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第五章 ギルドの依頼
第二十七話 事情確認2
しおりを挟むミーシャとラナはお互いが知っている事情を補足しながら、一日目に発生したことを説明した。ヤスは、目を閉じながら二人の話を聞いていた。
ヤスが閉じていた目を開いて二人を見た。
「それで?それだけじゃないのだろう?」
ヤスの怒りを含んだ言葉に二人は驚いた。
飄々としていたヤスがはっきりと怒りの感情を出したのだ。二人は、自分に向けられた怒りの感情でない事は理解できているが、それでも背中に流れる汗を止める事ができなかった。それほど、ヤスは怒っていたのだ。ヤスも自分が何に怒っているのか理解できないでいた。ただ、理不尽な状況に怒りを覚えているのは間違いはなかった。
二人を威圧してしまったのも、ヤスのステータスに原因がある。
2万体の魔物を倒したのだ。そして、神殿に居た魔物もディアナが討伐している。全てがヤスの経験値となってステータスが上昇していたのだ。マルスが偽装しているので、本人も忘れているのだがヤスはステータスだけなら強者と言っても問題がないほどだ。戦闘経験が伴わない上に、自分でも戦えないと思っているので、今後ヤスの実力が露呈するチャンスはないだろう。
「ヤス殿。次の朝にまた事態が動きます」
ラナがヤスに向かって説明を始める。
---
「ラナ様大変です!」
丁稚に来ていたハーフドワーフの子供が宿屋に駆け込んできた。
ラナは予想していた者たちが来たと認識して子供を裏門から逃した。他の者たちもすぐに裏門から逃した。裏門が見張られて居ない状況なのは昨日の夜からわかっている。だからラナの役目は、皆が逃げる時間を稼ぐだけで十分なのだ。
ラナが宿の受付で待っていると、武装した男たちが乱暴に扉を開けて入ってきた。
「貴様が、この宿屋の店主か?」
ラナはひと目で第二分隊の者だとわかった。
辺境伯も長男も長女も立派な人間でエルフ族だからと蔑んだりはしない。貴族らしい貴族だが無駄な事はしない。例外なのが、次男なのだ。長男が立派に領都の兵をまとめ上げているので、自分はそれ以上の手柄が欲しくて、辺境伯に無理を言って”第二分隊”を設立して自分が隊長におさまった。
第二分隊は人族至上主義なのか、エルフ族を下に見る傾向が強い。それだけではなく、獣人や亜人は人ではないと言い切って何をしても許されると思っている状態なのだ。長男や長女の手前あまり無理な事はしていないがタガが外れてしまうと何をしだすかわからない集団だ。
それだけではなく、資金の出所は不明とされている状態だが、全員が派手な衣装で身を固めている。武具や防具も領兵や守備隊に渡されるものとは違っている。ヤスが持ってきたような実用性がある武器や防具ではなく、ただ単純に派手なだけだが人目を引く格好をしている。
ラナでなくても間違える事はない。
ラナが隊長と思われる若造を見てからかうようなことを言う。
「違うと言ったら帰ってくれるのかい?」
「ふざけるな!お前の所に、エルフの娘が宿泊しているだろう?次期領主様が妾にと望んでおられる。すぐに連れてまいれ」
若造は、すっかりとラナのペースに乗せられたのだが、エルフ族にバカにされたと思って一気に頭に血が登ってしまった。
部下がいるので、無様な姿を見せるわけには行かないという思いが強く下に見ているエルフ族にバカにされた事で冷静さを失ってしまっている。
「は?宿泊?どこに?知らないね」
「嘘を言うな!」
実際に、宿泊はしていたのだがもう逃してある。
「嘘じゃないね。なんなら調べたらいい。それに、次期領主とは辺境伯様は跡継ぎを決められたのかい?たしか、クリストフ様と・・・。なんと言ったか・・・あのブタは・・・あぁ思い出した、ゲロンメロンだったか・・・。決まったのか?」
調べられて困る事はない。
派手なだけの装備で怒鳴っていれば誰もが言うことを聞くと思っている愚か者には嫌味も通じないらしい。
自分たちの隊長をブタやゲロンメロンとか言われても”バカにされている”としか考えないようだ。
実際には、辺境伯は”次期領主”は長男か長女の婿に継がせるつもりだ。王国の社交界では有名な話だ。だからこそ次男は、長男や長女の事が霞んでしまうような武勲を求めている。スタンピードに先立って物資を集めて、部下を率いて魔物に対応すれば領主が自分を跡取りに指名するはずだと考えたのだ。そこに、エルフ族のリーゼを妾にすれば完璧に長男を越える事ができると思ったのだ。
