252 / 323
第二十五章 救援
第二百五十二話
しおりを挟む「カズトさん。大丈夫でしょうか?」
「正直、わからない。なるようにしかならないと思う」
「そうですよね」
カイの頭を撫でながら、モデストたちが歩いていった方向を見つめる。姿は見えなくなっている。ウミは、5分程度は我慢していたが、我慢の限界だったのか、狩りに出かけている。カイがいれば護衛は大丈夫だと思ったのだろう。モデストの部下も残っているので、大丈夫だとは思っている。それに、草原エルフが何か仕掛けてきても、ウミなら大丈夫だろう。
実際に、魔物の気配は感じない。シロも、最初の頃は周りを警戒していたが、今は俺に寄りかかって居る。
「シロ。寝ていいぞ、何かあれば起こす」
「でも、僕・・・」
「シロは、俺の妻だ。護衛じゃない」
「え・・・。あっ・・・。うん。カズトさん。少しだけ寝ます」
「あぁ」
シロは、俺に寄りかかりながら目を瞑った。
すぐに、かわいい寝息が聞こえ始める。
『カイ』
『はい』
『周りには、魔物は居ないのか?』
『大丈夫です』
『わかった。俺も少しだけ寝るから、何かあったら起こしてくれ』
『はい』
カイが近くに来て、丸くなってくれる。
ウミが周りで狩りをしているのなら大丈夫だろう。カイも何も言わないから、安全なのだろう。監視の類は、ウミが片付けたのだろう。
シロの寝息を聞いていたら、俺も少しだけ眠くなってきた。
------
--- モデスト Side
------
マスターたちは大丈夫だろうか?
やはり、残ったほうが良かったかもしれない。
「モデスト殿」
「ステファナ様。こんな形になってしまって、もうしわけありません」
「私は、いいのですが、シロ様と旦那様に・・・」
私の感情は、今回の流れは悪いものではない。草原エルフが、選民意識が低いと言っても、エルフ族は人族を下に見る傾向が強い。
旦那様にどんな暴言を・・・。私やステファナに対する暴言でさえも、旦那様はお怒りになるのに、もし、シロ様に対する暴言や悪意を向けられたら、草原エルフの一族は、この大陸から姿を消す未来しか考えられない。しかし、旦那様はお優しい。後悔はしないだろうが、心の淀みになる可能性は高い。お優しい心に陰を落とすくらいなら、私が代わりに闇を引き受ければいい。
「そうですね。そうならないためにも、交渉を行いましょう」
「はい」
エクトルやムーたちが、一族で”力がある者”とされているのなら、武力だけを考えれば、私と配下の者がいれば制圧は簡単にできそうだ。
カイ様やウミ様では、オーバーキルになってしまう。手加減をお願いしても、よくて二度と戦えない身体になってしまうだろう。
後ろを振り向いて、ムーを見ると諦めの表情を浮かべている。
エクトルとムーだけでも間違いだったのは判明しているのに、十分言い聞かせたはずの案内人が、あの状態では諦めるのもしょうがない。実際、案内人の言葉を聞いた後で、カイ様の怒気を受けて私でさえも表情を固くしてしまった。ウミ様は、恐ろしいほどの殺気を纏っていた。旦那様がお止めにならなければ、案内人だけではなく、里さえも蹂躙してしまっていたかもしれない。
「エクトル。里まで、どのくらいですか?」
「あと、1-2時間だと思います」
「そうですか、少しだけ休憩しましょう。あぁ案内人は、私の視界から外れないでください。間違って殺してしまいそうです。頭が重いと感じているのなら、逃げてみてください。私は、旦那様や奥様の様に優しくは無いです」
ライ様の眷属になっている。フォレスト・ブルー・スパイダーの亜種の糸を使った武器が、今では私のメイン武器になっています。拘束にも使えますし、目を欺くのにも都合がいい武器です。本当の武器を悟らせないために、腰に短剣を下げていますが、エクトルやムーだけでしたら、二本の短剣だけで制圧できます。
案内人が、何か言っていますが、無視です。殺されないだけ良かったと思ってほしいです。エクトルとムーは解っているようで、案内人を宥めに行きますが必要がありません。
「エクトル!ムー!貴方たちが、相手にしなければならないのは誰ですか?まだわからないのですか?」
エクトルは、流石に解ったようです。
