異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
164 / 179
第五章 共和国

第六十三話 声なき声

しおりを挟む

 戦闘は終わった。

 体力も気力も限界だ。
 精神的に疲れたので動きたくない。

 カルラも珍しく座り込んでいる。アルバンは、横になって目を閉じている。

 確かに、周りには脅威になるような物はない。

 クォートとシャープもユニコーンもバイコーンも機能が十全に使えるようになって、確認をしてから移動を開始した。

 クォートたちが帰って来るまで休憩する。
 さすがに、疲れた。

 葬送を終わらせて、やっと終わった感じがしている。
 辺りは、先頭の余韻が漂っているが、しばらくしたら消えるだろう。

 自然が戦闘を隠して、元の状態に戻すだろう。
 無残に奪われた命は、大地を撫でる風が拡散してくれている。

 クラーラへの復讐は、俺がやらなければならない。
 奴には奴なりの正義があるのかもしれない。

 ”正義のため”などというつもりはない。俺が行おうとしているのは、俺の我儘だ。傲慢な考えだと思っている。奴が属している組織にも興味が出てしまった。目的が解らない。共和国での”黒い石”の実験を行ったようだが、クラーラは関わっていないと言っていた。組織と言っても、皆が同じ方向を見ていない可能性もある。大きな組織や、トップが絶大なる力を持っている組織では、下が上の顔色を伺いながら別々の方向を向いてしまう。

 身体を起こして、足を投げ出して座る。
 風が心地よい。

 開発だけをして過ごしたいのに・・・。

---

 いきなり暗くなった?
 俺は寝ていたのか?

 違う。
 記憶が飛んでいる?
 何も見えない。

 二人の気配がしない。

 違う。
 二人だけではない。感じていた風も、大地も、何も感じない。

 スキルが何も反応しない。
 どうなっている?

「カルラ・・・?」

 自分の声が聞こえない?
 音が吸収されている?

 違う。
 声が出ていない。

「アルバン!カルラ!」

 二人が居ない。
 違う。俺が隔離された?

 どうやって?
 スキルか?

 解らない。
 解らない。

 解らない。

 考えろ。
 考えろ。

 ダメだ。
 思考を止めるな。

 何故だ。
 何があった?

 俺は・・・。

「アルノルト様!アルノルト様!」

 誰だ!
 俺は・・・。

「アルノルト様!」

 そうだ。
 俺は、アルノルト。アルノルト・フォン・ライムバッハ。

 背中・・・。

 違う。脇腹が熱い。
 刺された?

 誰に?

 カルラとアルバンは無事なのか?

 身体が動かない。

「カ・・・ル・・・ラ?」

 大丈夫だ。声が出る。
 音も聞こえる。

 風も感じる。

「あぁ・・・。アルノルト様。申し訳ございません」

「なにが・・・」

 俺は、倒れているのか?
 大地を感じる。

 カルラは片腕で俺を支えている?

 カルラの顔が血で染まっている。カルラの血か?

「アル・・・バン・・・は?」

「・・・。さい・・・しょ・・・に、・・・アル・・・バンが・・・。か・・・ば・・・」

 カルラは、何を言っている?

「っ!」

 動けよ!
 俺の身体!

 動け!動け!動け!

「アル!アルバン!」

「にぃぃ・・・。ちゃん。よ・・・かっ・・・た」

「アル!アル!アルゥゥゥゥゥゥ!!!目を瞑るな。アル!アルバン!まっていろ!いま、治して」

「にぃぃ・・・ちゃん。おい・・・ら、にいちゃんを、まもれ・・・た」

「もちろん。アル。だから、だから、だから、アルバン!」

「よ、かっ・・・た。にい・・・ちゃん・・・あ、りが・・・とう。おい・・ら。がん・・・ばった」

「アル!アル!カルラ!アルの近くに、俺を、俺を、いそいで・・・。え?カルラ?」

 なんで、カルラまで・・・。

「ア・・・ルノル・・・トさ・・・ま。わた・・・しも、おいと・・・ま、を・・・いただ・・・きたく・・・」

「ダメだ!カルラ!」

 なんで、アルバンとカルラを!誰だ!何故だ!

