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第二十二章 結婚
第二百二十一話
しおりを挟むローレンツには引き続き調査と情報収集をお願いした。
モデストたちとの繋ぎができているので、モデストたちを使っての情報収集に許可を出す。
シュナイダーとの繋ぎもできているので、商隊を使ってアトフィア教の大陸を調査する事もできるようにした。甘い汁を吸わせている穏健派や教皇派の人間たちに関しても、もっと甘い汁を吸わせて、アトフィア教内部の情報を取得させることにした。
後日、神殿区に来ているコルッカ教の司祭にも話を聞くことになりそうだ。
こちらは、俺が行くよりもルートガーが現状の確認を含めて聞きに行くほうが無難だろうという事になったので、ルートガーからの報告待ちになる。コルッカ教は一つの宗教にはなっているが、アトフィア教の様に総本山が有ったりひとつの大陸を支配しているわけではないので、実態がつかみ難い。
これらの話を終えて、ログハウスから洞窟に戻ろうとしたときに、フラビアとリカルダに呼び止められた。
「ツクモ様」
「あぁなにか話があると言っていたな?ホームのほうがいいか?シロが居たほうがいいだろう?」
「いえ、ツクモ様だけにお話したいと考えています」
「わかった。それなら、ログハウスで話すか?」
「はい。お願いいたします」
ログハウスの執務室よりは、プライベートのときに使っている部屋のほうがいいだろう。
近くに居たメイドに確認をして、フラビアとリカルダを誘導してもらった。誘導しなくても、場所は解っているとは思うが様式美という物がある。フラビアとリカルダは”客”として扱う事になっているので、誘導しないで移動は執事やメイドが許さない。
ログハウスは、俺とシロのプライベートの為に使う事になっている。公式な事は、迎賓館で行う事になる。
部屋に入ると、すでに飲み物が用意されていた。
フラビアとリカルダが座ったソファーの前に腰を下ろす。
「それで?」
「はい。ツクモ様。私たちの今回の働きに対する報酬なのですが?」
「あぁ俺にできる事なら構わないぞ?」
「ありがとうございます」
二人は、もう決めているようだ。
「ツクモ様。報酬ですが、個人で一つずつ、二人で一つはダメでしょうか?」
「問題ないぞ?」
「ありがとうございます」
フラビアとリカルダの個人の願いは、ドレスが欲しいという事だ。
許可を出すくらいしかできないと思ったら、俺に簡単なデザインをして欲しいとか言い出した。
ドレスのデザインなんて・・・と、思ったが簡単な物でよければやってみると返事をした。
二人が好きな色を聞いて、記憶をたどってなんとなくデザインをした。
フォーマルなドレスをイメージする事にした。デザインができたら、エルフの職人たちが服に仕立ててくれるらしい。流石に、型紙までは作る事ができない。いくつかのデザインを渡すので、後は好きにしてもらう事になった。
いつの間にか工房の一角をエルフが居座って、服飾を始めているようだ。
布や糸は、眷属が提供している物もあるのだが、魔物素材や森からの恵みで賄っているようだ。
「それで?二人に対する報酬は?」
二人がソファーから立ち上がった。
フラビアがソファーを少し下げて、二人は跪いた。
「おい」
「ツクモ様。お願いしたい事は、不遜な願いだと思います。もし、私たちの願いがツクモ様の御心にそぐわない事であった場合には、この剣で私たちの首をはねてください」
フラビアが宣言したら、二人とも自分が持っていた剣をテーブルの上に置いた。
「わかった。いいから話せ」
「はい」
二人の要望を聞いて、笑いだしてしまった。
これは、完全に俺が悪い。忘れていたわけではない。覚えていなかったわけではない。もちろん、嫌なわけではない。
「ツクモ様?」
「フラビア。リカルダ。剣をしまえ。ソファーに座ってくれ」
「え?」
「俺が悪かった」
「それでは?」
二人からの願いは、結婚の申し出だ。
二人の結婚ではない。俺とシロの結婚を頼みに来たのだ。
二人には、シロとの結婚を宣言していたのだが、話が進んでいなかった事で、痺れを切らした形になったのだ。
「あぁ問題ない。と、いうよりも二人には悪い事をしたな」
「いえ、かまいません。姫様の・・・。いえ、私たちの妹の事です」
「わかった。日程を決めよう。二人には、さっきのドレスを着て出席してもらうからな」
「はい!」「はい!」
シロの気持ちの確認?
フラビアとリカルダがすでに済ませている。それに、もう愛情の確認をする必要も感じていない。
サプライズで結婚式を執り行う事になった。
別にサプライズにする必要は無いのだが、フラビアとリカルダだけではなく、式の話になってからフラビアとリカルダが呼び出した、クリスとカトリナがノリノリになってしまった。別に構わないのだが、全部の費用を俺持ちにするつもりのようで、自分たちの衣装を作り始めようとしたのは全力で止めた。
それこそ、クリスはルートガーに頼めばいいし、カトリナも儲けていないわけではない。服飾工房へは、カトリナとフラビアが連れて行く事で納得させる事ができた。
式場は新たに作る案が出たが、チアルダンジョンの神殿を使う事にした。
そして、参列者は人数を絞る事にした。
お披露目はお披露目で別に行う事になるのだが、結婚式は俺が身内と思えるような者だけを呼ぶことになった。
そのほうが、情報管理が簡単にできるし、呼ばれた/呼ばれなかったとかで揉めるような事がないだろうという判断だ。
お披露目は、少し派手目にやる事になりそうだ。
ロックハンド以外の場所を順番に回る事になる。
経済を回す必要もあるために、必要なことだろう。
俺が持っているスキルカードを大量放出する事になりそうだ。
決定してからは、俺はシロと一緒にいる事になった。
準備は、フラビアとリカルダとスーンたちが中心になって進める事になった。結婚式の参列者も決定した。
俺もシロも縁者がいるわけではない。
知人と言っても、それほど多いわけでもない。二人だけで参列者がフラビアとリカルダとルートガーと元老院だけにしても文句が出るとは思えない。残念に思ってくれる人がいるかも知れないが、それほど多くは無いだろう。
眷属たちは出席する事になるのだが、やはり親戚とは意味合いが違う。
それから、ロックハンドにいるイサークたちも長い付き合いになっていることだし、出席を頼むことにしている。
アトフィア教風に行うか、コルッカ教風に行うのかで少しだけもめたのだが、フラビアとリカルダからアトフィア教風は辞めたほうがいいだろうという事になったので、コルッカ教風の式もこの情勢下ではあまりよろしくない。
そこで、俺が神道式の(略式しかわからないが)挙式を説明して、神道風の挙式にする事になった。
チアルダンジョンの最下層の神殿を、神社風に改装して使う事になった。ダンジョンの改装はスーンが担当する事になった。
予定表では3ヶ月後に結婚式を執り行う事になる。
リハーサルも行う予定だが、シロには当日が近くなるまで秘密にする事が決定した。最近、ホームに引きこもっているので、俺が準備を免除された理由でもあるのだが、シロの相手をして準備がわからないようにする事でまとまった。
そして、シロのドレスは”真っ白なウエディングドレス”風な衣装にする事になった。
神社で和風な結婚式になるのだが、正直シロが白無垢を着た所を想像できない。作る事ができれば着てくれるとは思うし、似合わないこともないと思う。しかし、シロならウェディングドレスだろうという事で、真っ白にしたヌラたちの布と糸で作る事になった。
さて、ホームに帰って、シロと一緒に過ごすか?
