62 / 198
【第1部】13.リセット
1
しおりを挟む
八月、聡子は店を辞めることにした。
トモは全く来なくなったが、川村のほうは時折通ってきていた。
この店で二年半も働かせてもらったおかげで、かなり助けられた。
「借金も完済できたし、弟の大学資金確保も目処がついたので……」
裕美ママにも佳祐にも、ホステスたちにも残念がられながら見送られた。
「たまには顔を出しなさいよ」
「はい。今まで本当にお世話になりました」
弟がこの四月に大学の法学部に入学をしたが、特別奨学生の枠で入学したことで、当面の大学資金に目処をつけることができたのだ。と言っても在学中に司法試験を受けたいと言っているし、授業料などの学費が免除されても、仕送りなどの生活面のサポートは必要だろうとは考えられる。弟は自分と違って優秀であり、彼自身もその枠を狙ってずっと勉強に励んできたようだ。そのおかげで随分楽になったわけだが。
同時に自立することを考えていた聡子は、その自立のための資金も確保できたので、決意した。
自立には理由があった。母親にはどうも恋人ができたようで、家を出たほうがいいのかもしれない、と考えたのだ。
「すごく勉強させてもらいました」
「川村専務ががっかりするでしょうねえ」
「でも、みなさんのほうが、専務さんを楽しませてさしあげられると思います」
ありがとうございました、と聡子は店を去った。
メッセージアプリをリセットした。
家族や、鈴木美弥などの親しい友人、あとは裕美ママ、レイナや佳祐には知らせている。裕美ママや佳祐からは、時折「厨房関係を手伝ってほしい」と連絡が来た。表に出なくていいから、食事作りを手伝って欲しい、と個室予約が有るときに伝えられた。そうして時々だが顔を出している。完全に表には出ないで済んでいる。
レイナからは、定期報告のようなメッセージだ。聡子が助っ人に行く日には、運良く川村が来店することはなかった。というより、しばらくは来店がなかったらしく、久しぶりに来たときには、もう聡子の姿はなかったわけだ。
川村が落胆しているらしい。自分の連絡先は渡したが、ミヅキから連絡が来ないので連絡先を知りたいと言ったという。
「ミヅキ、携帯変えちゃったみたいでわたしたちもわかんないんだよね」
と言っておいたとレイナはあっけからんと話してくれた。
『いいの? 玉の輿に乗れたかもしれないのに』
と言われたが聡子は苦笑するしかなかった。
トモのほうは相変わらず現れないようだ。レイナが話題に出さないということは、そういうことだろう、と聡子は思った。
(忘れるんだった)
トモは全く来なくなったが、川村のほうは時折通ってきていた。
この店で二年半も働かせてもらったおかげで、かなり助けられた。
「借金も完済できたし、弟の大学資金確保も目処がついたので……」
裕美ママにも佳祐にも、ホステスたちにも残念がられながら見送られた。
「たまには顔を出しなさいよ」
「はい。今まで本当にお世話になりました」
弟がこの四月に大学の法学部に入学をしたが、特別奨学生の枠で入学したことで、当面の大学資金に目処をつけることができたのだ。と言っても在学中に司法試験を受けたいと言っているし、授業料などの学費が免除されても、仕送りなどの生活面のサポートは必要だろうとは考えられる。弟は自分と違って優秀であり、彼自身もその枠を狙ってずっと勉強に励んできたようだ。そのおかげで随分楽になったわけだが。
同時に自立することを考えていた聡子は、その自立のための資金も確保できたので、決意した。
自立には理由があった。母親にはどうも恋人ができたようで、家を出たほうがいいのかもしれない、と考えたのだ。
「すごく勉強させてもらいました」
「川村専務ががっかりするでしょうねえ」
「でも、みなさんのほうが、専務さんを楽しませてさしあげられると思います」
ありがとうございました、と聡子は店を去った。
メッセージアプリをリセットした。
家族や、鈴木美弥などの親しい友人、あとは裕美ママ、レイナや佳祐には知らせている。裕美ママや佳祐からは、時折「厨房関係を手伝ってほしい」と連絡が来た。表に出なくていいから、食事作りを手伝って欲しい、と個室予約が有るときに伝えられた。そうして時々だが顔を出している。完全に表には出ないで済んでいる。
レイナからは、定期報告のようなメッセージだ。聡子が助っ人に行く日には、運良く川村が来店することはなかった。というより、しばらくは来店がなかったらしく、久しぶりに来たときには、もう聡子の姿はなかったわけだ。
川村が落胆しているらしい。自分の連絡先は渡したが、ミヅキから連絡が来ないので連絡先を知りたいと言ったという。
「ミヅキ、携帯変えちゃったみたいでわたしたちもわかんないんだよね」
と言っておいたとレイナはあっけからんと話してくれた。
『いいの? 玉の輿に乗れたかもしれないのに』
と言われたが聡子は苦笑するしかなかった。
トモのほうは相変わらず現れないようだ。レイナが話題に出さないということは、そういうことだろう、と聡子は思った。
(忘れるんだった)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる