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第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国
第四十二話 帰還と開戦
しおりを挟むヤスとリーゼとサンドラが神殿に帰ってきた翌日には大量のドワーフがアシュリに到達した。
酔っぱらい状態だったらしいが、足取りはしっかりしていた。それだけではなく、リップルの神殿討伐軍(笑)の動向も掴んできていた。途中で逃げ出した者や軍から物資を持ち逃げして、盗賊になった者を討伐してきたようだ。逃げ出した者は、そのままレッチュ辺境伯領に押し付けてきたとルーサに説明した。
ドワーフたちが討伐軍よりも早く到達したのにも理由がある。
ドワーフたちは、最短距離を移動してきた。レッチュ辺境伯領を突っ切った形だ。限界まで移動して、樽を開けて寝る。そして、翌日移動する。本来なら嫌がるや野営の見張りだが、見張りをしている最中は酒精が飲めるというメリットがあり、誰が見張りをやるのかで揉めてしまったほどだ。そして、イワンの予想通り鉱石や工具がないドワーフたちはイワンからの救援物資という名前の酒樽を気に入った。この酒が3級品だと言われて驚いた。神殿に到達できれば、これよりもうまい酒精が飲めると解ると、移動速度が更に上がった。
リップル元子爵の神殿討伐軍は、途中にある村々から物資を強奪するのに時間がかかった。それだけでは、当然物資は足りない。そこで、魔物や獣を討伐して食料にしたり、草木を採取したり、水場を見つけては水分を補給する行為を繰り返していたのだ。
ルーサやサンドラの切り崩し工作で、当初4万とも5万とも言われた軍は、2万まで数を減らしている。それだけではなく、士気の面では最低になっている。貴族たちは、それでも自分たちの栄達を信じて疑っていない。
ドワーフたちは、アシュリで一泊してから、迎えに来たカスパルたちの運転するバスで神殿に向かった。当初の予定では、アシュリでしばらくの間は過ごしてもらうつもりだったが、ルーサからヤスに泣きが入った。
『ヤス。頼む。ドワーフの酒飲みを引き取ってくれ』
「どうした?武器や防具の整備をして欲しいから、神殿討伐軍が到着するまでの数日はアシュリに居てもらう予定だったよな?」
『そうだ。確かに武器や防具の整備をしてくれる。それは嬉しい。嬉しいが・・・。それ以上に、アシュリで保管している酒精を飲みやがる』
「必要経費だろう?」
『必要経費にしては高すぎる。イワンの二級品の酒まで飲み干しやがった。俺たちが、ちびちび楽しんでいるのを、水を飲むように煽りやがる』
「わかった。わかった。カスパルを向かわせる」
『助かる。部下からの突き上げも始まっていて・・・。それでヤス・・・』
「イワンに言って、二級品を回すよ。神殿討伐軍を退けたら、一級品を回すようにイワンには伝える。それでどうだ?」
『本当か?本当に、一級品を回してくれるのか?』
「あぁ種類は少ないけど、俺に分配されている奴を、アシュリに回すようにイワンに伝える」
『約束だからな!ヤス!』
「解っているよ。だから、一人も死ぬなよ。死んだやつがいたら負けだからな」
『わかった。絶対に死なせない。死んだ奴は俺が殺す。だから大丈夫だ』
ルーサの意味がわからない言葉とテンションでコールが切れた。
ヤスは、そのままイワンに連絡をして、ドワーフたちが神殿に来ると伝えた。場所は、マルスが拡張しているので問題にはならない。
酒精も、イワンから”詫び”ということで二級品の樽をアシュリに渡す。ヤスが保管している一級品も、もともとイワンから神殿に献上されたもので、ヤスとしては褒美として誰かに渡す程度の物と考えていた。
カスパルたちはヤスの依頼を聞いて、ルーサに連絡を取り、ドワーフの人数を確認した。バスで行くのか、トラックを出すのかを考えて、3台のバスと酒樽を積んだトラックで移動を開始した。これらを仕切るのが、ヤスの手からディアナに移っている。神殿の領域内での運用に関しては、ディアスが仕切ると丸投げされたのだ。
カスパルたちは、夕方にはドワーフたちを乗せて帰ってきた。
ドワーフたちは、ヤスが持ってきた工具や鉱石を持って工房に消えていった。
「なぁイワン。ドワーフは、俺の記憶に間違いがなければ、これで、500名ほどだよな?」
