117 / 293
第七章 王都ヴァイゼ
第七話 領主からの依頼
ヤスはエミリアに命じて結界を解除した。
「ヤス殿。感謝します」
コンラートが近づいてきて、まずヤスに感謝の言葉を口にした。
ヤスはコンラートの言葉を流しながらドーリスに話しかける。
「いや、それは良いけど・・・。ドーリス。もう出られるのか?次の街に行こう」
「いえ、領主から依頼がありまして、その関係で彼らに来てもらいました」
襲撃犯を完全に無視してヤスとドーリスは話をしているのだが、目の前で拘束された連中がなにか文句を言っている。
「・・・。はぁ・・・。ドーリス。そこで転がっている芋虫以下の奴らは潰していいか?うるさくてたまらない。セミトレーラなら簡単に潰せるぞ?」
もちろん、実行するつもりは無いのだが恐怖を与えるには十分なセリフだ。
第二分隊の連中はヤスの言葉を受けて、ディアナがエンジンを”ふかした”だけで黙ってしまった。
鎧を着込んだ1人の男性がヤスの前に出て頭を下げる。
「神殿の主様。第二分隊の処遇は守備隊に預からせて欲しい」
「え?」
「ダメでしょうか?」
「いや、もともと俺が捕縛したわけではないし、必要ない。むしろ連れて行って欲しい」
「感謝いたす」
隊長は深々と頭を下げた。
「それだけですか?」
ヤスは本題が別にあるのは、ドーリスのセリフからわかっていたのだが、どんな依頼なのかわからないので自分から聞けなかった。
「いえ、失礼しました。私は、守備隊の隊長をやっている。フォルツと言います。神殿の主様。領主からの依頼があります。受けていただけませんか?」
ヤスは、ドーリスと一緒に来ていたコンラートを見る。
しかし、動かないので、自分が話を進める必要があると判断した。
「フォルツ殿。私のことは、ヤスと呼んで欲しい。神殿の主と呼ばれるのは好きじゃない。それで、依頼とは?物品を運ぶしか出来ないぞ?」
「わかりました。ヤス様。領主の依頼は、”とある村に塩を運んで欲しい”とのことです」
「塩?」
「塩の供給が途絶えると死活問題です。村には定期的に塩を運んでいたのですが、スタンピードやその後の問題で運び手が集められなくて、ヤス様なら運べるのではないかと期待しております」
「ドーリス。村の所在は聞いているのか?」
ヤスは、ドーリスが知っていると考えて、カマをかける意味もありいきなりとドーリスに聞いた。
「場所はわかります」
「わかった。ドーリス。コンラート。冒険者ギルドで依頼として処理できるのか?」
コンラートがドーリスを手で制してからヤスに答えるようだ。
「ヤス殿。冒険者ギルドでは受けられません。ドーリス殿が神殿の街にあるギルドの代表として依頼を処理しなければなりません」
え?という顔をするドーリスだったのだが当然だ。
ヤスは独立した国”相当”と考えられる。そのために、ドーリスが正式な就任前だが、神殿の街にあるギルドとして依頼を処理する必要があったのだ。
だが、ドーリスとしては最後の依頼として領都の冒険者ギルドが処理を行うものと考えていた。
「そうか?それでは、ドーリスが受け付ければいいのだな?」
「はい」
「ドーリス。頼む。運送料は、ドーリスに任せる。相場がわからないから俺が口出ししないほうがいいだろう」
「わかりました。それで、ヤス殿。塩は馬車に積んでほしいのですが、全部を載せられますか?」
ヤスは、後ろから来ている馬車を見る。
「2台だけか?」
「そうです」
「塩は、ツボかなにかに入っているのか?」
「いえ、木箱に入っています」
「それなら積み重ねても大丈夫だな。十分に持っていけるぞ」
それから、コンテナの一つを開けて馬車で持ってきていた塩の積み込みを始める。
ヤスが積み込みを監視しながらコンラートが塩が入っている箱の個数を数える。
ドーリスと隊長のフォルツは離れた場所で運搬費の相談をし始めた。ヤスの承認を得ていると言っても安い料金で受けるわけには行かない。今回限りの料金設定をしても問題ないのだが、今後を考えるとある程度の形を決めた料金にしたほうがいいのはお互いにわかっている。
荷物を運ぶのは小規模の商隊にとっては糧を得るために丁度いい。そして、その商隊を護衛する者たちにも糊口を凌ぐためにも無いと困る依頼なのだ。アーティファクトを基準にすると料金が安くなってしまう。護衛が必要ないので当然だろう。
二人の出した結論は、料金は通常の商隊に依頼する場合の2倍にする。『時間を買う』や『安全を買う』と認識してもらうのだ。依頼場所までの移動費も含まれるために実際にはそれほど高くないのだが、依頼が続発しても対応できない。アーティファクトが使える者が増えてきたら値引きも考慮するという話で落ち着いた。
「ドーリス。積み終わったぞ?」
「え?全部ですか?」
「他にその村に持っていく物があればまだ余裕が有るぞ?」
セミトレーラに積まれたコンテナの扉が開けられているのを、二人は唖然として見る。
「・・・。ドーリス殿。あの鉄の箱の中身が空だと知っていましたか?」
