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第一章 勇者の帰還
第二話 情報収集
しおりを挟む「エリク様。それでは、我が国の商隊は?」
「外に出る必要があるのか?」
「え?」
「それに、陸路はたしかに封鎖された状態だが、海路は確保されているぞ?」
視線が、アリスに移動する。
「うん。僕のペットたちは、渡してある”旗”を持っていけば沈めないよ」
「アリス様。あの旗のマークに意味が有るのですか?」
「あぁ・・・。それも、ユウキの指示だけど、マークには意味は無いよ。旗の素材が大事」
「え?なんで・・・。面倒では?」
「うん。面倒だけど、あのマークを見れば、召喚勇者で、よほどのバカでなければ、意味がわかるから、マネすれば大丈夫とか考えて、素材まで考えない可能性が高い。ユウキの考えそうなことでしょ?陰険なのだから・・・」
「アリス!」
「あっ僕・・・。でも、褒め言葉だよ?ユウキにも直接言っているから大丈夫!」
「そうだな。俺たちは解っているけど、外では言うなよ。不協和音が鳴っているとか言われるのは面倒だからな」
「うん。解っているよ」
皆が、”本当か?”という表情でアリスを見る。アリスは、『”一言”多い』が皆の共通認識なのだ。
「エリクが居れば大丈夫だろう。それで、セシリア。海路の確保ができている。それに、レナートは、国内で流通が完結できるよな?」
リチャードが、アリスとエリクをからかいながら、話を戻す。
「はい。今の所は、問題はでておりません。国内での流通で十分です」
「セリシア。本当なのだろうな?」
珍しく、真剣な表情で、サトシがセリシアに質問する。
「はい。サトシ様。サトシ様たちが、どのくらい、レナートを離れるのか・・・。ですが・・・。皆様の帰ってくる場所を、守ってみせます」
力強く宣言するセシリアを、サトシは嬉しそうな表情で見ている。複雑な感情を持っているマイだが、セシリアを頼もしく思っている。
サトシとマイを除く、26名がそれぞれの役割を報告していく、レナートに残る者も、一度は地球に帰還することにしている。
「あぁやっぱり、ユウキが居ないと話が進まないな」
誰が言ったのかわからないが、皆が思っているセリフだ。
「セシリア。国からの要望はあるのか?」
「レイヤ様。それは、”皆様に?”という意味ですか?」
「そうだな。俺もだけど、地球に帰還する者たちも居る。こっちに残る者は、あとからでも伝えられるだろうが・・・・」
「大丈夫です。皆、レイヤ様たちが”必ず”戻っていらっしゃると考えています」
「あぁユウキも言っているが、俺たちの故郷はこの国だ。そして、未来を一緒に歩く場所だ」
レイヤは、隣に座っているヒナを見る。
少しだけ和んだ空気が”場”を支配する。
「あ」
セシリアが、レイヤに質問を投げかけようとした瞬間に、ドアが激しく開けられた。
完全武装の騎士が会議室に駆け込んできた。
「セシリア様!」
「何事です!今は、大事な打ち合わせ中ですよ」
「失礼いたしました」
「それで、何が有ったのですか?」
「はい。救援の要請が、来ました。かなり強い口調で、命令とも取れる内容です」
「予定よりも、早いですね」
セシリアは、騎士が持ってきた羊皮紙を見る。
そこには、たしかに人類連合国からの要請が書かれていた。
セシリアやユウキの予想では、4-5日後に要請がくると思っていた。
返答は決まっている。”レナートは小国で、自国の防衛だけで手一杯です。勇者の多くも、魔物の王を討伐するときに、戦いに倒れ帰ってこない者も多く、戦力が著しく低下しています”すでに、撃退している上に、勇者は一人として”倒れて”いない。実際に、”魔の森”方面から魔物は駆逐出来ている。勇者たちが必要になるような魔物も見つかっていない。
レナート王国は、”魔物の王”を討伐すれば、抑えていた”魔物”たちが各国で暴れだすのが解っていた。
”早い”というのは、人類連合国からの救援要請だ。
「チェスター。それで、この要請は?」
「ギルド経由です」
「そう・・・」
「セシリア。気にしなくて大丈夫だ。そのまま、返答をしよう。実際に、俺たちは地球に帰還する。調べられても、困らないはずだ」
「そうですね。サトシ様。チェスター。返事は、私からします。使者が来ているのですか?」
「いえ、伝令だけです」
「わかりました。返答を書きます。ギルドに届けてください」
「はっ。皆様。お騒がせいたしました。失礼いたします」
チェスターと呼ばれた騎士は、勇者たちに頭を下げて部屋を出ていく、セシリアは近くに居た侍女に命じて王国の印影が入った羊皮紙を持ってこさせて、返事を書き始めた。
マイが書いている返事を横から見ながら付け加える嫌味を投下しながら、10分程度で返事が書き上がった。
「セシリア。それで、ギルドからだと言っていたよな?」
「はい。サトシ様」「サトシ、話を聞いていなかったの?それとも、考えるのを放棄したの?」
「マイ様。サトシ様は、ご確認しただけです」
いつもなら、この辺りで話が横道に逸れるのを恐れるユウキが、二人の間に入って筋を元に戻すが、今日はユウキが居ない。
皆の視線が、サトシに集中する。皆の視線の意味を、サトシは正確に理解しているが、二人を止められるとは考えていない。
「ふぅ・・・。マイ様」「そうね。ユウキも居ないし・・・」
セシリアとマイは、寂しそうにユウキが座るはずの椅子を見る。
たった、2時間のことだが”ユウキ”の存在が大きいことが認識された。
(本当に、ユウキが居なくて、私たちは大丈夫なの?)
マイの率直な感想だ。マイだけではなく、セシリアも同じ考えになっている。
(ユウキ様には、是非・・・。頻繁に、帰ってきてもらわなくては・・・)
セシリアとマイは、お互いに声には出していないが、同じことを考えていたと感じている。
にっこりと笑う二人に挟まれるようになってしまったサトシは俯いてしまっている。
「ポンコツのことは、セシリアとマイに任せるとして、ギルドが”慌てている”と言うのは、状況はユウキの予想の中では、最悪な部類だよな」
「おい!リチャード!俺は!」「はい。はい。あとで、お話は聞きます。サトシ様。マイ様。お願いします」「うん。了解」
「セシリア。ギルドが先に救援を出してきたってことは、ユウキの予想では、勇者たちは負けたということになるぞ?」
「はい。しかし、まだ情報は上がってきていません。早急に調べますか?」
「フェルテはどう思う?」
リチャードが、フェルテに話を振るが、普段から考えるのはユウキの仕事だと思っているのか、自分に話を振られても困ると、隣に座っているサンドラを見る。
サンドラは苦笑を浮かべながら、マイに質問をする。
「ねぇマイ」
「何?」
「マイが使役している者たちの力を借りられない?」
「うーん。細かい指示は難しいよ?それに、数を使役すると、私の処理能力では足りなくなる」
「処理能力は、ユウキに譲渡していたわよね?あれって、私やそれこそ、アリスでも大丈夫?」
「わからない。サトシは、まったく使えなかった。ユウキは、10体までなら、大丈夫だったけど・・・」
「なぁマイ。サンドラ。俺たちは、ユウキの変わりは出来ないけど、どうせユウキが帰ってくるまで暇だろう?」
「え・・・。あっうん」「・・・。エリク?」
エリクが話に割り込んできた。
「あっすまん。それでな。サトシを除く、26名で2-3体を担当して、情報を収集するのは駄目か?」
皆の視線が、エリクに集中する。
「やってみないとわからないけど・・・。サトシよりも、INTかDEXが高ければ可能性はあると思う」
「ハハハ。それなら大丈夫だ。皆、サトシよりはINTが高い!脳筋じゃないからな!」
エリクの笑いから、皆が笑い出す。
サトシは、勇者の中の勇者と呼ばれているが、ステータスで言えばそれほど高くない。ただ、魔物に絶対的に優位に立てる武器である”聖剣”を召喚できるのだ。極端な戦い方をしている。最悪の場合は、聖剣を魔物に投げつけてもいい。召喚すれば手元に戻ってくるのだ。
魔法に関しても、対魔物に寄っているために、対人では役に立たない。
サトシたちのグループを、他の勇者たちが下に見ている理由が、サトシのスキルが”対魔物”以外では役に立たないと思われていて、”対人”ではいつでもサトシを倒せると思っているからなのだ。カリスマはサトシが一番だ。だから、他の国に居る勇者は、サトシを”飾り”だと思っている。
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