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58話
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カリーナに許可をもらったフルクトスは少し早口で話しだした。
「もう15年以上も前のことです。団長がまだ8歳か9歳くらいの頃でしょうか、とある貴族に待望の嫡子が誕生しました。その赤ん坊の名前はジグレイド。ジグレイド・オルトレイムと名付けられました。
団長のメルベス伯爵家は領地を持たない魔法使いの家系というのは皆さんご存知かと思います。メルベス家は旧オルトレイム子爵領、現在はウロスフィン伯爵領ですが、その港湾都市に昔住んでいた時期があったのだ。
私は当時、魔法師団には所属せずメルベス家の専属講師だった。そんなときジグレイド君とカリーナ様は出会われた。
当時のカリーナ様は毎日オルトレイム家の屋敷に出向いてはジグレイド君の遊び相手をするくらい溺愛していた。だがそんな穏やかな日々は長くは続かなかった。
すでに魔法使いとして規格外だったカリーナ様は若干11歳で戦争に参加させるため魔法師団に加えられたのだ。王命だったため拒否はできなかったそうだ。
皆も知っての通り魔法師団に所属するものは王都で過ごさねばならない。おかげで溺愛していたジグレイド君とは離れ離れになってしまった。だがカリーナ様はジグレイド君には膨大な魔力が宿っていることに気が付いていた。いつかジグレイド君が魔法師団に入団してくれると願いそれを励みに頑張って待っておられたのだが・・・。
不幸にもオルトレイム家は数年後冤罪で取り潰しになった。
両親はともに打ち首となりジグレイド君は教会に預けられたそうだ。だがジグレイド君の消息は数年後に途絶えた。ジグレイド君を陰ながら見守っていたカリーナ様は急ぎ探したが、終ぞ見つけられなかったのだ。
だが前回の戦争の報告書の中にジグレイド君の名前を見つけたカリーナ様は珍しく興奮なされて・・・あ、これは言わなくていいと・・・“ゴホン”ジグレイド君を見つけたカリーナ様は接触しようと態々カザフ要塞都市まで出向き可能な限り組合に顔を出していらしたのだ。これは皆には申し訳ないと思っている。もちろんカリーナ様も同様にだ。
組合に通い詰めて数ヵ月もう諦めかけていた時に思わぬ形で再会が果たされた。私もあの怪しい鎧男がジグレイド君だとは思いもしなかったがね。
とまあ簡単に話すとこんな感じだ。おそらくジグレイド君は私やカリーナ様のことは覚えていないだろう。それに彼の実家のこともある。彼には内緒にしていてもらえるだろうか?」
「まじかよ・・・ジグレイドのやつ貴族だったのかよ。今度からジグレイド様って言った方がいいのか?」
「いや、黙ってろっていわれただろ・・・前と同じように接しろよ」
「うぅ・・・団長の長年の母性、姉性ですか?だったのですね。確かに一度離れ離れになった大好きな弟を再び失うのは辛すぎます!」
「ジグレイドさんにそんな悲しい過去があったとは・・・」
フルクトスが手短に話し終えた後の反応はまちまちだった。上から順にギース、ファマル、メマ、イクシムである。
「一つ気になったんだが、なんで冤罪なんだ?ちゃんと国も調べたはずだろ?」
「そうだな・・・これは私とカリーナ様が調べた結果なのだが、まず私たちはどうもあの心優しいジグレイドの両親が罪を犯すとは思えなかった。だから長年を掛けて調べたのだ。
もちろん調査は難航した。私もカリーナ様も魔法師団の職務があるからな。だがコツコツと調べていくうちに判明したのだ!あの優しいオルトレイム家に罪を擦り付けた愚かな貴族が誰なのかという事をなっ!」
話していくうちに怒りがぶり返してきたのかワナワナ拳を震わせていた。
「そもそもその被せられた罪ってなんだっけか?」
「ファマルは覚えていないのか?一時騒がれていたはずだ。確か主な罪は自領の豊富な資源を他国へ密輸出したり他国の間者を迎え入れたりといったもので、他にも細々とした罪がたくさんあったような気がするな。とにかく裏切り行為、売国奴という罪で裁かれたはずだ」
ファマルの疑問にイクシムが答えてくれた。
「そうだ・・・そのようなことは絶対にオルトレイム子爵家はしていない!全てワマル伯爵家が仕組んだことなのだ!奴らはカザフ要塞都市へと物資を運ぶフリをしてエフェンス港湾都市の貴重な資源を他国へと法外な値段で売って私腹を肥やしていたのだ!」
「まじかよ・・・国には報告したのか?」
「したのだがその時にはもう密輸出を止めていたのか大きな罪にはならず多少の罰金にしかならなかった・・・それが私は悔しくてしかたないのだ!罪を犯した貴族がのうのうと生きていることが!」
フルクトスがボロボロ涙を流しながら話していると小さい声だが全員に聞こえるほどの声色でカリーナが発した。
「そんなことより時間」
「そうだ!ジグレイドがやべえ!」
そんなギースの叫びに反応して空き地へと皆が駆けだした。
一方、巨大な球体の魔物(正式名称:ヒュージビスカプリズム)に捕らわれたジグレイドはその頃
『ぐっ!油断していたな・・・まさか生きているとは思わなかった。それになんだ?身体が動かない・・・』と身体を貫かれながらも生きていた。しかしこの魔物の能力なのか身体が麻痺して動けないでいた。それに今はまだ呼吸できるがいつ魔物の体内に取り込まれるかわからない状況だった。カリーナ達が撤退した後、魔物はゆっくりとその姿を地上へと現してきていた。
『今ならカリーナ達への被害を考えなくて済むんだが、魔素の吸収があまり上手くいかない・・・このままだと本当にヤバいな』
魔素の吸収は魔物の十八番である。厳密に言えば吸収ではなくただの食事なのだが、今はそんなことはどうでもいい。とにかく魔物に大半を吸収されてしまっているためジグレイドが吸収する魔素は極端に少なくなっているのである。
『ぐがっ!このやろう今度は脇に刺しやがったな!・・・落ち着け、冷静になれ。ゆっくりでいい。時間をかけて魔素の吸収をすればいい。そうすればヒュドラの猛毒でこの危機を脱することができるはずだ!落ち着け・・・』
ジグレイドがゆっくり魔素を吸収している途中にも魔物は一切待ってくれない。次々に鎧の隙間へと槍の触手を突き刺していく。さらに体内に取り込むつもりなのか足の方から徐々に取り込まれ始めた。
『くっ・・・焦る、な!集中だ!こんなネバネバした魔物ごときにやられて堪るか!』
ジグレイドが首まで取り込まれた始めた時、漸く魔素の吸収が41%を超えたようであった。取り込んでいたジグレイドをいきなり吐き出し刺していた触手を魔物自ら切り離したのだ。
「ぐあっ!痛いな・・・いきなり放り投げるなよ。でもまあ漸く手放してくれたな、これで本気が出せる・・・吸収も妨害してくれていたみたいじゃないか!(意図的ではない)そっちも毒使うみたいだが、俺の発する毒はお前のちゃちな毒とはわけが違うぞ、覚悟するんだな」
地面に放り出されたジグレイドは刺さったままの槍を引き抜いて捨てた。そして全力で猛毒の領域を発動した。
「おいおい、逃げるなよ。さっきまではあんなにじゃれついてきていたのに悲しいよ」
圧倒的な力量さに漸く気が付いたのか、ゆっくりと歩み寄ってくるジグレイドにヒュージビスカプリズムは後退りしていく。そして一気に距離をとって逃げるため跳ねようとした瞬間にはジグレイドが短槍を振りかざして目の前に来ていた。
「だから逃げるなって言っているだろ?せっかく出会えたんだ、ちゃんと殺しあおうぜ!」