次男に進言した奴の狙いは、領都から食料と物資を買い集めてエルフ族からは徴発する。物資が無くなったエルフ族にリーゼと引き換えに食料と物資を渡す事にする。こうする事でスタンピードへの備えができ、邪魔なエルフ族を屈服させる事ができる。その上リーゼが手に入る。取らぬなんとか・・・なのだが本人たちはこれで全てがうまくいくと思っている。自分たちのことを知恵者だと思っているのだ。
「きっ貴様!次期領主様は、ゲロストフ様に決まっている!宿屋の中を調べさせてもらう!食料や物資も守備隊が貰い受ける」
「貰い受ける?どんな根拠で?」
ラナが腕を組んで隊長を威嚇する。
「根拠?ゲロストフ様が、スタンピードに備えて貴様らを守ってやるのだ、物資くらい喜んで提供しろ!」
すでにラナ達は昨日の時点で領都を出る事を考えていた。
そのために調べられても何も無い状態なのだ。
「どうぞ、勝手に探して持っていってくれ」
「おい。女を探せ!髪の毛を短くしているエルフ族だ!物資も全部持ち出せ!」
「はっ」
ラナの宿屋にやってきたのは中隊長だったのだが、自分の事を”隊長”と呼ばせている。他の中隊も同じなのだ。見栄の塊のような集団なのだ。部下たちもうまく行けばおこぼれに預かれる程度の事しか考えていない。次男が求めているエルフ族の娘以外に女がいれば皆で廻せる程度に考えていたのだ。
連れてきた部下たちが宿屋の中に入っていく。ラナは、その様子を一歩も動かずに見ている。
「勝手にするのがいい。そうだ、アンタの名前と所属を教えてくれよ」
「なぜだ?」
「決まっているだろう。エルフ族にアンタの名前を周知するためだよ。二度と、エルフ族に関わりたくないだろう?」
「なに!」
「早く教えな。エルフ族の秘宝も使えなくする必要が有るだろう?特に、”魔通信機”は二度と使えると思うな!」
ラナが強く言い切る。
「貴様にそんな事が・・・」「できないと思うのはアンタの勝手だよ。だから、早く名前を教えな。アンタとゲロンメロンがエルフ族と敵対したから、”魔通信機”が使えなくなったと領主に説明する必要が有るだろう?まぁ教えなくても、ゲロンメロンがエルフ族を不当に扱ったと正式文章にして王国と辺境伯に届ける事になるけどな」
ラナは、中隊長が話し終わる前に言葉をつなげる。
中隊長はこのときになって事態が悪い方向に動いたことを悟った。
”魔通信機”がエルフ族の秘宝だという事は有名な話なので知っていたのだが、ラナに権利があるとは考えていなかった。それに、エルフなんて人族よりも劣る者たちなら神に愛された人族が命令すれば喜んで従うと考えていたのだ。
しかし、領主や国王まで出されると話が違ってくる。自分だけで判断できるような事ではない。絶対に大丈夫と言い切ることができない状況なので、誰か他の人間に罪をなすりつけたいと思っていたのだが・・・。
部下がその考えを木っ端微塵に砕いてくれた。
「ハーゲン隊長。誰もいません。食料も物資も何もありません」
宿屋の中を探っていた部下の一人が帰ってきた。
中隊長の名雨がハーゲンだという事がわかった瞬間だった。
ラナはニヤリとだけ笑った。
「ほぉ・・・。あんた、ハーゲンというのだね。さて、誰も居なかっただろう?帰ってくれよ。この店はもう閉じるのだからね」
「なに?閉じてどこに行くつもりだ!逃亡は許さん!」
ハーゲン中隊長は名前を告げた部下を睨むが怒るわけには行かない。
ラナの言葉の中で、”閉じる”という言葉を”逃亡”という言葉に置き換えて話をずらそうとした。
「そんな事、ハーゲン隊長には関係ない事だろう?ゲロンメロンや領主様に褒められることだね。ハーゲン隊長。エルフ族と敵対したと褒めてくれるだろうからな。領主の所の”魔通信機”だけを止めるのは困るだろう。王国全部の物を使えなくしよう。よかったな。ハーゲン隊長。国宝陛下や貴族の方々からお褒めの言葉がもらえるでしょう」
ラナが、ゲロストフのことを敬称も付けないし、そもそも名前が間違っているのに気が付かないほどに動揺していた。
ハーゲン中隊長は悪態を付いてから近くにあった机を壊して宿を出ていった。
---
それから、ヤスが到着するまでに受けた嫌がらせや罵倒などをラナが語りだした。
「わかった。ラナ。でも、ユーラットに・・・。エルフ族が何人いるのかわからないけど入る事ができるのか?入れたとして、生活できるのか?」
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