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3周年のチラシ
しおりを挟む高校生の男子が1人で住むには、少しだけ不釣り合いなマンションだが、大城和義は一人暮らしをしている。
よくある理由で、不幸が重なったからだけだ。
高校2年になっているが、部活もバイトもしていない和義は、学校からまっすぐに部屋に帰ってくる。
マンションはオートロック機能がついている上に常時人が居る状態になっている。その上、部屋のドアには監視カメラがついていて、帰ってからでも訪ねてきた人を確認できる状態になっている。
和義が部屋のドアを開けると、白い1枚のチラシが床に落ちた。拾い上げて部屋にはいる。
(なんだろう?)
チラシの一部はなにか書き込めるようになっているようだ。
(え?)
チラシの印刷面には、いたずらとしか考えられない言葉が並んでいた。
--
この地で開業して、来週で3周年。
普段では、1人殺すのに、500万円+実費がかかる所を、このチラシの下部に名前を書いていただければ、3名まで無料で承ります。3名の殺人依頼が完遂してから24時間以内に、もう一人を決定していただければ、料金は発生いたしません。
殺し一筋20年
殺しの専門家、殺し屋本舗 代表:八本聖人
名前: 理由:
名前: 理由:
名前: 理由:
最後の1人
名前:
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(は?)
ふざけているとしか思えない。
しかし和義にはこのチラシを簡単に捨てるにはもったいない気持ちになっていた。
オートロックのマンション内に入って来た事実。
そして、防犯カメラに何も映し出されて居ないのだ。
ドアの近くに立たなければ、チラシを挟むことはできない。オートロックはいくらでもやり方があるが、防犯カメラに撮影されないで、チラシを挟むことは不可能だと思われる。
(いたずらにしては手が込んでいる)
和義は、学校でいじめられていた。
男子3名から暴力だけではなく、噂を流されるなどの行為を受けていた。
最初は些細な意見の食い違いだった。本人たちもよく覚えていないだろう。
それが、いじめに発展していった。
和義は、チラシをリビングのテーブルに置いた。
(父さんと母さんが死んでから3年か・・・)
両親は、車の事故だった。両親が運転していた所に、酔っぱらい運転の車が突っ込んだ。そのままガードレールに挟まられる形になってしまった。事故を起こした運転手は逃げ出したらしいのだが、荷物が悪かった。
灯油を運んでいた。事故の衝撃で灯油に引火して、両親は逃げ出す事ができない状況で死んでしまった。
保険の全額と、相手からの賠償金と和解金が払われた。
両親には親も兄弟も居なかった事もあり、全額和義が相続する形になった。和義は、担当してくれた弁護士の勧めもあって今住んでいるマンションを購入した。
それでも、贅沢しなければ、大学卒業するまでの資金が残される。大学を卒業した後で、有名なドイツ車のCクラスクーペをフル装備の新車を即金で買っても大丈夫なくらいには余裕がある。
数日、和義もチラシの事を忘れて生活をしていた。
日々続けられるいじめも淡々と受けて過ごしている。暴力は嫌だけど、相手にするのも馬鹿らしいと思ってしまっている。それが、相手を余計に苛つかせているとは考えもしていなかった。
チラシが挟まれてから5日後。
和義の部屋にまたチラシが挟まれた。
その日は、学校が休みでどこに行くわけでもなく部屋に引きこもっていた。誰も部屋を訪問してきていないのは確かだ。防犯カメラにも誰も写り込んでいない。
--
3周年記念企画
終了間近
--
内容がほぼ同じチラシだ。
最初の書き出しだけが変わっている。
翌日、3周年記念のチラシに、和義は同級生3名の名前を書く。
その日、学校には行ったものの体調が良くなかった和義は保健室で休んでいた。いじめに有っているのは、先生たちも認識している。保健室で休むと言われると拒否できない。
和義が保健室で休んでいるとは知らない3名がやはりサボりの意味で、保健室を使ったのは偶然だったのだろう。
しかし、その時の会話を聞いてしまった和義の心情は偶然では済ます事ができる類の事ではなかった。
和義が偶然聞いた3人の会話から、父親と母親が殺された事。
3人が薬をやっているのを注意されて、両親が証拠を持った状態で警察に駆け込もうとしていた。それを知った3人は、自身の父親に泣きついた。泣きつかれた父親は、息子たちを叱るのではなく、証拠もろとも消す方法を考えて実行に移した。
本来なら、運転手も殺す手はずだったのだが、運転手が生き残ってしまった。
口止め料を払うと行って呼び出して、殺したようだが、そのために余計に金がかかってしまって、自分たちが自由に使える金が減ったと憤慨していた。
(父さんと母さんは殺された?)
