323 / 323
第三十二章 妊娠
第三百二十三話
しおりを挟むドリュアスが、部屋に入ってきて、クリスティーネに来訪者を告げる。
名前を聞いて、少しだけ驚いた表情を見せたクリスティーネは、シロに来訪者を告げる。
「シロ様。竜族の長が、参られています」
クリスティーネはシロだけではなく、お茶会に参加していた者たちにも来訪者が誰なのか分かるように、名前ではなく肩書?を告げた。
「ドゥラン殿が?」
「はい。どうしますか?」
「カトリナとナーシャには悪いけど、お茶会は”ここまで”としましょう」
シロが言い出さなくても、龍族の長が来ているのだ、お茶会の続行は不可能だ。
カトリナとナーシャも文句は言わない。ナーシャは、文句は言わないが、お茶会で出されていたお菓子をしっかりと包んで持って帰ろうとしていた。
「レイニー。出す予定だったお菓子も一緒にナーシャさんに渡して」
なぜかカタリナが恥ずかしそうにしているが、お菓子を渡されたナーシャは嬉しそうにしている。ナーシャは、カタリナを誘って別の場所でのお茶会を続行することにしたようだ。
部屋には、シロとレイニーとクリスティーネが残った状態になっている。
「ドゥラン殿の目的が不明だけど・・・」
シロは、目的は不明だと言っているが、自分の妊娠に関係する事柄だと考えている。
この短時間で、どうやって連絡をしたのかわからないが、龍族の長として訪問だ。ツクモが不在の時には、シロが対応しなければならない。
「シロ様。ルートガーを呼びますか?行政区なら、駆けつけられると思います」
「・・・。いいわ。それに、目的は私だと思うから、ひとまず話を聞きましょう。私たちで対応が難しければ、その時にドゥラン殿に事情を説明して、カズトさんやルートガーさんを呼びに行きましょう。そのくらいの対応は許してもらえると思うわよ」
「そうですね」
部屋の外で待機していた。ヴィマとヴィミとラッヘルとヨナタンに、クリスティーネが指示を出す。
ヴィマとヴィミには、ドゥラン殿の案内。ラッヘルとヨナタンには、いつでも行政区に迎えるように準備をするように伝える。ドリュアスには、ツクモの居場所の確認を依頼する。
立場で考えれば、クリスティーネの同席はドゥランの確認を行う必要があるのだが、シロは同格の者としてクリスティーネを連れてドゥランに対面することを考えていた。
「シロ様。さすがに・・・」
「クリス。いい加減、諦めましょう。私の妊娠が発覚したことで、より一層、ルートガーさんへの権限移譲が行われると思うわよ」
「・・・」
クリスティーネも、肌で感じている。
ツクモが、ルートガーに権限の委譲を行っていることを・・・。チアル大陸の統治者は、ツクモのままだが、実権はルートガーが握るような状態に持っていこうとしているのだと感じている。
「シロ様。シロ様は、いいのですか?」
クリスティーネは、シロと会話をする機会は少なかった。
今までは、ツクモが一緒だったり、ルートガーが一緒だったり、誰かが一緒にいた。短い時間でも二人だけで会うことは数えるほどしかなかった。
二人だけで会っている時でも、クリスティーネはどこかシロに遠慮してしまっていた。気遣いではなく、シロにたいして苦手意識があった。それは、シロが元アトフィア教の聖騎士を名乗っていたことにも影響している。そしてシロの旦那であり自らの恩人でもあるカズトを、夫であるルートガーが命を狙ったことも影響している。カズトもシロも既に過去のことだと割り切っているのだが、ルートガーもクリスティーネも心に引っ掛かりを覚えている。
しかし、クリスティーネはこの機会にシロの本心を聞きたいと思った。
シロが妊娠したことで、ツクモとシロの跡取りができる。龍族のエリンが”伴侶”だと言っていることから、男児である可能性は極めて高い。そんな跡継ぎを宿している。
「なに?」
シロは、クリスティーネが何を聞きたいのかわかっているが、あえて質問を返すことで、クリスティーネの考えを計ろうと考えた。
「その・・・。このままだと、チアル大陸は、ルートが把握してしまいます」
クリスティーネとしては、絶対に聞いておかなければならないことだ。
そして、懸念している状況にならないように誘導したい。表情は穏やかでいつもと同じ雰囲気だが、信じられないくらい緊張している。
ルートガーが、”また”ツクモの命を狙うような状況を作り出すわけにはいかない。それだけではなく、ツクモとルートガーの間に誰かが入りこむような隙間は必要ない。そのためにも、ツクモには絶対者として君臨していてほしい。ルートガーの性分からいえば、上に立つよりも、補佐として動いている方が輝くと思っている。
「いいわよ」
「え?」
「もともと、あなたとルートガーさんに統治させて、私とカズトさんはロックハンドか岩場の邸で過ごそうと考えていたのよ」
「・・・。はい」