案内人が暴発すればするほど、交渉が楽になります。武器もスキルカードも取り上げていません。攻撃を仕掛けてきても問題はありません。
「はっ」
エクトルはすぐに戻ってきて、ステファナの後ろに控えます。
今、守らなければならないのは、私でも案内人でもなく、ステファナなのです。旦那様も奥様も、それを望まれています。
ムーたちはまだ理解が足りないようです。
「エクトル」
エクトルに目で知らせます。
これでわからなければ、ムーたちも”その程度の者たち”で、従者には必要はありません。ルートガー殿に押し付け・・・。いや、ルートガー殿の諜報部門に推薦するのがいいでしょう。彼も、独自の情報網を持っているようですが、まだまだ旦那様には及びません。人員が足りていないのでしょう。能力を十全に発揮するためには、手足がしっかりとしていなければならないのです。クリスティーネ殿の従者をお使いになっているようですが、私から見ると従者の者たちを、うまく使われているとは思えません。旦那様のように、”できる”とは思いませんが、他人を使う様にしなければ、自分で自分の首をしめてしまいます。
エクトルは、私の意思を汲み取れたようで、ムーたちの所に移動して話をしています。
話に納得ができないのでしょう。ムーたちはエクトルに何か言い返しています。いい加減に、自分たちの立場を認識してほしいものです。
「エクトル。もういいです。ステファナ様もいいですよね?」
「はい。そうですね。切り捨てましょう。旦那様も、エクトル殿がいれば問題はないとお考えでしょう。ムー殿たちを連れて帰っても、ルートガー殿の配下の配下にしか使えないでしょう。戦闘力も期待が出来ません」
「なっ」
聞こえていたようです。いえ、呆れてステファナ様が聞こえるように言ったのでしょう。ムーたちが私たちを睨みます。
慌てて、エクトルが間に入って、ムーたちを宥めていますが、本当に無意味です。
ステファナ様が、”切り捨てる”と言っているのなら、切り捨てても問題は無いのでしょう。
「さて、ムー殿。貴方たちは、立場が解っていないようです」
「・・・」
「貴方たちは、旦那様や奥様を狙って攻撃をしました。それだけでも、度し難く、我慢するのが難しい状況なのに、カイ様やウミ様を狙った案内人を庇うという愚行に出ました。そして、最後のチャンスとして、ご自分たちの立場を理解されて、ステファナ様の休憩中の安全を確保に尽力すれば、まだ救いがありました。しかし、貴方たちは不貞腐れて、立ち上がろうともしません。それだけではありません。エクトルが、説明してお願いしたのに、態度を改めません。私たちは、貴方たちを完全に捕虜として扱うことに決めました。よって、案内人を含めて拘束させていただきます」
手を上げると、控えていた配下が一斉に飛び出して、ムーたちと案内人を抵抗するまもなく拘束した。
面倒になりましたが、これで旦那様と奥様が甘く見られる状況はなくなった。
万が一のときには、私の首を差し出せばいい。
「モデスト様。終わりました」
「ご苦労さま。誰か、旦那様にご報告に走ってください」
「かしこまりました」
配下の一人が、隊列から離れます。
旦那様と奥様にご報告は必要でしょう。ご連絡があるかもしれませんが、旦那様のご様子から考えると、こうなると予測していたかもしれません。
その証拠に・・・。
”にゃぁ”
「ウミ様」
やはり・・・。
ウミ様が、スネーク種を咥えて、ステファナ様の所に移動します。どうやら、私たちの隊列を狙っていたようです。殺しては居ないようですが、ムーたちの様子を見ると、知っている魔物のようです。
”にゃ!”
旦那様がいればわかるのですが、しょうがありません。
捉えていただいたスネーク種を預かります。ウミ様は、ステファナ様の所に言って、頭をなでてもらっています。
さて、尋問する内容が増えてしまいましたが、致し方ない。旦那様と奥様のためです。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
ファンタジー
ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる