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第二章 帰還勇者の事情
第十六話 朝倉比奈
しおりを挟む私は、ヒナ。日本にいた時には、”朝倉比奈”と名乗っていた。
レイヤやユウキやサトシやマイや弥生と一緒に異世界に召喚された。フィファーナでの話は、悲しいことも多かったが、楽しいことも多かった。日本に居た時と違って、自分たちでできることが増えたのが一番の理由だ。
リーダは、サトシだが、実質的なリーダがユウキなのは皆がわかっていることだ。
ユウキには、日本に戻ってやりたいことが有った。私とレイヤにもやりたいこと・・・。知りたいことがある。
ユウキは、自分のことを棚上げにして、私とレイヤに関する情報を収集するつもりのようだったが、問題が一気に解決しそうだ。
地球に残る者たちには、スマホが提供された。ユウキとよく話をしている記者から提供されたのだと言っていた。盗聴されても、私たちは困らない。位置が把握されて攻撃されても、撃退できる。仲間の中で、弱いアリスや私でも、10や20人程度に囲まれても突破できる。殺さないで無力化をするのは、難しいとは思うけど、撃退はできるだろう。
私のスマホに、着信が有ったのは、記者会見から3日後だった。
最初は、今川さんだった。私の連絡先を、『森田に教えていいか』という連絡だった。森田と名乗った人の連絡を聞いた。10分くらいしてから、森田さんから電話が入った。
『ヒナさん』
「はい。森田さんですか?」
『そうです。名乗らないで、もうしわけない。それで本題だけど、先生が、馬込先生が、ヒナさんとレイヤくんに会いたいと言っています。もちろん、断ってくれても大丈夫です』
「え?」
『あっ大丈夫ですよ。断ってくれても、ユウキ君と進めている話は継続します。それから、レイヤくんと相談して決めてください。メールでも電話でも大丈夫ですから、連絡をください』
そう言って、電話が切れた。
馬込さんには会って話を聞きたいと思っていた。
記者会見の会場に現れた森田と名乗った記者から告げられた。馬込という人物の名前と言葉。
私にも、レイヤにも記憶がある名前だ。
私の両親とレイヤの両親の葬儀に多額の香典を置いていった人物が、馬込だ。私とレイヤは、まだ幼くて、実際には会ったことが無い。
父さんと母さんの古い知り合いだと教えられた。そして、私とレイヤが、父さんと母さんの所に行けるように手配してくれたのが、馬込なのだと教えられた。
レイヤとユウキに相談した。レイヤにも、森田さんから連絡が入っていた。
ユウキは、私たちに任せると言ってくれた。信頼しているとは少しだけ違う気がするが、サポートメンバーをつけると言っていたので、サトシ以外を付けてもらうことにした。多分、スキルを考えるとアリスなのだろう。アリスの方も、復讐する相手が判明して準備を行っているらしい。
「こんにちは、ヒナです。森田さんですか?」
『こんにちは。森田です』
「よかった。レイヤと話をしました。”馬込先生にお会いしたい”と思います。私たちは、いつでも大丈夫ですので、馬込先生のご予定に合わせます」
『ありがとうございます。馬込から、せっつかれていて・・・。それで、レイヤくんと二人だけですか?ユウキ君やサトシくんやマイさんも一緒でもいいですよ?』
「いえ、私たちだけで伺います。あっ・・・。ただ、東京の地理には詳しくないので、待ち合わせや目的地は、駅とか、わかりやすい場所だと嬉しいです」
『わかりました。私が迎えに行きます。お二人・・・。できたら、記者会見のときと同じ変装をしてきてくれたら嬉しいのですが・・・』
「すみません。あのときの変装は、室内でないと難しいので・・・」
『わかりました。私のことは覚えていますか?』
「はい。私もレイヤも覚えています」
鑑定を使えば判明するだろうし、最悪はユウキにサポートをお願いすればいい。
『スケジュールが決まったら連絡をします』
「はい」
1時間後には、3つの日時と、待ち合わせ場所が書かれたメールが届いた。レイヤにも、同じメールが届いた。
相談して、ユウキとアリスの都合がいい日にした。
当日は、ユウキが待ち合わせ場所を見渡せる場所に待機をしてくれる。アリスが、私とレイヤに眷属を付けてくれた。抵抗した、本当に抵抗したが、”蜘蛛”を付けられた。問題がないと解ったら、即座に解除していいと言われている。待ち合わせ場所で、すでに”蜘蛛”を解除したいと思っている。でも、どこで話をするのかわからないのは不安なので、話し合いが始まるまでは我慢する。
待ち合わせ場所は、山手線の駅で、丁寧に地図まで付けてくれた。私は、わからなかったがレイアが大丈夫だと言ってくれた。ユウキとレイヤで下見にも言ってくれたので大丈夫だ。
待ち合わせ時間は、14時30分だったが10分前に着いてしまった。
「え?レイヤ。あれ・・・」
「森田さんだね」
10分前に着いたのに、森田さんは待ち合わせ場所で待っていた。慌てて、駆け寄って挨拶をすると、挨拶を返してくれた。
レイヤが森田さんと離しながら、馬込先生が待っている場所に移動した。私は、前を歩く二人に着いていくだけだった。
「え?ここ?」
森田さんについて行って、到着したのは、スイーツをパラダイスする店だ。
「えぇ主役は、ヒナさんとレイヤくんだから、こういう店の方がいいでしょ?それに、半個室みたいになっているから、内緒話をするのにも向いているよ」
