同じボトル、違う気持ち、同じ結末

文字の大きさ
1 / 7
炭酸の泡が消える前に

1.炭酸の泡が消える前に

しおりを挟む
 夏の西日は、容赦なくアスファルトを焦がしていた。
 部活終わりの、この時間が一番きつい。
 バレー部マネージャーの結衣は、隣を歩くエースの拓海の横顔を盗み見た。スポーツバッグを肩にかけ、首から下げたタオルで雑に汗を拭う彼の肌からは、まだ熱い蒸気が立ち上っている。
「……死ぬ。喉、枯れた」
「お疲れさま。ほら、そこの自販機寄ろう?」
​ 学校近くの自販機。拓海が選んだのは、見たこともないどぎつい青色の『超絶スパークリング・ラムネ味』だった。
​「何それ、体に悪そう」
「新作だろ、これ。……うわ、すっげー味。結衣、これ飲んでみ?」
 ​拓海が笑って、開けたばかりの缶を差し出してきた。
「えっ、いいよ、自分のあるし」
「いいから。マジで笑える味すっから」
​ 結衣の心臓が跳ねた。
 幼馴染で、部活仲間。今まで何度も飲み物の貸し借りはしてきた……はずだった。なのに、最近の結衣にとって、彼との「間接キス」はもはや心臓に悪い毒でしかない。
​(……一口だけ。友達として、一口だけなら)
​ 自分に言い聞かせ、結衣は震える手で缶を受け取った。
「……一口だけだよ」
 躊躇いながらも、薄いプルタブの縁に唇を寄せる。弾ける炭酸と一緒に、甘すぎる人工的な香りが鼻に抜けた。
​「……ホント、変な味」
「だろ?」
​ 結衣が缶を返すと、拓海はそれをひょいと受け取った。
 結衣は内心、パニックだった。
(どうするの? キャップに移す? それとも、私が飲んだところを拭く……?)
​ そんな結衣の動揺をよそに、拓海は「彼女が口をつけた場所」を一度だけじっと見つめると、全く躊躇わずにそこを自分の唇で塞いだ。
​ ゴクッ、ゴクッ、と喉が動く。
「ぷはっ! やっぱり変な味。これ、一本飲むの修行だわ」
​ 拓海は何食わぬ顔で笑っている。結衣の顔は、夏の夕焼けよりも赤く染まっていた。
「……ねえ、拓海。今、そこ、私が……」
「ん? ああ、炭酸抜ける前に飲まねーとな」
​ 彼は平然と言ってのけ、また歩き出した。
 結衣は立ち尽くす。彼にとっては、今のなんて何でもないことなのだ。自分だけが意識して、自分だけが勝手にドキドキしている。
​ けれど、結衣は知らなかった。
 先に歩き出した拓海が、赤くなった顔を必死に隠しながら、空いている手で口元を覆っていたことを。
​(……どこから飲むか、ずっと見てたなんて、口が裂けても言えねー)
​ 彼は、結衣が缶を傾ける角度も、唇が触れた位置も、すべて焼き付けていた。
「変な味」の奥で、彼女の体温が混ざった炭酸が、拓海の胸の奥でいつまでもパチパチとはじけて消えなかった。
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

処理中です...