国民的アイドルなのに住む家がなくなった件【アイドル:V-ブイ-】

HARUKO

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第一章-深視点-

(8)口説かれるということ

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ポツリポツリと近況を話すアキラに軽く相槌をうつだけの会話は当然のことながら盛り上がらず、19時には食事を終えてしまった。

明日は朝早い、という輝にあらためて時間を聞くと、5時にはマネージャーが迎えにくるのだという。

「風呂入って、もう寝た方がいいよ。今湯を入れるからさ、浸かって。ずーっと忙しかったのがわかったから、少し休みなよ」

シンが慌てて声を掛けると、輝は少し拗ねたような顔をした。

「なんだよ、そんな早く寝かそうとして」

「えっ?いや、だって早く寝た方がいいでしょ…」

「じゃあ、深、一緒に寝てくれる?」

「えっ…」

そこで深は先日から感じていた輝への違和感の正体に気づく。

2人は長い付き合いで、お互いにそれぞれ恋愛経験があるのも女の子が好きなのも知っている。

それに裏では、それなりの下ネタなどを言うこともある。

ほぼ合コンみたいな飲み会で、輝が女の子を口説くところも何度も見ている。

一そうだ、今俺は口説かれているんだ。

しかもかなり際どい誘い方で、付き合う前の感じというより、輝が最初に言っていたように自分のほぼ支配下にあるものをベッドに誘うような文句である。

本気なのか嫌がらせなのかわからないが、これから最低でも数ヶ月はお世話になる中で、ずっと女の子ような扱いを受け続けるのは、ごめんだ。

一ここらで形勢逆転に持ち込まないと後がキツい。

深は決心すると、なるべく表情を変えずに輝の目を見つめた。

「一緒には寝ない…けど、輝…俺と一緒に風呂入ろう」

「えっ?えっ?風呂っ!?」

思わず驚いて、ソファから身を乗り出した輝をみて、深はほくそ笑むのだった。

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

風呂なんて、これまでそれこそ何百回と一緒に入ってきた。

ライブの後や遠征先、テレビ局など。

なのに、そんな当たり前のことに輝は過剰反応を示した。

「深待って!俺が先に入るから、後から入ってきて…」

慌てている輝が可愛くて、深は楽しくなる。

一輝のやつ、この楽しさを味わうために俺を揶揄ってたのかよー。

確かに結構濃厚なキスをしてしまったが、この業界にいると別段珍しいことではないわけではない。

罰ゲームみたいなノリや先輩の命令で、男とキスなんて…何度もしている。

相手が異性であれ男性であれ、深はこういうことのイニシアティブをとるのは楽しいことを知った。

10分たったころに、深はやっと呼ばれた。

中に入ると、輝は湯船に入り上を見上げていた。

1人で入るなら充分な大きさだが、体格の良い輝だとなんとか収まっている感じである。

深は簡単に頭と身体を洗うと、自分も湯船に浸かった。

少し遠慮しても、足はもちろん当たる。絡ませようかと深は思ったが、さすがにそれはやりすぎだと自重する。

その時、天を仰いでいた輝が、深の方に向き直った途端…

「ごめん!俺もうでるわ、じゃあおやすみ」

と言いのこして慌てて出てしまった。

跳ねたお湯を浴びて深は顔を拭いながら、呆気にとられたのだった。


        -----第一章(完)

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