体。と、倍々に増える。時間は、5分+攻略した部屋の数」
『了』
内通者を生きて返すつもりはないが、どの程度の力があるのか見極めたい。
多分、送り出した者たちからしたら、捨て駒だろう。捨て駒にどの程度の質が期待できるのか解らない。情報がないよりはマシだと思うことにする。
内通者たちの処遇を決めて、エイダがヒューマノイドたちに指示を出して、設定を行う。
作った部屋は、そのまま階層に割り当てることになった。階層として使う時には、時間制限を無くした。その代わりに、戦っている部屋から戻ってしまうとゴブリンが復活する。
「兄ちゃん?」
「アル。挑戦はさせないぞ?」
「え?だって、ゴブリンでしょ?」
「そうだ、最初は余裕で攻略ができるだろう。7つ目の部屋を攻略した辺りからきつくなるぞ」
「え?」
「そうだな。ゴブリンでも、512体を相手にするのは体力が持たなくなる可能性がある。俺の使う魔法の様に、ある程度は自動で攻撃が出来ないと、攻略は不可能に近いと思う」
「そうか、倍々になるから・・・。体力が持たない?」
「そうだな。武器も壊れるだろう?装備品も持たない」
「ゴブリンでも数が居れば・・・」
アルバンが嫌そうな表情をする。
ほぼ、最弱と言ってもいいゴブリンでも、大量に居れば・・・。数の暴力には、より強い暴力が必要になる。
内通者たちは楽しんでもらえるのか?倒れるまでゴブリンと戦い続けられる。
魔物も部屋を開けた時にポップするようにしているので、待機させているわけではないので、瞬間的なリソースは必要になるが、大きくリソースを割いておく必要はない。
「マナベ様?」
どうやら遊びすぎたようだ。
内通者も始末した。
アルトワ・ダンジョンを核にしたダンジョン網の構築も出来そうだ。
内通者が帝国の者だというのは、確定だ。内通者たちの心が折れて、今までしゃべらなかった情報や自分自身の身元を話し始めた。
目的も、予想した通り、”黒い魔物”がダンジョン内や外で見つかるのか調べて情報を特定の方法で流すことになっていた。情報が無ければ、ダンジョン内で死亡したと見られてしまうらしい。切り捨てられるのだな。確かに、ダンジョン内なら証拠も残らない(可能性が高い)。
「わかった。そろそろ、本当に、王国に帰ろう。まだ、急がなくても間に合うだろう?」
「はい。通常の旅程で、10日程の余裕があります」
「クォートとシャープが戻ってきたら、懐かしのウーレンフートに帰ってから、王都に向かう」
内通者をあぶりだすために、クォートとシャープはアルトワ町に向かって、そこから他国に向かうアリバイを作ろうとしていた。
「はい」「うん!」
「そうか・・・。エイダに、クォートとシャープに連絡して、途中で合流すれば、時間的には余裕ができるな」
「はい」
短縮できる時間は、大きくないが、ギリギリになってしまうのは良くない。
余裕がある間に、旅程が短くなる工夫をしておこう。
それに、合流が出来れば、クォートとシャープなら交代は必要ない。
俺たちは、後ろでゆっくり休める。はずだ。
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