81 / 293
第六章 神殿と辺境伯
幕間 道中の話?
しおりを挟むギルドの入り口でデイトリッヒが挨拶をする。アフネスがギルドに入ってきた。
「ミーシャ!ラナ!それで?何があった?」
椅子に座る前にアフネスは同郷二人に問いかけた。
ミーシャとラナはお互いの顔を見て何かを諦めたかのような表情をしてヤスが領都からユーラットに向けて出立してからのことを話した。
「それで、ミーシャとラナはリーゼ様を守る形でユーラットに移住を決定したという事かい?」
「姉さん」「ミーシャ。その呼び方をするなと言っているよな?お前はわかってやっているのか?」
ミーシャが頭を下げるが、ラナもアフネスもミーシャが改める気がないことを知っている。
「わかった、それでミーシャ。ヤスはなんと言っている?ミーシャとラナのことだから何も考えないで、大人数を率いてきたわけじゃないのだろう?」
ミーシャとラナと一緒に座っていたダーホスが手を挙げる。
「アフネス殿。申し訳ないが先にギルドの・・・。冒険者ギルドの話をさせてもらっていいか?」
ダーホスが意を決したような発言をした。
みなの視線が集中するのだが、アフネスからの言葉は簡単だった。
「わかった」
ホッと息を吐き出すダーホス。
領都での出来事はすでにダーホスに伝わっている。秘匿しているわけではないが隠したい気持ちが強くドーリスだけにしか詳しく話をしていない。
「ミーシャ。それに、ラナ殿。スタンピードが無くなっていたと聞いたが間違いないのか?」
「ユーラットのギルマスには申し訳ないが、”わからない”が答えです。ラナも同意見で、デイトリッヒに聞いても同じ意見になると思う」
「そうか・・・。何か、ヒントのような物は無いのか?このまま動いても無駄足になってしまう」
無駄足と聞いてアフネスが口を挟む。
「ダーホス!ギルドなんて物は、無駄足だと解ってもやるべき時に動かなければ存在する意味がない」
「アフネス殿。それは解っているが、危険だと解っている場所に・・・」
「それが間違いだと言っている!危険な場所に赴いて情報や素材を持ち帰る。それが冒険者ギルドの役目じゃないのか?」
「そうだが、領主が・・・」「ダーホス。領主は領主だ。今は、冒険者ギルドの話をしている!」
アフネスが完全に切れている。
ダーホスに切れているわけではない。領主が動かないことに嫌気が差しているのだ。
「姉さん。ダーホス殿。スタンピードのことなのですが、ヤス殿に聞くのは良いと思うのですが?」
「は?ヤス殿?」「ヤスが素直に話すと思うか?」
ダーホスは普通に疑問に思っている。
アフネスはヤスが何かをした可能性があるとは思っているが素直に話すとは思えなかった。
「ミーシャ。ヤス殿が何をしたのかはわからないが流石に・・・」
「そうね。教えてくれるとは思えないけど、聞いてみる必要はあるだろうね」
「アフネス殿?」
「ダーホス。スタンピードの時期が明確になっていないから正確な事は言えないけど、ヤスは領都とユーラットの間を最低でも1往復している。その間にスタンピードがユーラットに近づいていると考えるのが自然だ。それなのに、ヤスは無傷で領都にもユーラットに現れた。イザークが見た所、アーティファクトにも傷がなかったのだろう?」
急に声をかけられたイザークは肯定の意味を込めてうなずく。
うなずいてから一つだけ伝えていない情報があることを思い出した。
「ヤスの奴、俺と話をしたときにかなり疲れていたのは確かだぞ?」
「「!!」」
アフネスとミーシャがイザークの言葉に驚いている。
「イザーク。それは本当か?」
「うーん。間違いないかと言われると心配になるけど、疲れているように見えたのは間違いないぞ?」
「・・・。そうか・・・」
アフネスが考え込んでしまった。
実際には、単純に寝ていないから疲れていただけなのだが、ヤスが乗っているのを通常のアーティファクトと同等だと考えている面々は、ヤスの魔力を使って動いていると思っているためにヤスの疲労はアーティファクトを酷使したためだと考えたようだ。
実際に魔力は使っているが、ヤスの魔力だけを使っているわけではない。そのために、皆が考えているほどヤスには負担はない。
