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第十章 エルフの里
第十三話 立ち回り
しおりを挟む「弟?」
ヤスに近づいてきたエルフ族は、目が虚ろになっている。
それだけで、ヤスが無視するには十分な理由だが、ヤスは”弟”という言葉に反応した。
「そうだ!俺の大切な弟を、貴様が攫った」
「は?」
「弟は、お前のような人族が持つには相応しくない物を回収しようとしただけだ。何も間違っていない。貴様が悪い!」
「あ!?」
ヤスのどこから出ているのかわからないような、威圧が含まれる声に男は気後れした。
しかし、自分が威圧で負けているのが気に食わないのだろう。さきほど以上の声でヤスに文句をぶつける。
「そうだ!貴様が、貴様たちが、弟をさらったに違いない!!!」
男が、掴みかかろうとした腕を避けて、ラフネスを正面から見る。
「どういうことだ!」
ヤスは、ラフネスに一歩踏み出す。
ヤスが進んだ分だけ、ラフネスが下がってしまう。
腕を避けられて、体制を崩していた男は、ふらついて、倒れてしまった。
地面に両膝を付いて、立ち上がって、後ろからヤスに殴りかかる。
「貴様!死ね!」
ヤスは、身体を少しだけずらして、殴りかかられた拳を躱す。足元が覚束ない様な男が放った、拳なので頭で受けても良かったのだが、殴られるのは気分が悪くなりそうだったので躱した。かわされたことで、足をもつれさせて、ヤスの肩に身体を当てる格好になる。肘を、腹に当てながらもつれるように転がる。男は、自分の体重が乗った状態で、ヤスの出した肘を腹にめり込ませることになる。
ヤスは、すぐに立ち上がった。悶絶して、転がる男を見下ろす。
「ラフネス。もう一度だけ、訊く。どういうことだ!」
「・・・」
「わかった。説明する必要を感じないのだな。交渉が出来ないのなら、俺がここに居る必要はないな」
悶絶している男の髪の毛を掴んで、ヤスは歩き始める。
男は、喚いている。ヤスは、男の腹を軽く蹴る。
そして、威圧を解放して、男の前に、どっかのヤンキーのような座り方をする。
「おい。お前は、神殿の主を殺そうとした。”死ね”と言ったからには、自分が殺されても文句は言えないよな!あぁ!」
「き」
「誰が喋っていいと言った!」
ヤスは、男の頭を持って、地面に打ち付ける。
「いいか、俺は仕事の依頼で来ている。貴様たちが、困っているから助けてやろうと思った、善意の第三者だ」
「あ!?」
男が、何か喋ろうとしたために、ヤスは、男の髪の毛を思いっきり引っ張ってから、地面に叩きつける。
「捕らえた奴らは、一国の王に等しい俺の大切な持ち物に手をつけようとした。だから、粛清した。これから、引きずって帰って、死罪を申し渡す。まぁ引きずって帰る途中で肉片になる可能性が高いが、死は死で同じだ」
「な」
「まだ、理解していないのか?お前たちは、俺に頭を下げて、”許してください”と懇願しろ。そして、俺の気まぐれに期待するしかない。理解できないのなら、それでも構わない。商人に食い物にされつつ、緩やかな種族としての死か、今日、この場で俺に滅ぼされるか、好きな方を選べ」
「そ」
「そんなこと、出来るはずが」
ラフネスが、叫ぶような声で否定する。声が震えているのは、ヤスの威圧をまともに受けてしまったからだ。
ヤスは、立ち上がった。足で、男の頭を踏みつける。逃げようとしたから、腹を軽く蹴って動けなくする。
「動くな。動けば、肩の骨を折る。間違えて、首の骨が折れるかもしれないな」
男に聞こえるような声で、警告を発する。
警告は、男だけではなく、近くに居たエルフ族や騒ぎを聞いて家から出てきた者を動けなくする。
「ラフネス。アーティファクトで、蹂躙してやろうか?俺も、本意ではないが、降り掛かった火の粉は振り払わなければ、俺たちが燃えてしまう」
「それなら」
「だから、先程言ったよな。俺に頭を下げて、慈悲に縋れよ。もしかしたら、気分がよくなって助けてもらえるかもしれないぞ」
「くっ」
「人族風情が」
「あぁ今、”人族風情”と言った奴、出てこい。俺の足を、この男から離せたら、お前たちの話を聞いてやる。その代わり、俺に負けた時点で、お前たちは、死罪になるからな。30。数えてやる。死んでも、この男を、この男の弟や俺のアーティファクトを盗もうとした奴らを助けたいと思っている奴だけかかってこい」
「29、28、27、26、25、24、23、22、21、20」
ヤスに飛びかかろうとしていた男たちは、ヤスの宣言を聞いて、一歩も二歩も後ろに下がる。文句を言った奴の近くには、不思議なことに、人が居なくなる。文句を言った奴は、ヤスの睨みで腰を抜かしてしまう。
それだけ、ヤスは怒っているのだ。
依頼された仕事で、リーゼの墓参りだと思えばこそ我慢していたのだが、男のセリフで完全に戦闘モードに入ってしまった。
「皆。落ち着け。神殿の主殿。どうか、怒りを押さえていただきたい。我らの同胞が犯した罪は、必ず償わせる」
人垣を割るようにして、ヤスの前まで歩いてきて、3人はヤスに深々と頭を下げる。
「神殿の主殿」
「先に、お前たちが、”償わせる”だけの権力があるのか、説明しろ。話は、それからだ」
「我らは、森の中に住まう。ハイエルフの3人だ。エルフの長老をしている」
「ほぉ・・・。ラフネスが言っていた、長老でいいのか?」
ヤスは、ラフネスに視線を送る。
ラスネスは、素直に承諾の意を送る。
「わかった。名前は、聞かない。交渉を行うのに、3人は必要ない。意思決定者を一人だけ残して、他は帰れ」
ヤスに話しかけた一人が、二人に目配せした。
二人は、ヤスにもう一度深々と頭を下げてから、周りに連中を引き連れるようにして、離れていった。
『マルス。目の前に居る長老と俺を囲むようにして結界を発動できるか?結界の種類は、遮音と魔法封じと認識阻害だ』
『是』
『展開しろ』
『了』
長老は、ヤスが何かと話していると感じていた。今更、ヤスが何をしようと抵抗が出来ないと悟っている。
「結界ですか?」
「そうだ。俺は、臆病だからな」
「・・・」
ヤスは、ボケたつもりはないが、沈黙で返されるとは思っていなかった。
「この男と、俺に”人族風情”と言った男、捕らえている者たちは、お前たちの、”償わせる”という内容を聞いてから渡す」
『マルス。俺が指を鳴らしたら、足元の男を、隔離。表で座り込んでいる男も一緒だ』
『了』
ヤスは、マルスに短く指示を飛ばしてから、長老の目の前で指を鳴らす。長老が、指に気を取られている最中に、足元と結界の外に居る男を、マルスが確保する。
「は?魔封じの結界の中でなぜ・・・」
「ほぉ結界の種類が解るようだな」
ヤスは、面白そうに長老を見てから、マルスにまた指示を出す。長老とヤスの間に、テーブルを出して、椅子を出すように命じた。両者が座って、指を鳴らした瞬間に、テーブルの上に紅茶が展開するようにした。
完全に、ヤスのペースになってしまった。
そもそもが、長老はヤスを諌める立場にはない。
ヤスとの交渉も、負けが確定している状態なのだ。それも、一人にされてしまった。途中から、他の長老も話しに加える予定だったが、ヤスの結界で、その目論見も潰された。
そして、念話で繋げて、交渉を有利に進めようとしても、結界がある為に難しい。しかし、結界の中でヤスは魔法が使える状況を見せられてしまった。最悪は、ヤスを殺すことも考えていたが、完全に潰されてしまった。
男を踏んでいたために、ヒールで男を戦力として使えないかと考えていたのだが、それもヤスに消されてしまった。
対等な交渉など、最初の段階で望めない状況だったのだが、最悪の更に下の状態になってから、交渉を開始しなければならなくなった。
「俺は、お前たちの同胞である。ラナに頼まれて、手紙を届けに来た。どうして、それがこんな状態になっているのか、説明してくれるよな?知らなかったのなら、俺の言い分の全てが正しく、俺の下す策定の全てを受け入れてもらう」
ヤスの死刑宣告にも近い宣言から交渉が始まる。
ヤスがテーブルの上に置いた紅茶に口を付けてから、長老を睨みつける。
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