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ペットボトルの境界線
4.答え合わせは、君の唇で
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最後の科目のチャイムが鳴り響き、教室に解放感とざわめきが戻る。
真衣は、解答用紙を回収する先生の手がもどかしくて仕方がなかった。隣の席で、蓮はいつも通り端正な横顔で前を見つめている。けれど、その指先が机をトントンと小さく叩いているのを、真衣は見逃さなかった。
「……蓮くん」
荷物をまとめ終えた彼に、真衣が声をかける。
「……ああ。行こうか。場所は、」
「図書室の奥、いいかな」
蓮が言いかけるのを遮って、真衣が誘う。いつもはおっとりして、彼の後ろをついていくばかりの彼女の瞳には、真っ直ぐな決意が宿っていた。
静まり返った図書室の、一番奥の書架。
窓から差し込む午後の光が、埃を白く照らしている。
「……それで。俺から言いたいことっていうのは」
蓮が意を決したように口を開く。一週間、彼を「ダメ」にし続けた理性のタガを外そうとした、その時だった。
「待って。私から、言わせて」
真衣は一歩踏み込み、蓮の制服の裾をぎゅっと握りしめた。
蓮が驚いたように目を見開く。
「私、……蓮くんが好き。テストの結果とか、もうどうでもいいくらい。あの日、お茶を直で飲んでって言ったのも、本当は……蓮くんとなら、嫌じゃないって、知ってほしかったからなの」
真衣の顔は、熟れたリンゴのように赤い。でも、視線は逸らさなかった。
「……私、おっとりしてるって言われるけど、自分の気持ちくらい、ちゃんと分かるよ。蓮くんに『我慢させる』のは、もう嫌。……私を、蓮くんの彼女にして?」
沈黙が、図書室の空気を支配する。
蓮は固まったまま、信じられないものを見るような目で真衣を見つめていた。
やがて、彼は深く、深く溜息をつき、眼鏡を外して片手で顔を覆った。
「……ったく。おまえ、本当に……」
「……蓮、くん?」
「負けたよ。……俺から言うつもりだったのに。格好つかないだろ、これじゃ」
蓮が顔を上げる。その瞳には、一週間耐え続けてきた熱が、濁流のように溢れ出していた。
彼は真衣の腰を引き寄せ、逃げ場をなくすように抱きしめた。
「俺も、好きだ。……勉強なんて手につかないくらい、一週間ずっと、おまえに触れることしか考えてなかった」
蓮の声が耳元で震える。
「……我慢しなくて、いい?」
「……うん」
真衣が小さく頷いた瞬間、重なったのは、もう「ペットボトルの境界線」越しではない、熱い体温そのものだった。
お茶の味なんて、もう思い出せない。
図書室に広がる古い紙の匂いと、彼の石鹸の香り、そして互いの甘い吐息だけが、二人の新しい境界線になった。
「……真衣。テスト、お疲れさま」
「……うん。蓮くんも、お疲れさま」
「……全然疲れてない。これから、一週間分……たっぷり甘やかすから。覚悟しとけよ」
優等生の仮面を脱ぎ捨てた蓮の、少しだけ意地悪で、猛烈に愛おしい微笑みが、真衣の視界をいっぱいに満たした。
fin...
真衣は、解答用紙を回収する先生の手がもどかしくて仕方がなかった。隣の席で、蓮はいつも通り端正な横顔で前を見つめている。けれど、その指先が机をトントンと小さく叩いているのを、真衣は見逃さなかった。
「……蓮くん」
荷物をまとめ終えた彼に、真衣が声をかける。
「……ああ。行こうか。場所は、」
「図書室の奥、いいかな」
蓮が言いかけるのを遮って、真衣が誘う。いつもはおっとりして、彼の後ろをついていくばかりの彼女の瞳には、真っ直ぐな決意が宿っていた。
静まり返った図書室の、一番奥の書架。
窓から差し込む午後の光が、埃を白く照らしている。
「……それで。俺から言いたいことっていうのは」
蓮が意を決したように口を開く。一週間、彼を「ダメ」にし続けた理性のタガを外そうとした、その時だった。
「待って。私から、言わせて」
真衣は一歩踏み込み、蓮の制服の裾をぎゅっと握りしめた。
蓮が驚いたように目を見開く。
「私、……蓮くんが好き。テストの結果とか、もうどうでもいいくらい。あの日、お茶を直で飲んでって言ったのも、本当は……蓮くんとなら、嫌じゃないって、知ってほしかったからなの」
真衣の顔は、熟れたリンゴのように赤い。でも、視線は逸らさなかった。
「……私、おっとりしてるって言われるけど、自分の気持ちくらい、ちゃんと分かるよ。蓮くんに『我慢させる』のは、もう嫌。……私を、蓮くんの彼女にして?」
沈黙が、図書室の空気を支配する。
蓮は固まったまま、信じられないものを見るような目で真衣を見つめていた。
やがて、彼は深く、深く溜息をつき、眼鏡を外して片手で顔を覆った。
「……ったく。おまえ、本当に……」
「……蓮、くん?」
「負けたよ。……俺から言うつもりだったのに。格好つかないだろ、これじゃ」
蓮が顔を上げる。その瞳には、一週間耐え続けてきた熱が、濁流のように溢れ出していた。
彼は真衣の腰を引き寄せ、逃げ場をなくすように抱きしめた。
「俺も、好きだ。……勉強なんて手につかないくらい、一週間ずっと、おまえに触れることしか考えてなかった」
蓮の声が耳元で震える。
「……我慢しなくて、いい?」
「……うん」
真衣が小さく頷いた瞬間、重なったのは、もう「ペットボトルの境界線」越しではない、熱い体温そのものだった。
お茶の味なんて、もう思い出せない。
図書室に広がる古い紙の匂いと、彼の石鹸の香り、そして互いの甘い吐息だけが、二人の新しい境界線になった。
「……真衣。テスト、お疲れさま」
「……うん。蓮くんも、お疲れさま」
「……全然疲れてない。これから、一週間分……たっぷり甘やかすから。覚悟しとけよ」
優等生の仮面を脱ぎ捨てた蓮の、少しだけ意地悪で、猛烈に愛おしい微笑みが、真衣の視界をいっぱいに満たした。
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