「ん?家族も入れるとそのくらいにはなるな」
「そうだよな・・・。俺、お前以外のドワーフを神殿で見ていないけど、全員、生活しているよな?」
「当然だ。そもそも、ドワーフは穴倉みたいな場所で生活していたから、神殿の工房は居心地がいい。それに、風呂や食事も困らない。槌の音も防音出来る。外に出る必要を感じない」
「そうか、ドワーフと工房はイワンに任せる」
「うまい酒精の開発は任せろ」
「違うだろう?」
「解っている。日用品から武器や防具までしっかりと作る。工房をしっかりと管理する」
「頼むな」
イワンにドワーフたちを任せて、ヤスは自分の部屋に戻った。
「マルス。奴らの動きはどうだ?」
『種族名鷲からの報告では、早ければ明日の朝には姿を現すようです』
「遅いな。邪魔はしていないよな?」
『はい。マスターからのご指示を受けて、明確な邪魔はしていません』
「明確な・・・か。マルス。何をした?」
『個体名セバス・セバスチャンの眷属に先行して採取を命じました』
「それだけではないだろう?」
『はい。魔物や獣で食肉に適した者たちを、神殿に避難させました。今後、神殿の中で、採取や実験に従事させます』
「わかった。そこまでやったのなら、水の確保も難しくしたのだろう?」
『はい。食肉に適さない魔物や獣で、友好ではなかった者を水場に誘導しました。友好関係が結べた魔物は、神殿に移動させました。先程の者たちと同じで採取や実験に従事させます』
「わかった。奴らは、腹をすかせて、喉が渇いて、疲れ切った状態で、戦いに入るのだな」
『はい。夜も寝られないように、種族名狼や種族名鷲や種族名猫の眷属が周りに待機して、時おり奇襲をかけております』
「はは。寝不足も加わっているのか、戦いにならないな。わかった。情報の一部は、ルーサに伝えろ」
『了』
マルスは、即座に行動を開始した。
ルーサにヤスが言っている奴らの情報を伝えた。ルーサも不思議に思っていたが、紛れ込ませた者たちから、ここ数日は狩りが出来ない状況が続いていて水場にも魔物が出て水を飲むのにも命がけの状態になっていると報告を受けていた。腹が減って力が出ない状況で、水場の魔物と戦うのを避ける傾向になりつつあった。腹が減って、のどが渇いて、寝られない状況になっている。ルーサも部下に無理をさせるつもりもなかったので、適当な所で逃げ出すように指示をだしていた。
ルーサは、マルスからの報告を聞いて、最低限の人間だけ残して、残りは休暇を与えた。
秘蔵という名前のヤスから貰った酒精の樽を出して、深酒は禁止だが、適度に楽しむ分には酒精も許可を出した。それは、帝国に向かう関所であるトーアヴァルデでも同じだった。ヴェストにも情報がすぐに伝わり、明日の決戦に備えて今日は早々に休むことにしたのだ。
そして、マルスの予想よりも遅れて昼過ぎにリップル元子爵が率いる神殿討伐軍は、トーアヴァルデに姿を現した。
数時間前には、ヴァストは討伐軍が現れたのを認識していたが、彼らが陣形を整えるまで待っていたのだ。奇襲すれば、戦闘は終わっていのは間違いないが、”一人も死ぬな”というヤスの命令を守れなくなるリスクを犯さなかった。
しかし、それをリップル元子爵は、自分に都合がいいように解釈した。
”奴らは我らを恐れている!所詮、スラム上がりの貧民なのだ!正当貴族である我らには勝てないと知っているのだ”
そんな事を、大声で喚いている。
騎士を名乗る者が、トーアヴァルデに向かって一騎打ちを申し出ても、トーアヴァルデは応じなかった。トーアヴァルデは、一騎打ちに応じる必要がないのだ。
何もしてこないトーアヴァルデに業を煮やしたリップル子爵の元に、天啓がもたらされた。
曰く
”トーアヴァルデが関を開いて攻めてこないのは、帝国軍に攻められているからで、一騎打ちに出られる騎士も帝国軍に討ち取られたらしい”
”トーアヴァルデの中は、帝国軍に責められて逃げ出す者が多数出ているらしい”
”帝国から逃げるために、反対側の門を開けて逃げ出す方法を考えているらしい”
”王国側なら自分たちを捕虜にはしないだろうから逃げるのなら王国側だと思っているらしい”
という内容だ。
どの様にして、得られた情報なのか判断しないまま、リップル元子爵は”聞いた話”を信じた。そして全軍に突撃の指示を出した。
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