「そうだ!」
ミーシャが何かを思い出した。
正確には、報告すべきことを思い出しただけなのが、あたかも”今思い出した”雰囲気を出すことにしたのだ。
「どうした?」
「いや、領都からユーラットに来る途中の石壁や湧き水や空き地は確実にヤス殿が行ったことだろうとは思うが一つだけ不思議なことがある」
「ん?石壁や湧き水や空き地だけでも不思議だぞ?」
「ヤスのことと、スタンピードのことは、領都からユーラットの道中の話を話し終えてから話をしませんか?」
ミーシャが気になるワードを口にしたことから、ダーホスも状況を確認してからスタンピードのことを聞くことに方向転換した。
「姉さんもダーホス殿もイザーク殿も、今から説明が終わるまで質問はしないでください。答えられません。ラナとデイトリッヒは補足をお願いします」
ミーシャは、領都を出た辺りからの説明を始めた。
当初は予定よりも遅れていたことも正直に話をした。
神殿の麓に来たときの異様な風景は言葉では説明が難しいと思っていたのだが、ラナとデイトリッヒが補足を入れることでアフネフにもダーホスにもついでにイザークにも伝わった。
「ミーシャ。質問ではなく確認なのだが?」
「何でしょうか?姉さん」
「石壁は、イザークが数日前に門の近くにできたと言うのと同じか?」
「同じなのかわかりませんが、麓からユーラットまで続いています。それから、私の憶測ですが、裏門まで続いているのではないかと思います」
「そうか・・・。ミーシャ。話の腰を折って悪かった続きを頼む」
ミーシャは不思議な休憩場の話をまとめた。
「それで?」
「発見者は私ではなくデイトリッヒですが、神殿の麓は海までの距離も近くなっています」
「そうだな」
ダーホスが肯定する。そのまま、イザークにギルドから周辺の概略地図を持ってきてもらった。普段はギルドの関係者にしか見せることが無い地図だ。
「この辺りか?」
ミーシャはよくわからないと言葉を詰まらせたので、デイトリッヒが補足を入れる。
「わかった。それで?」
ダーホスが地図に置き石をしたことを確認してから話をすすめる。
「この辺りの海は崖になっていますよね?」
ダーホスとイザークがうなずく。
「崖の下と表現していいのかわからないけど、捨てるように大量の魔物の死骸があった」
「なに!本当か?」
ダーホスが立ち上がってミーシャに詰め寄る。
「ダーホス。少し落ち着け。話の続きがありそうだ」
「姉さん。ありがとうございます。それで死骸には、コボルドやゴブリンやオークやオーガだけではなく上位種や変異種らしく死骸もありました」
「数は?」
「わかりません。それこそ、おびただしいと表現してよいかと思います。それだけではなく、大量のスライムも確認しました」
「数は・・・確認するしか無いか?」
「ダーホス。それは無理だ。スライムが居たとミーシャが言っていただろう?すでに溶かされてしまっているだろう」
「姉さんのおっしゃっている通りです。私たちが確認した時でもすでに溶かされた死骸がありました」
ダーホスは少しだけ考えてから口を開く
「そうなると確認するには降りて魔核を確認する必要があるのか?」
「あっそうでした。すべてを確認したわけではありませんが、ゴブリンやコボルトは喉の下辺りを、オークやオーガの中型種は、胸の中心部分が切られていました」
ミーシャの説明をデイトリッヒが補足する。
魔物が自ら死んだわけではない事はわかっている。確実に人の手が入っている証左である。
ヤスだけの仕業であると考えるのには無理がある。
最低でも、数千の魔物を倒せたとしても、それを崖に落とす作業だけでもかなりの時間が必要だ。二人の説明から、かなりの距離を移動しながら魔物を倒して、倒した魔物から魔核を抜き取って、さらに崖下に落としていくことが可能なのか?それだけではなく、海には存在しないスライムを死骸の処理に使っていることも不思議な方法だ。ギルドに持ち込めば換金できる。
「結局、ヤスを問い詰めないと話がわからないということか?」
0
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる