同じボトル、違う気持ち、同じ結末

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ペットボトルの境界線

​3.理性のリミット

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​「……今じゃ、ダメなの?」
 ​蓮の背中に向かって、真衣が小さな声を投げた。
 その声には、おっとりした彼女らしからぬ、切実な響きが混じっている。
「伝えたいこと」なんて、そんな思わせぶりな言い方をされて、一週間も待てるほど真衣の心臓は強くなかった。
​ 蓮の足が、ピタリと止まる。
 彼は振り返らない。ただ、握りしめたカバンのストラップに、白くなるほど力がこもっている。
​「……ダメだ」
​ 絞り出すような声だった。
「どうして? ほんの一言でも……」
「ダメだと言ってるだろ」
​ 蓮がようやく振り返る。その瞳は、いつもの冷静な彼からは想像もつかないほど揺れていた。熱を帯びた視線が、真衣を射抜く。
​「今言うと、俺がダメになる」
​「え……?」
「今ここで言ったら、俺は……テスト勉強なんて放り出して、おまえを帰したくなくなる。一週間どころか、一分一秒だって離れたくなくなるんだ」
​ 真衣は、息をすることさえ忘れてしまった。
 蓮が自分に対して、そこまで強い執着を抱いていたなんて、想像もしていなかったから。
​「さっきだって、そうだよ。おまえが『直でいい』なんて言うから……俺がどれだけ理性を保つのに必死だったか、分かってないだろ」
​ 一歩、蓮が距離を詰める。
 放課後の誰もいない廊下に、彼の微かな香りと、熱い吐息が混ざり合う。
​「おまえに触れたいし、昨日よりもっと……お茶の味なんて上書きされるくらい、めちゃくちゃにしたくなる」
​ 蓮が真衣の耳元で低く囁いた。
 その声は、甘い宣告のようだった。
​「……だから、一週間。俺に死ぬ気で我慢させろ」
​ 蓮はそう言うと、真衣の頭を一度だけ、乱暴に、でも愛おしそうに撫でた。
「帰るぞ。……離れて歩けよ。じゃないと、自信ないから」
​ そう言って再び歩き出した彼の背中は、どこか寂しそうで、でも猛烈に雄弁だった。
 真衣は、熱くなった頬を手で押さえながら、彼の後ろをついていく。
​ 一週間後のテストが終わった時、自分たちはどんな関係になっているんだろう。
 確かなのは、もう「ただの居残り仲間」には戻れないということだけだった。

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