馬込先生は、別の場所に居て、後から合流するのだと教えられた、私が財布を取り出すと笑いながら森田さんが、私とレイヤの分を含めて払ってくれた。スイーツだけではなくフルーツも食べ放題になる高いやつだ。時間も100分もある。
「60分くらい、二人で楽しんでね。馬込先生を迎えに行ってくる」
「あっ席は?」
「森田で予約しているから、店員に聞いてくれたらわかるよ」
近くに居た店員に声が聞こえていて、席に案内された。奥まった場所で、半個室になっている場所だ。
ケーキとジュースとアイスとフルーツを堪能した。
70分くらい経過してから、森田さんが老紳士を連れてきた。
私とレイヤは、立ち上がって挨拶をした。
「気にしなくていい。私が、馬込だ。ヒナさん。レイヤくん。君たちのご両親に私と娘は救われた」
馬込先生は、私たちが知らなかったパパとママのことを教えてくれた。職業を父さんと母さんに聞いたときに濁された理由も解った。
森田さんが、新聞の切り抜きを私たちに見せてくれた。そこには、私のパパとレイヤのパパが載っていた。名前しか知らない。顔写真も一度だけしか見たことが無いけど、パパだ。大人になったレイヤに似ている。
火災現場で、救助活動中に死亡したと書かれていた。
それなら、ママは?私の疑問に、森田さんは次の新聞を持ち出した。病院に向かう車に、対向車が衝突して、運転していた女性と助手席の女性が死亡。ママだ。レイヤは、机の下で拳を握っている。レイヤがなにかを我慢しているときにする動きだ。
「馬込先生?」
「ヒナさん。私は、お二人のお父さんに命を救われた。私の娘は、お二人のお母さんに助けられたと言ってもいい」
パパは、わかる。消防士だ。でも、ママは?看護師だった。ママは病院から、パパたちの所に急いだ。その途中で事故にあった。
「でも・・・。ママは、事故・・・。ですよね?」
馬込先生は、首を横に降った。
懐から、一つの紙を取り出した。そこには、二人の名前が書かれてあった。名字が同じだから、家族なのだろう。
「これは?」
「私の娘につきまとって・・・。そして、刺した男だ」
「え?」
「薬物中毒で、無罪になった。今では、会社の社長をやっている。会社名は、ユウキくんに言えば知っているはずだ」
「え?」
「もう1人は、刺した男の父親だ。退官しているが、霞が関で官僚をしていた。息子の問題がなければ、次官くらいにはなっていただろう。政府の覚えもよく、今では政治案件のブローカーをやっている」
「先生。ブローカーと言われてもわからないですよ。ヒナさん。レイヤくん。ブローカーは、相談役だと思ってくれればいい」
頷いておく、話が大きくなりすぎてわからない。パパとママは、何に巻き込まれたの?
森田さんが説明をしてくれた、正直な所、私にはわからない。レイヤは、なにかを決めた表情をしている。
「馬込先生」
「何かな?レイヤくん」
「この二人を、俺に、俺たちに・・・。ください」
「ここまで、話しておいて言うのもおかしいが、君たちが対処する価値があるとは思えない」
「解っています。でも、けじめは必要です。それに、俺たちはすでに・・・」
「違いますよ。レイヤくん。君たちは、綺麗だ。でも、君たちが対処したいという気持ちは理解できる」
「それなら!」
「年寄りの戯言だと思って聞いて欲しい」
「・・・」
「私の娘は、君たちの母親の献身な態度で心が回復した。奴は、それが許せなかった。私が家にいるときに火を放って、私を殺そうとした。君たちの父親に私は命を救われた。私が運ばれた病院に、娘が駆けつけると思った奴は、病院で待ち伏せした。それに気がついた、君たちの母親が、警察に通報した。警察が駆けつけて、奴を拘束しようとしたが逃げられた。君たちの母親が運転する車を偶然見かけた奴は、後ろから猛スピードで突っ込んで、反対車線に車を押し出して、逃げた」
「・・・」
「支離滅裂になってしまったな。すまない。ヒナさん。レイヤくん。私の依頼を受けてくれるか?」
「依頼?」「??」
「奴と奴の父親を、生きたまま私の前に連れてきて欲しい」
「え?」
「奴らは、私から逃げている。森田や仲間に探らせても・・・」
「・・・。わかりました。馬込さん。その依頼を受けさせていただきます」
「ありがとう。君たちは、私の依頼を受けて、あの愚か者を捕まえる。捕まえるときに、手荒な真似をして、怪我や骨折をしてしまうのはしょうがない。全部、私が依頼したことで、私に責任がある」
「そうだ。依頼というには、報酬がありますよね?」
「もちろんだ。娘が持っていた、二人の母親と父親の写真と直筆のメモを渡そう」
「え?」「・・・。馬込先生。でも、それは娘さんの宝物なのでは?」
私は、気になっていたことを遠回しに聞いた。馬込先生は、にっこりとだけ笑った。私は、それで悟ってしまった。
「馬込先生。もう一つ、報酬に追加して欲しいことがあります」
「なんでしょうか?」
「全部が終わったら、私とレイヤを娘さんの所に案内してください」
「わかりました。少しだけ、離れた場所です。あの娘が好きだった場所に眠っています。ぜひ、案内させてください」
「ありがとうございます」
私は、差し出された馬込先生の手を握った。レイヤも、私の手に合わせるようにしてくれた。
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