「いえ、知っていたら、2倍ではなく、3倍か4倍と言いました」
「そうですよね。私も箱と箱の間に積み込みが行われるものと思っていました」
大型の馬車二台分の塩がコンテナの中に積み込まれている。コンテナは1/3も入っていない。
「ヤス殿。動くのですか?」
「ん?あぁ大丈夫だ。この・・・。あ!これは、コンテナというのだけどな。これが満杯になっても大丈夫だ。速度は出ないけど、動くぞ?ユーラットから神殿に向かう程度の山道じゃ問題なく上がれるぞ。2つとも満杯にしても問題ない」
「え?前の箱も中身は空なのですか?」
「そうだぞ?見てみるか?」
「いえ、大丈夫です。そうですか・・・。馬車10台分以上の荷物が詰めるのですね」
「うーん。これは、セミトレーラというアーティファクトだけど、フルトレーラにしたらこの倍は詰めるぞ?山道はつらいけど・・・。タイヤを変えればなんとかなるだろう」
ヤスの言葉を聞いて二人は頭を抱えた。輸送量と時間を考えると2倍でも安いと感じてしまう可能性が高い。
ドーリスがヤスの言っていた内容を思い出した。
「あ!ヤス殿。でも、人は運ばないのですよね?」
「あぁ道案内が必要な場合は別だけど人は運ばない」
「どんなに金貨を積まれても?」
「人を運ぶのは面倒だしいろいろ制約がある」
二人は、ヤスの言っている制約をアーティファクトの制約だと解釈した。ヤスが言っている制約は、日本に居たときの法律的なことだ。日本の法律のおよばない場所なのだから、”関係がない”と言えるのだが、なんとなく人だけは運ばないと決めているのだ。
「ドーリス殿?」
「フォルツ様。ヤス殿は人を運びません。したがって、行商人には該当しないと思います。運んだ先で商売をしません。大量の物資を運ぶだけです」
「だから・・・。あ!そうか、それなら、さっきの設定で問題ないのだな」
「そうです」
ドーリスがフォルツと決めた契約に納得したので、正式に契約を行う。場所は、コンラートがギルドに用意した。
馬車は第二分隊の連中を載せて領主の館に移動する。ヤスとコンラートとドーリスとフォルツはギルドの個室に入って契約を締結した。
「ヤス様。お願いいたします」
「物資の運搬なら俺の仕事だ。しっかりと運ぶよ。村で運ばれた塩の確認をしてもらえばいいのだよな?」
「はい。ヤス様。領主様からの書簡をお渡しいたします。村長に渡せばわかるようになっています」
「わかった。村長に渡して、受領書をもらってくればいいのか?」
「受領書?」
「ん?村長が確かに受け取ったという書類がなければどうやって荷物が届いたと証明する?」
ヤスは思い違いをしていた。
領都からユーラットに武器や防具を運んだときにも受領書はなかった。依頼した物が届かない場合が多い世界だ。届いた受け取った場所で料金の支払いがを行う。今回の様なレギュラーな輸送の場合でも、護衛に守備隊がついたり、第三者が一緒に村まで行ったり、信頼する者が確認するのだ。そのために、受領書という考えは無い。ヤスの場合には、荷物だけを預かって確実に届ける。届いた荷物の確認は、先方とヤスで行うので、受領書がないと困ると考えたのだ。
ヤスの考えを聞いて3人は関心をした。
新しい考え方だが、アーティファクトを使った運搬では必要になる。今回は、ドーリスがギルドの人間として村に話をして輸送を見届ける。
王都からの帰りに、領都に寄って守備隊から料金をもらう契約になった。
契約に納得したヤスは、ドーリスと一緒にセミトレーラに乗り込んだ。
もちろん、コンテナを確認した。しっかりと固定されているのは当然だとして荷物が偏っていないことを含めて入念に行った。
エンジンに火をいれて、アクセルを踏み込むとゆっくりとした動きでセミトレーラが動き出した。
それを、塀の上からコンラートとフォルツは見送ったのだ。
あなたにおすすめの小説
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?
石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます!
主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。
黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。
そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。
全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。
その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。
この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。
貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。