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炭酸の泡が消える前に
1.炭酸の泡が消える前に
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夏の西日は、容赦なくアスファルトを焦がしていた。
部活終わりの、この時間が一番きつい。
バレー部マネージャーの結衣は、隣を歩くエースの拓海の横顔を盗み見た。スポーツバッグを肩にかけ、首から下げたタオルで雑に汗を拭う彼の肌からは、まだ熱い蒸気が立ち上っている。
「……死ぬ。喉、枯れた」
「お疲れさま。ほら、そこの自販機寄ろう?」
学校近くの自販機。拓海が選んだのは、見たこともないどぎつい青色の『超絶スパークリング・ラムネ味』だった。
「何それ、体に悪そう」
「新作だろ、これ。……うわ、すっげー味。結衣、これ飲んでみ?」
拓海が笑って、開けたばかりの缶を差し出してきた。
「えっ、いいよ、自分のあるし」
「いいから。マジで笑える味すっから」
結衣の心臓が跳ねた。
幼馴染で、部活仲間。今まで何度も飲み物の貸し借りはしてきた……はずだった。なのに、最近の結衣にとって、彼との「間接キス」はもはや心臓に悪い毒でしかない。
(……一口だけ。友達として、一口だけなら)
自分に言い聞かせ、結衣は震える手で缶を受け取った。
「……一口だけだよ」
躊躇いながらも、薄いプルタブの縁に唇を寄せる。弾ける炭酸と一緒に、甘すぎる人工的な香りが鼻に抜けた。
「……ホント、変な味」
「だろ?」
結衣が缶を返すと、拓海はそれをひょいと受け取った。
結衣は内心、パニックだった。
(どうするの? キャップに移す? それとも、私が飲んだところを拭く……?)
そんな結衣の動揺をよそに、拓海は「彼女が口をつけた場所」を一度だけじっと見つめると、全く躊躇わずにそこを自分の唇で塞いだ。
ゴクッ、ゴクッ、と喉が動く。
「ぷはっ! やっぱり変な味。これ、一本飲むの修行だわ」
拓海は何食わぬ顔で笑っている。結衣の顔は、夏の夕焼けよりも赤く染まっていた。
「……ねえ、拓海。今、そこ、私が……」
「ん? ああ、炭酸抜ける前に飲まねーとな」
彼は平然と言ってのけ、また歩き出した。
結衣は立ち尽くす。彼にとっては、今のなんて何でもないことなのだ。自分だけが意識して、自分だけが勝手にドキドキしている。
けれど、結衣は知らなかった。
先に歩き出した拓海が、赤くなった顔を必死に隠しながら、空いている手で口元を覆っていたことを。
(……どこから飲むか、ずっと見てたなんて、口が裂けても言えねー)
彼は、結衣が缶を傾ける角度も、唇が触れた位置も、すべて焼き付けていた。
「変な味」の奥で、彼女の体温が混ざった炭酸が、拓海の胸の奥でいつまでもパチパチとはじけて消えなかった。
部活終わりの、この時間が一番きつい。
バレー部マネージャーの結衣は、隣を歩くエースの拓海の横顔を盗み見た。スポーツバッグを肩にかけ、首から下げたタオルで雑に汗を拭う彼の肌からは、まだ熱い蒸気が立ち上っている。
「……死ぬ。喉、枯れた」
「お疲れさま。ほら、そこの自販機寄ろう?」
学校近くの自販機。拓海が選んだのは、見たこともないどぎつい青色の『超絶スパークリング・ラムネ味』だった。
「何それ、体に悪そう」
「新作だろ、これ。……うわ、すっげー味。結衣、これ飲んでみ?」
拓海が笑って、開けたばかりの缶を差し出してきた。
「えっ、いいよ、自分のあるし」
「いいから。マジで笑える味すっから」
結衣の心臓が跳ねた。
幼馴染で、部活仲間。今まで何度も飲み物の貸し借りはしてきた……はずだった。なのに、最近の結衣にとって、彼との「間接キス」はもはや心臓に悪い毒でしかない。
(……一口だけ。友達として、一口だけなら)
自分に言い聞かせ、結衣は震える手で缶を受け取った。
「……一口だけだよ」
躊躇いながらも、薄いプルタブの縁に唇を寄せる。弾ける炭酸と一緒に、甘すぎる人工的な香りが鼻に抜けた。
「……ホント、変な味」
「だろ?」
結衣が缶を返すと、拓海はそれをひょいと受け取った。
結衣は内心、パニックだった。
(どうするの? キャップに移す? それとも、私が飲んだところを拭く……?)
そんな結衣の動揺をよそに、拓海は「彼女が口をつけた場所」を一度だけじっと見つめると、全く躊躇わずにそこを自分の唇で塞いだ。
ゴクッ、ゴクッ、と喉が動く。
「ぷはっ! やっぱり変な味。これ、一本飲むの修行だわ」
拓海は何食わぬ顔で笑っている。結衣の顔は、夏の夕焼けよりも赤く染まっていた。
「……ねえ、拓海。今、そこ、私が……」
「ん? ああ、炭酸抜ける前に飲まねーとな」
彼は平然と言ってのけ、また歩き出した。
結衣は立ち尽くす。彼にとっては、今のなんて何でもないことなのだ。自分だけが意識して、自分だけが勝手にドキドキしている。
けれど、結衣は知らなかった。
先に歩き出した拓海が、赤くなった顔を必死に隠しながら、空いている手で口元を覆っていたことを。
(……どこから飲むか、ずっと見てたなんて、口が裂けても言えねー)
彼は、結衣が缶を傾ける角度も、唇が触れた位置も、すべて焼き付けていた。
「変な味」の奥で、彼女の体温が混ざった炭酸が、拓海の胸の奥でいつまでもパチパチとはじけて消えなかった。
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