異世界でもプログラム

北きつね

文字の大きさ
172 / 179
第六章 約束

第六話 無言の帰国

しおりを挟む

 状況の説明と今後の方針を決定した。
 共和国の相手は、ユリウスに任せる事に決まった。

 俺は、王国に帰還して、エヴァを迎えに行く。

『エイダ。集まったか?』

『十分な量の確保に成功しました。馬車に積んであります』

『わかった。ありがとう』

 ユリウスたちとは、アルトワ・ダンジョンで別れた。アルトワ・ダンジョンには、クリスティーネが残る。

 俺よりも先に、ユリウスたちが出立した。
 共和国を攻め落とすのには、情報が伝わる前に重要拠点を攻略しておく必要がある。
 ダンジョンの確保は必須だ。実効支配は完了しているが、村や町には手を出していない。俺が確保しているダンジョンが属している町や村を確保するのが最初の狙いだ。
 そのうえで、ユリウスたちは共和国の一つであるデュ・コロワ国の首都を急襲する。

 今までは、時間が味方していたが、これからは時間との勝負だ。
 ダンジョンがある町や村の確保は重要だ。首都に情報が伝わる前に首都近郊を固める必要がある。矛盾する二つの作戦を同時に遂行しなければならない。ユリウスは自信を見せていたが、少しでもタイミングがずれたら作戦が失敗するだけではなく、ユリウスたちにも被害が出る可能性がある。

 俺がアルトワ・ダンジョンの出立を遅らせたのにも情報の拡散を防ぐ狙いがあった。

「アルノルト様」

「クリス。俺は、ウーレンフートに戻る。アルトワ・ダンジョンは任せる。エヴァと合流して、王都での用事を済ませたら戻ってくる」

「はい。でも、アルノルト様が戻られる前に、デュ・コロワ国が国としての体裁を持っているとは・・・」

「そうだな。ユリウスの態度を見たら・・・」

「はい。なので、急がなくても大丈夫です。それに、エヴァンジェリーナ様がすぐに動けるとは思えません」

「それは大丈夫だ」

「え?」

「俺に考えがある。普段のエヴァを知っている人が殆どいないというから・・・。多分、成功すると思う」

「そう・・・。アルノルト様に、何か考えがあるのね」

「そうだ。最終的には、エヴァとお義母さんの協力が必要になる」

「”お義母さん”・・・。そうね。でも、大丈夫だと思うわ」

「あぁ」

 クリスティーネが、奥歯に物が挟まった感じの物言いだが気にしてもしょうがない。どうせ、問いただしても答えないだろう。

「そうだ。クリス。アルゴルとのコミュニケーションは大丈夫か?」

「えぇ大丈夫ですわ」

 アルゴルは、エイダの代わりにクリスに従者?として付けた、ヒューマノイド・キャットだ。クリスティーネが・・・。猫タイプがいいと強硬に主張したので、ネコ型になったヒューマノイドだ。権限は、エイダよりも劣るが、アルトワ・ダンジョンを制御するのには十分なスペックを持っている。
 内部のプログラムは、クォートとシャープを中心に強化した物だ。人型ではないので、従者としての補助機能は眠らせてある。クラスとしては実装してあるので、アルゴルを人型に拡張することも可能だが、クリスティーネがネコ型を気に入っているので、クラスがアクティブにはならないだろう。

 足下にアルゴルがいる。
 クリスティーネを守るような対乳だが、ネコの為に”守る”というよりも”守られている”感じだ。

 丁度、エイダとクォートとシャープがヒューマノイド・ホースを繋いだ馬車を持ってきた。
 ユニコーンとバイコーンは、クリスティーネに預けることにした。アルトワ・ダンジョンから動かないと言っても、連絡は必要になる。カルラ衆がいると言っても、通常の連絡も必要だ。その為に、”足”は必要だ。通常の馬を置いておくことも考えたが維持費や速度を考えて、ユニコーンとバイコーンを使うことになった。
 俺は、記憶するだけなのに、馬に似せたヒューマノイド・ホースで十分だ。戦闘力は必要ない。
 護衛としては、クォートとシャープがいる。威嚇の意味も込めて、騎士風のヒューマノイドも連れている。クォートとシャープが操れるようになっているので、十分な抑止力になるだろう。