「いえ・・・。もう、わたし・・・は、アル・・・ノル・・・トさまの、おや・・く・・には・・・た・・・てま・・・せん」

「ちがう。カルラ。アルバン。おれには、お前たちが、カルラ!お前が必要だ。ゆるさ、ない」

「さいごに・・・。アルノルトさま。おねがいが」

「カルラ。さいご?ちがう・・・。これからも」

「アルノルトさま。わたしの、ほんとうのなまえ・・・。アーシャと、よんで・・・くだ・・・」

「アーシャ!アーシャ。なんどでも呼んでやる!だから・・・。だから!アーシャャャャャ!!!!」

「あり、が、と、う、ご、ざい、ます。アーシャは、しあ、わせ、もの、です」

「アーシャ。アーシャ!」

「・・・。あるのるとさま。おしたいしておりました、あるのるとさまのほんかいを・・・。おてつだい、できなく、なる、ふしま、つを、おゆ、るし・・・」

 なんで、俺は動けない!
 動け!動け!動け!

 カルラ!アーシャを!アルバンを!

 許さない。許さない。
 許さない。許さない。

---

 遠くで、誰かが笑っている。
 気持ち悪い笑い方だ。

 俺は、寝ていたのか?

 そうだ!

「カルラ!アルバン!」

『マスター。ご気分は?』

「エイダ?」

『はい。マスターの生体反応が微弱になったために、ウーレンフートに向かうのをキャンセルしました』

「・・・。カルラとアルバンは?」

『遺体は回収いたしました。私たちが到着した時には、手遅れな状態でした』

「・・・。エイダ。嘘だよな?」

『クォートとシャープが確認をおこないました。カルラ。アルバン。両名の生体反応が停止しているのを確認いたしました』

 揺れている所を見ると、馬車か?

「エイダ。どこに向っている?」

『国境です。捕えた者は、処分しますか?』

 俺は、こんなに冷静に考えている。
 頭の中は、冷めきっている。

 心がざわついている。

「そもそも、何があった?カルラとアルバンは、誰にやられた?」

 少しだけだけど、身体が動くようになっている。

「エイダ!」

『現在、調査を行っております』

「調査?何か残されていたのか?」

『暗殺に使われたと思われるナイフが残されておりました。カルラが始末したと思われる遺体が多数。辛うじて生体反応が残されていた者が5名。手足の腱を切られた状態で放置されていました』

「ナイフ?」

『はい。詳細な調査を行っております。簡易検査の結果をお伝えしますか?』

「あぁ」

 エイダの報告を聞いている。
 心がざわついて気持ちが悪い。頭だけがどんどん冷めていき・・・。そして、遠い世界からの言葉を聞いている気分になってくる。

 俺は、慢心していたのか?俺の油断で、カルラとアルバンを失ったのか?
 油断はしていなかった。

 ナイフには、”黒い石”と同じ成分が使われていた。
 問題は、ナイフに塗られていた毒だ。

 これが、利用者をも蝕んでいた。
 俺が刺された、黒い石を細かく砕いた物が塗られていた。どんな作用があるのか解っていないが、人を死に至らしめる毒になっているのだろう。

 簡易的な検査によると、黒い粉は、人の憎悪を増幅する作用があるらしい。
 俺は、刺されて、黒い粉が身体の中に入った。それで、”殺したい程”に憎んだのか?

 今は、その反動でざわついているけど、頭が冷えて、どこか他人事のように感じているのか?

 エイダの報告では、俺が助かったのは、偶然の産物らしい。
 カルラとアルバンは、持っていたポーションやワクチンを俺に使用した。自分たちにも使用すれば・・・。違うな。俺が刺された事で、俺を助けようと動いてくれた。順番は解らないが、俺が刺された。致命傷にはならなかった。次の攻撃をアルバンが防いだ。アルバンが、傷をおいながら俺を助けている間に、カルラが敵を殲滅した。

 解らないが、カルラとアルバンなら・・・。

 何が作用したのかわからないが、俺は助かった?
 でも、俺を助けるために、カルラとアルバンは・・・。絶対に、仇は取る。

『マスター。一部の記憶ですが、捕えた者たちからの抜き取りが成功しました』

「クォートを呼んでくれ」

『はい』

「生き残った奴らを尋問する」

『わかりました』
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...