午後の授業には出られる気分にはならなかった。
和義は、そのまま部屋に帰って、リビングのテーブルの上に置いてあった”3周年チラシ”に空欄に3人の同級生の名前を書き込んで、理由の欄に、”父と母を殺した”とだけ書いた。
そのままベッドに横になり寝てしまった。
夜中に、喉の渇きで起き出して、買ってきていたペットボトルで喉を潤した。
リビングのテーブルの上に置いてあったチラシを探したが見当たらない。
寝ぼけて捨ててしまったのだろう。気にしてもしょうがないと思い、和義はベッドに倒れ込むように寝てしまった。
翌日も、気分が優れない事から、学校を休んでしまった。
夕方まで、ベッドで横になっていた。
3人の同級生にあった時に、どういう顔をすればいいのかまだ考えがまとまっていなかった。彼らの話しが真実だとして、証拠は何もない。問い詰めても言い逃れはいくらでもできてしまう。
言い逃れを言ってくる彼らを和義は受け入れられる自身がなかった。
護身用に携帯しているナイフを眺めてみても、同じ結論にしか到達しない。
(殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す)
(父さんと母さんを、そして俺を)
和義は、ナイフを閉まって、起き上がった。
昨日探して見つからなかったチラシがリビングのテーブルの上に戻っている。和義には、戻ってきているという印象が正しい。テーブルの上に無いのは、ベッドで横になる前にも確認している。
チラシを手にとった。
(え?)
チラシには、昨日3名の名前を書いた。
理由も明確では無いが書いた。
それ以外は何も書いていないはずなのに、チラシには、”受諾”のハンコが押されている。
空いているスペースに一人目と二人目には今日の日付が書かれている。
和義は、慌ててスマホを取り上げるが、3人の連絡先を知るはずもなかったが、学校の知人で唯一知っている連絡先に、メールを送った。
聞ける事は少ない。
”学校でなにか変わった事が有った?”
だけだ。
返事は、すぐに返ってこない
10分待っても返事が来る事がなかった。
翌朝。
気になってチラシを見ると、最後の1人の所に昨日の日付が書き込まれていた。
3人に同じ日付が書かれた事になる。
和義は、学校に行く決心をした。ナイフはベッドの上に投げておく。
持っていくと、奴らを殺してしまうかも知れないからだ。
インターホンが鳴った。
「大城和義さんですか?」
「はい。そうです」
「警察署の者です」
「え?」
「朝早くから申し訳ありません。同級生の○さんと○さんと○さんの事をお聞きしたく伺いました。お手間は取らせません。少しお話を伺ってよろしいですか?」
和義が振り返って、テーブルの上を見ると、さっきまで有ったはずのチラシがなくなっていた。
「はい。学校の時間までなら大丈夫です」
「ありがとうございます」
「あっそうですね。開けますね」
「はい」
5分ほどして、二人の警官が和義の部屋を訪ねてきた。
ドア越しの話しもおかしいので、部屋に入ってもらった。警察は、もし学校に遅れそうなら、送っていくとまで言ってくれている。
「最初にお伺いしたいのは・・・」
「調べてきたのでしょう?俺は、奴ら3人にいじめられていました」
「それだけですか?」
「どういう事でしょうか?」
「彼らの部屋から、貴方のご両親を殺害するように依頼する書類が見つかっています」
「え!父さんと母さんは事故で・・・。殺された?本当・・・ですか?でも・・・なんで・・・?」
「それを調べています」
「そうなのですね。でも、俺は何も・・・。知りません。それよりも、奴らがなにかしたのですか?」
「彼らは・・・死にました。殺された可能性も有るために、調べています」
「え?死んだ?殺された?誰に?え?もしかして・・・」
「えぇ貴方を疑っていましたが、死亡時刻に貴方がこの部屋に居たのはほぼ確実です」
「え?そんな・・・でも、何時なのですか?」
「一応聞きますが、貴方は昨日どこにいらっしゃいましたか?」
「昨日ですか、体調が悪くて寝ていました。でも、誰もそれを証明してくれる人はいないと思います」
「そうですね。でも、このマンションは防犯カメラが沢山あります。死亡時刻の前後に貴方が防犯カメラに映っていないのは確実です。ですので、貴方のアリバイは成立していると考えています」
「・・。それで、奴らはどうやって・・・」
「焼死です」
「え?」
「手足を縛られた状態で、煙が出ない状態で火炙りにされていました」
「・・・。それで、俺を疑ったのですね」
「そうです」
警察は、指紋とDNAの提出を求めてきた。
すべての要求を受けた。警察が部屋から出ていってから、和義はテーブルを見た。
やはり
”3周年チラシ”は戻ってきていた。
最後の1人に、自分の名前を書いて、空白に苦しまないように殺して欲しいとだけ書き込んだ。
和義は、学校に行って、戻ってこなかった。
--
「聖人。本当に、ここ貰っていいの?」
「正当な報酬です」
「遠慮しないからね」
「はい。それでは、これで契約は完了で問題ないですよね?」
「うん。本当に、3周年チラシにかかれていた通りだね」
「えぇ嘘は書きません」
「うん。それじゃね。聖人」
「はい。今日から、貴方が和義さんですね。また何かご入用のときにはお声がけください」
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