同じボトル、違う気持ち、同じ結末

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ペットボトルの境界線

​2.境界線の向こう側

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 ​教室の時計が刻むチクタクという音が、やけに大きく聞こえる。
 真衣は必死にシャーペンを動かしていたが、ノートにはさっきから同じ数字を書き殴っているだけだ。
​(言っちゃった……自分から言っちゃった。「直でいい」なんて……!)
​ 隣に座る蓮も、さっきから一度もペンを動かしていない。いつもなら、流れるような速さで数式を解き進めるはずの彼が、今はただ、開いたままの参考書をじっと見つめている。
 ​沈黙が、重い。
 先ほど彼が口をつけたペットボトルの中身は、二人の体温が移ったのか、もうすっかりぬるくなっているはずだ。
​「……あ、の。蓮くん」
 耐えられなくなった真衣が、おずおずと声をかけた。
​「……なんだ」
 蓮の声は、いつもより少しだけ低かった。彼は視線をノートに落としたままだが、その耳たぶが、夕焼けのせいだけではない赤色に染まっているのを真衣は見逃さなかった。
​「その……今の、勉強に集中……できてる?」
「……できるわけないだろ。おまえがあんなこと言うから」
​ 蓮がようやく真衣の方を向いた。眼鏡の奥の瞳が、少しだけ潤んでいるようにも見える。
「悪い、。やっぱり今日は、ここまでにしよう」
​ 蓮はそう言うと、手早く筆記用具を片付け始めた。真衣も慌てて荷物をまとめる。
 二人の間に、昨日の「友達」という境界線が、もう元通りには引けないことを、お互いが肌で感じていた。
​ 教室を出ようとした時、蓮が扉の前で足を止めた。
 彼は真衣を振り返ることなく、でも、逃げ場のないほどはっきりとした声で告げた。
​「真衣。来週のテスト……終わったら、伝えたいことがある」
​「……伝えたいこと?」
 真衣の胸が、どきりと跳ねる。
​「ああ。今は……勉強しなきゃいけないから、言わない。言ったら、おまえも俺も、テストどころじゃなくなるから」
​ 蓮は少しだけ顔を背けると、独り言のように続けた。
​「……お茶の味なんて、覚えてないくらい、頭の中おまえでいっぱいなんだよ」
​「……えっ」
「……帰るぞ。送る」
​ 蓮はそれ以上何も言わずに、足早に廊下を歩き出した。
 真衣はその後ろ姿を追いかけながら、自分の頬がどれほど熱いか、鏡を見るまでもなく分かっていた。
​(伝えたいことって、もしかして……)
​ テストまでのあと一週間。
 二人の間には、昨日よりもずっと甘くて、ずっともどかしい「宿題」が残された。

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