問題は3ヶ月の間、シロをホームに止めておく事ができるのかという事だな。
ルートガーにも話が回っている、俺とシロの結婚式は、ルートガーだけではなく元老院も歓迎している。
歓迎しているという事から解るのだが、全面的に協力してくれる事になった。最初は、仕事を一切俺に回さないと言ってきたのだが、それでは日常と違う事になってしまうので、ホーム内で処理できる仕事だけを回す様にしてもらう事になった。
シロに情報がもれても問題は無い。
俺が少しシロに責められか、可愛くすねられる程度だろう。
でも、できることなら隠しておきたい。
シロに漏れるとしたら、どこから漏れる可能性が一番高いのか考えてみた。
間違いなく、ナーシャだろう。
俺の意見ではなく、カトリナとクリスを含めた女性陣全員の意見なのだ。
しかし考えてみると、打てる対策が無いのも事実だ。
ダミー情報を流すと、そのダミー情報を確認するのが目に見えている。確認先が、カトリナやクリスだけならごまかせるが、シロに情報の確認を行う可能性が出てくる。そうなると、ダミー情報を知らないシロが俺に確認する事になる。それでは、シロにダミー情報を流しておくことも考えられるが、あまりいい結果になりそうにない。
カトリナが披露パーティで出す予定の甘味をナーシャと一緒に開発する事にした。
暇にすると話し相手や噂はなしを探すようになるので、仕事として甘味づくりをやらせる。
カトリナとクリスの考えでは、甘味づくりを始めれば、毎日甘味が食べられる環境を喜ぶのは間違いないが、それで増えてしまう事が考えられる脂肪を燃焼させる為の運動を今以上に行う様になる。
そうしたら、シロにわざわざ会いに来る事は少なくなる。接近禁止命令を出すとか、口止めをするよりも有効な手段に思える。
カトリナには、列席者や披露パーティーに来てくれた人に、帰り際に持たせる”お土産”や”おかし”の準備もしてもらう事にした。
ホームに戻ってきて、シロと一緒にゲームを楽しんでいるのだが、決裁書類の中に結婚式や披露パーティーの進捗を織り交ぜるのは止めて欲しい。シロに手伝わせる事は無いのだが、ドキッとしてしまう。
予定通りの進捗になっているようだ。
ホームでまったり過ごせる時間は貴重に思えてくる。
「カズトさん?」
「ん?あっすまん。それで、シロ。今日はどうする?」
「はい。ロックハンドに納品に行って、あとは同じ様に狩りをするつもりです」
「ロックハンド?」
「はい。ガーラント殿に以前から頼まれていた素材が揃ったので、納品してこようと思っています」
「そうなのか?俺も一緒に行くか?」
「あっいえ・・。これは、僕が・・・。カズトさん。これは、僕が頼んだ・・・いえ、頼まれた事ですので、僕にやらせてください」
なにか隠している雰囲気があるけど、ガーラントが絡んでいるのなら酷いような事にはならないだろう。
そう言えば、書類の中にガーラントとピムの結婚申請が来ていたな。
新種が他の大陸で暴れまくって難民がチアル大陸に押し寄せた。
そのために、チアル大陸は以前よりも同族が見つけやすくなった、その結果結婚を決める者たちが増えてきている。
問題があるとしたら、ナーシャだな。
リーリアに確認しておくか・・・。
『リーリア』
『はい』
『すまん。今、どこにいる?』
『今ですか?ロックハンドで、カトリナとナーシャと一緒にお菓子の開発をしています』
『丁度よかった。今からシロがガーラントの所に行くけど、会わないようにしてくれ』
『かしこまりました』
「わかった。それなら、俺は少し元老院に行ってくる」
「わかりました」
「シロよりは早く戻ってくるつもりだけど、遅かったら、食事は先にしておいてくれよ」
「わかりました。待っています」
「シロ?」
「待っています」
「俺が」「待っています」
「わかった、なるべく早く帰ってくる」
「はい!」
満面の笑みでそう言われたら、早く帰ってくる事にしようと思えてくる。
ホームを出て元老院に向かう。
用事があると言ったのは嘘だったが、元老院に行けばしなければならない事の1つや2つは見つかるのはいつもの事だ。
「ミュルダ老」
「ツクモ様。本日はなにか?」
「近くに来たからってよりも、時間ができたからな。何か仕事が無いかと考えたのだけだ。あと、困っている事があれば話を聞こうと思っているだけだ」
「ツクモ様・・・」
「なんだよ。その可哀想な人を見る目は?」
「ご自身でも解っていらっしゃいますよね?」
「何を?」
「ツクモ様。婿殿もクリスも誰も忠告しないようですので、儂から言わせていただきますが、ツクモ様。働きすぎです。お休みしていてください」
働きすぎ?
「老。そんな事は無いだろう?適度に休んでいるぞ?」
「そうですね。ツクモ様は休んでいる時でも、なにかを作って居たり、どこかに視察のような感じになってしまっています」
「それは認めるけど、皆も同じだろう?」
「いえ、違います。それに、ツクモ様のお気持ちでは休んでいらっしゃるのかも知れませんが、周りから見たら働いているように見えるのです」
「それはしょうがないだろう?」
「だから休んでくださいと言っているのです」
「・・・。わかった。おとなしくホームに籠もっているよ」
「そうしていただけると助かります」
せっかく来たので現状報告だけ聞いて帰ることにした。
休むというのはなかなか難しい。
シロの方はどうなったか?
ナーシャに会わなければ問題は無いだろう。
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本当に、ありがとうございます。
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