 クリスティーネとは、エイダを通して連絡ができる。
 アルトワ・ダンジョンから離れる前に、確認を行った。

 エイダとアルゴルがダンジョン経由で繋がっている。

 馬車に乗り込んで、エイダが準備をしてくれた物で、アイテムを作る。
 必要なことだと理解している。

「アルノルト様。国境です」

 クォートとシャープも、俺を”アルノルト様”と呼ぶように言っている。
 シンイチ・マナベの身分は、今後も必要になってくるが、今回は”アルノルト・フォン・ライムバッハ”の身分が必要だ。

「進んでくれ」

「はい」

 クォートに指示を出す。
 国境なので、並んでいるが、無視して進む。

 その為の身分だ。身分を保証する書類もクォートに預けている。

 そして、俺の後ろには二つの棺がある。
 カルラとアルバンをウーレンフートに連れて帰る。

 エヴァンジェリーナに弔ってもらう。俺が二人をウーレンフートに連れて帰る理由だ。カルラは違うが、アルバンの故郷はウーレンフートだ。カルラも一番長く過ごしたのがウーレンフートだと言っていた。だから、二人に休んでもらうのはウーレンフートが良いと考えた。

 今からの行動は共和国に対する楔になる。

 もちろん、馬車は止められる。
 しかし、共和国側の国境警備兵を無視して馬車を進める。

 剣呑な雰囲気が出たところで、王国側にいる国境警備兵が駆け寄る。

 茶番だが必要な茶番だ。
 共和国側にも既に通達を行っている。

 ライムバッハ家の者が、共和国側から王国に帰国するという通達は済ませてある。
 俺たちが静止を無視して、王国側に急ぐのも伝えてある。静止された所に、王国側から兵士が出てきて、俺たちを保護する。

 共和国側の国境警備兵は、王国側から賠償を貰う。
 しかし、共和国内で発生した”王国貴族の暗殺未遂事件”を告げられて、賠償ではなく、通達を共和国内の各国に行うことになる。ここからは、時間との勝負だが、俺が国境に到達するころには、ユリウスがデュ・コロワ国の首都に迫っている。

 今から急いでも、国境からの移動を考えれば手遅れになる。
 しかし、デュ・コロワ国以外の国には、必要な情報だ。王国は、正当性を主張できる。警備兵は、自分たちの仕事をしたが、遅かったと言い訳ができる。他の国への伝達を急ぐ理由も、俺がこの場で、ライムバッハ家の者であることや、暗殺はデュ・コロワ国の者が主導していたと宣言を行ったことで、デュ・コロワ国以外の国への報告を優先したと各国に説明ができる。

 馬車は、最初の約束通りに、抵抗らしい抵抗もなく、王国に入った。
 これで、共和国側に並んでいた者にも、王国側に並んでいた者にも、王国と共和国で何かあったのだと考えるだろう。そして、噂が千里を走るだろう。

「アルノルト様」

 見覚えがある騎士が俺の前で跪いた。

「あぁ」

「カール様にお会いしますか?」

「辺境伯は、元気にしていますか?」

「はい。殿下たちが居なくなって最初は寂しそうにしておいででしたが、邸の者たちや、領民との交流で、優しい笑顔を・・・」

「そうか・・・。すぐにウーレンフートに行かなければならない。カールに会ってやりたいが・・・。俺のやるべきことが終わってから会いに行く」

「残念ですが、わかりました。ライムバッハ家の家臣一同。アルノルト様のおかえりをお待ちしております」

「ありがとう」

 ライムバッハ家に古くからつかえてくれている兵士が俺の前で頭を下げてくれる。
 そして、”待っている”と言ってくれた。

 カールが辺境伯の地位を継ぐのは、陛下に寄って定められたことだ。
 俺がサポートに戻ることは可能だが、俺にはまだしなければならないことがある。

 馬車に積まれている棺を思い出す。
 無言の帰国になってしまった二人を連れてウーレンフートに戻る。

 やることが増えた。
 でも、対象が増えなかった。

 約束ではない。俺が俺である為に必要なことだ。

 帝国が後ろに居るのなら、帝国を潰す。
 組織だけが単独で動いているのなら、組織を潰す。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...