「最近は、カズトさんも考えを変えたみたいだけどね」
「え?」
カズトは、裏方に徹してルートガーが動きやすいように場を整えるつもりでいた。
しかし、ここに来てカズトの影響が大きくなりすぎている。ルートガーに変わっても、いきなりでは難しい。徐々に変わっても、統治方法が違えばあつれきが生まれてしまう。
そのために、最初に考えていた徐々に権限を委譲するやり方ではなく、別の方法を考え始めている。
シロは、カズトから相談をうけているわけではないが、カズトと過ごしている間にカズトの考えが見えてきた。カズトから答えは聞いていないが、間違っているとは思っていない。
「チアル大陸だけではなくて、中央大陸やエルフ大陸にまで影響力を持ち始めたでしょ?」
「はい」
「悩んでいるようだけど、チアル大陸をルートガーさんに任せて、外交部分をカズトさんが担当する方向で調整を行うようよ」
「それなら・・・」
「それに、このまま混乱が進むようなら、ドワーフ大陸や他の大陸にも手を出すことになるでしょ?」
「・・・。はい」
クリスティーネが俯いてしまった。
カズトが、チアル大陸を蔑ろにしていると考えてしまった。頭を振って、自分の考えを頭から追い出そうとしている。
シロは、クリスティーネの態度から何を考えたのか思い至った。
そして、クリスティーネの手を取って優しく話しかける。
「でもね。クリス。間違えないでほしいの」
「え?」
「カズトさんも、私も、チアル大陸が好き。ここに住んでいる人たちが大切なの」
「・・・」
クリスティーネは、シロの言葉の意味がわからない。
大切なら、外に出ようとしないで、皆を、自分を、ルートガーを導いてほしい。そんな思いを込めて、シロを見つめる。
「だからね。カズトさんが信頼している人にチアル大陸を任せたいのよ。帰るべき家を守ってもらいたいと思っているの」
「・・・。はい」
ツクモが考えていることと大きくはかけ離れていない。
シロは、足が止まってしまっているクリスティーネを少しだけ強引に引っ張るように歩かせる。
そして、俯いている状況から前を向かせる。気持ちが落ち込んでいるのはわかる。納得が出来ていないだろうと想像もできる。
「納得できない?」
「いえ・・・。そうではなくて・・・。いえ・・・。なんとなくはわかっているのですが・・・」
困った表情をクリスティーネに向ける。
シロにもわかっている。いきなり言われて、それも自分たちが考えていたよりも大きな話をいきなり聞かされたのだ。
「そうね。カズトさんの悪い所ね。ルートガーさんに、しっかりと説明をしていないのよね?」
「はい」
二人は話をしながらゆっくり歩いたが、龍族の長であるドゥランが待つ部屋の前まで来ていた。
「この話は、クリスとルートガーさんで話をして、カズトさんを問い詰めて。私からの説明よりも、納得ができると思うわよ」
「・・・。ルートも、意固地になるので・・・」
「そうね。難しいかもね。でも、しっかりと話をしないと・・・。”伝わらない”ことがあるのだと、知らせないとね」
「はい」
30
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(193件)
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~
エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます!
2000年代初頭。
突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。
しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。
人類とダンジョンが共存して数十年。
元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。
なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。
これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
人族至上主義な宗教が一声掛けただけで一国家の一領地を侵略可能なのも理解出来ない
新興宗教とあったし権力なんてたかが知れてる国が動けばどうとでもなるだろうにやられ放題国のトップは動きを見せませんってどんな管理してればそうなる
果たしてそれは国と言えるのか…
スキルイータって所謂強奪系スキルじゃないの?どの辺に捕食要素あるんだ
今後出てくるかも知れんから置いとくとして12歳になってもまだスキルカード有効活用してないしステータス画面を出さないのは意味わからんし読み手に失礼じゃないかな
2年経ちました、からの経過報告なしはあんまりです
カイとライが入れ違いが何ヵ所かあるようです