そこからはもう一方的だった。猛毒の領域で動けない魔物を短槍で斬り刻んでいく。この魔物の生命そのものともいえる巨大な魔核が顕になってきた。ジグレイドは躊躇なくその魔核を真っ二つにした。すると先ほどまで僅かに蠢いていた魔物は一切動かなくなった。
「ふう・・・なかなかの強敵だったな。あの能力なしではまだ深層の魔物はきついな。もっと強くなる方法考えないといけないな」
ブツブツとジグレイドが呟いていると森から叫ぶ声がした。
「あー!一人で倒したのかよ!?団長!ジグレイドのやつ生きてるぜ!」
ギースがそう叫ぶとカリーナが物凄い速度で走り寄って飛びついてきた。
「ジグ!無事!?メマ回復!はやく!」
「カリーナ落ち着け。怪我ならも治った。もう何も心配いらないさ」
飛び掛かってきたカリーナを抱きとめて優しくそう言った。
「うそ!ジグ回復魔法使えない!」
「そうだけどさ、なんでかは知らないけど治るんだよね。だから大丈夫だ」
ジグレイドに掛かっている“リジェネレーション”は未だに効果を発揮していた。そもそも魔力の続く限り治療し続ける魔法なのだからジグレイドが一瞬の内に殺されない限りは永遠と治り続けるというほぼ不死身の肉体となっているのだ。ジグレイドは前回新緑の森で修行したときにこのことに気が付いていた。だが理由までは分からず結局は放置しているのだ。
「おうおう、お熱いねー。お似合いだよ、団長」
抱き合いながら見つめあっていた二人をからかってきたのはファマルだ。
「べ、べつにそんなんじゃない!」
からかわれたカリーナは顔を真っ赤にしながらメマの元へ走って行ってしまった。
「ファマル、あまりからかうなよ。純粋に心配してくれていただけなのに」
「ん?あー・・・ちょっとやりすぎたか?」
なまじ過去のことを知ってしまったがために、カリーナがジグレイドに姉として接していることを知っているファマルはからかいすぎたかと思った。
「ジグレイド君よく無事だったな。すぐに助けに来られなくて申し訳なかった。こちらで少し揉めてしまってな」
「フルクトスさん、一度立て直す必要がありましたから、あの後退は間違っていませんでしたよ。なので謝罪は必要ありません。それにちゃんと迎えに来てくれたじゃないですか」
「そう言ってもらえると助かる。ありがとう」
「そういえばそちらで揉めたとか・・・何があったんです?」
「ふむ、アイリーン君が部隊を抜けて単独行動に出たのだ」
「それはまた・・・理由は何となく想像できますね」
「おそらく想像通りだろう。だがあまり彼女を責めないでくれ。彼女の考えも間違ってはいないのだから」
「そうですね、情報の重要性は俺も身に染みて理解していますよ。とにかくここは危険ですので早く移動した方がいいでしょうね。この魔物の素材を運ぶのを手伝ってください」
「了解した。皆、この素材を手早く荷馬車に運ぶぞ!」
男5人で飛び散った素材を荷馬車に運び込みカリーナとメマには周囲の警戒をしてもらった。
運び込みが終わったのはだいぶ経ってからだった。
「つ、疲れたー・・・無駄にデカすぎだろ。というかジグレイドさん細切れにし過ぎ」
「あー、それはすみません・・・あいつの魔核が体内の奥にあったので斬り刻むしかなかったんですよ。許してください」
「にしてもこの魔核大きいですね。割れていなかったら国宝になりましたよ」
「ジグレイド君そろそろ移動しないと野営地を見つけられなくなるぞ」
「あー、そうでした。忠告ありがとうございます。では移動しましょう」
「えー、もう今日はここで一晩過ごそうぜ」
「ギース、先ほどの魔物が一体だけとは限らない、できるだけ早くここから離れるべきだ」
「そうか・・・あんな魔物が沢山いるんだったな、ここには」
「そういうことで早速移動しましょう、幸い少し遠いですけど俺が前回使った野営地があります。まだ崩れていなかったらですけど・・・どうします?」
「そこでいい」
カリーナが肯定したことで誰も異を唱える人はいなかった。
そして目的の野営地に到着したのは日が落ちてからだった。
無事に身体を休めることができたのだが、一行にはとある問題が起きていたのだった。
「もう15年以上も前のことです。団長がまだ8歳か9歳くらいの頃でしょうか、とある貴族に待望の嫡子が誕生しました。その赤ん坊の名前はジグレイド。ジグレイド・オルトレイムと名付けられました。
団長のメルベス伯爵家は領地を持たない魔法使いの家系というのは皆さんご存知かと思います。メルベス家は旧オルトレイム子爵領、現在はウロスフィン伯爵領ですが、その港湾都市に昔住んでいた時期があったのだ。
私は当時、魔法師団には所属せずメルベス家の専属講師だった。そんなときジグレイド君とカリーナ様は出会われた。
当時のカリーナ様は毎日オルトレイム家の屋敷に出向いてはジグレイド君の遊び相手をするくらい溺愛していた。だがそんな穏やかな日々は長くは続かなかった。
すでに魔法使いとして規格外だったカリーナ様は若干11歳で戦争に参加させるため魔法師団に加えられたのだ。王命だったため拒否はできなかったそうだ。
皆も知っての通り魔法師団に所属するものは王都で過ごさねばならない。おかげで溺愛していたジグレイド君とは離れ離れになってしまった。だがカリーナ様はジグレイド君には膨大な魔力が宿っていることに気が付いていた。いつかジグレイド君が魔法師団に入団してくれると願いそれを励みに頑張って待っておられたのだが・・・。
不幸にもオルトレイム家は数年後冤罪で取り潰しになった。
両親はともに打ち首となりジグレイド君は教会に預けられたそうだ。だがジグレイド君の消息は数年後に途絶えた。ジグレイド君を陰ながら見守っていたカリーナ様は急ぎ探したが、終ぞ見つけられなかったのだ。
だが前回の戦争の報告書の中にジグレイド君の名前を見つけたカリーナ様は珍しく興奮なされて・・・あ、これは言わなくていいと・・・“ゴホン”ジグレイド君を見つけたカリーナ様は接触しようと態々カザフ要塞都市まで出向き可能な限り組合に顔を出していらしたのだ。これは皆には申し訳ないと思っている。もちろんカリーナ様も同様にだ。
組合に通い詰めて数ヵ月もう諦めかけていた時に思わぬ形で再会が果たされた。私もあの怪しい鎧男がジグレイド君だとは思いもしなかったがね。
とまあ簡単に話すとこんな感じだ。おそらくジグレイド君は私やカリーナ様のことは覚えていないだろう。それに彼の実家のこともある。彼には内緒にしていてもらえるだろうか?」
「まじかよ・・・ジグレイドのやつ貴族だったのかよ。今度からジグレイド様って言った方がいいのか?」
「いや、黙ってろっていわれただろ・・・前と同じように接しろよ」
「うぅ・・・団長の長年の母性、姉性ですか?だったのですね。確かに一度離れ離れになった大好きな弟を再び失うのは辛すぎます!」
「ジグレイドさんにそんな悲しい過去があったとは・・・」
フルクトスが手短に話し終えた後の反応はまちまちだった。上から順にギース、ファマル、メマ、イクシムである。
「一つ気になったんだが、なんで冤罪なんだ?ちゃんと国も調べたはずだろ?」
「そうだな・・・これは私とカリーナ様が調べた結果なのだが、まず私たちはどうもあの心優しいジグレイドの両親が罪を犯すとは思えなかった。だから長年を掛けて調べたのだ。
もちろん調査は難航した。私もカリーナ様も魔法師団の職務があるからな。だがコツコツと調べていくうちに判明したのだ!あの優しいオルトレイム家に罪を擦り付けた愚かな貴族が誰なのかという事をなっ!」
話していくうちに怒りがぶり返してきたのかワナワナ拳を震わせていた。
「そもそもその被せられた罪ってなんだっけか?」
「ファマルは覚えていないのか?一時騒がれていたはずだ。確か主な罪は自領の豊富な資源を他国へ密輸出したり他国の間者を迎え入れたりといったもので、他にも細々とした罪がたくさんあったような気がするな。とにかく裏切り行為、売国奴という罪で裁かれたはずだ」
ファマルの疑問にイクシムが答えてくれた。
「そうだ・・・そのようなことは絶対にオルトレイム子爵家はしていない!全てワマル伯爵家が仕組んだことなのだ!奴らはカザフ要塞都市へと物資を運ぶフリをしてエフェンス港湾都市の貴重な資源を他国へと法外な値段で売って私腹を肥やしていたのだ!」
「まじかよ・・・国には報告したのか?」
「したのだがその時にはもう密輸出を止めていたのか大きな罪にはならず多少の罰金にしかならなかった・・・それが私は悔しくてしかたないのだ!罪を犯した貴族がのうのうと生きていることが!」
フルクトスがボロボロ涙を流しながら話していると小さい声だが全員に聞こえるほどの声色でカリーナが発した。
「そんなことより時間」
「そうだ!ジグレイドがやべえ!」
そんなギースの叫びに反応して空き地へと皆が駆けだした。
一方、巨大な球体の魔物(正式名称:ヒュージビスカプリズム)に捕らわれたジグレイドはその頃
『ぐっ!油断していたな・・・まさか生きているとは思わなかった。それになんだ?身体が動かない・・・』と身体を貫かれながらも生きていた。しかしこの魔物の能力なのか身体が麻痺して動けないでいた。それに今はまだ呼吸できるがいつ魔物の体内に取り込まれるかわからない状況だった。カリーナ達が撤退した後、魔物はゆっくりとその姿を地上へと現してきていた。
『今ならカリーナ達への被害を考えなくて済むんだが、魔素の吸収があまり上手くいかない・・・このままだと本当にヤバいな』
魔素の吸収は魔物の十八番である。厳密に言えば吸収ではなくただの食事なのだが、今はそんなことはどうでもいい。とにかく魔物に大半を吸収されてしまっているためジグレイドが吸収する魔素は極端に少なくなっているのである。
『ぐがっ!このやろう今度は脇に刺しやがったな!・・・落ち着け、冷静になれ。ゆっくりでいい。時間をかけて魔素の吸収をすればいい。そうすればヒュドラの猛毒でこの危機を脱することができるはずだ!落ち着け・・・』
ジグレイドがゆっくり魔素を吸収している途中にも魔物は一切待ってくれない。次々に鎧の隙間へと槍の触手を突き刺していく。さらに体内に取り込むつもりなのか足の方から徐々に取り込まれ始めた。
『くっ・・・焦る、な!集中だ!こんなネバネバした魔物ごときにやられて堪るか!』
ジグレイドが首まで取り込まれた始めた時、漸く魔素の吸収が41%を超えたようであった。取り込んでいたジグレイドをいきなり吐き出し刺していた触手を魔物自ら切り離したのだ。
「ぐあっ!痛いな・・・いきなり放り投げるなよ。でもまあ漸く手放してくれたな、これで本気が出せる・・・吸収も妨害してくれていたみたいじゃないか!(意図的ではない)そっちも毒使うみたいだが、俺の発する毒はお前のちゃちな毒とはわけが違うぞ、覚悟するんだな」
地面に放り出されたジグレイドは刺さったままの槍を引き抜いて捨てた。そして全力で猛毒の領域を発動した。
「おいおい、逃げるなよ。さっきまではあんなにじゃれついてきていたのに悲しいよ」
圧倒的な力量さに漸く気が付いたのか、ゆっくりと歩み寄ってくるジグレイドにヒュージビスカプリズムは後退りしていく。そして一気に距離をとって逃げるため跳ねようとした瞬間にはジグレイドが短槍を振りかざして目の前に来ていた。
「だから逃げるなって言っているだろ?せっかく出会えたんだ、ちゃんと殺しあおうぜ!」
そこからはもう一方的だった。猛毒の領域で動けない魔物を短槍で斬り刻んでいく。この魔物の生命そのものともいえる巨大な魔核が顕になってきた。ジグレイドは躊躇なくその魔核を真っ二つにした。すると先ほどまで僅かに蠢いていた魔物は一切動かなくなった。
「ふう・・・なかなかの強敵だったな。あの能力なしではまだ深層の魔物はきついな。もっと強くなる方法考えないといけないな」
ブツブツとジグレイドが呟いていると森から叫ぶ声がした。
「あー!一人で倒したのかよ!?団長!ジグレイドのやつ生きてるぜ!」
ギースがそう叫ぶとカリーナが物凄い速度で走り寄って飛びついてきた。
「ジグ!無事!?メマ回復!はやく!」
「カリーナ落ち着け。怪我ならも治った。もう何も心配いらないさ」
飛び掛かってきたカリーナを抱きとめて優しくそう言った。
「うそ!ジグ回復魔法使えない!」
「そうだけどさ、なんでかは知らないけど治るんだよね。だから大丈夫だ」
ジグレイドに掛かっている“リジェネレーション”は未だに効果を発揮していた。そもそも魔力の続く限り治療し続ける魔法なのだからジグレイドが一瞬の内に殺されない限りは永遠と治り続けるというほぼ不死身の肉体となっているのだ。ジグレイドは前回新緑の森で修行したときにこのことに気が付いていた。だが理由までは分からず結局は放置しているのだ。
「おうおう、お熱いねー。お似合いだよ、団長」
抱き合いながら見つめあっていた二人をからかってきたのはファマルだ。
「べ、べつにそんなんじゃない!」
からかわれたカリーナは顔を真っ赤にしながらメマの元へ走って行ってしまった。
「ファマル、あまりからかうなよ。純粋に心配してくれていただけなのに」
「ん?あー・・・ちょっとやりすぎたか?」
なまじ過去のことを知ってしまったがために、カリーナがジグレイドに姉として接していることを知っているファマルはからかいすぎたかと思った。
「ジグレイド君よく無事だったな。すぐに助けに来られなくて申し訳なかった。こちらで少し揉めてしまってな」
「フルクトスさん、一度立て直す必要がありましたから、あの後退は間違っていませんでしたよ。なので謝罪は必要ありません。それにちゃんと迎えに来てくれたじゃないですか」
「そう言ってもらえると助かる。ありがとう」
「そういえばそちらで揉めたとか・・・何があったんです?」
「ふむ、アイリーン君が部隊を抜けて単独行動に出たのだ」
「それはまた・・・理由は何となく想像できますね」
「おそらく想像通りだろう。だがあまり彼女を責めないでくれ。彼女の考えも間違ってはいないのだから」
「そうですね、情報の重要性は俺も身に染みて理解していますよ。とにかくここは危険ですので早く移動した方がいいでしょうね。この魔物の素材を運ぶのを手伝ってください」
「了解した。皆、この素材を手早く荷馬車に運ぶぞ!」
男5人で飛び散った素材を荷馬車に運び込みカリーナとメマには周囲の警戒をしてもらった。
運び込みが終わったのはだいぶ経ってからだった。
「つ、疲れたー・・・無駄にデカすぎだろ。というかジグレイドさん細切れにし過ぎ」
「あー、それはすみません・・・あいつの魔核が体内の奥にあったので斬り刻むしかなかったんですよ。許してください」
「にしてもこの魔核大きいですね。割れていなかったら国宝になりましたよ」
「ジグレイド君そろそろ移動しないと野営地を見つけられなくなるぞ」
「あー、そうでした。忠告ありがとうございます。では移動しましょう」
「えー、もう今日はここで一晩過ごそうぜ」
「ギース、先ほどの魔物が一体だけとは限らない、できるだけ早くここから離れるべきだ」
「そうか・・・あんな魔物が沢山いるんだったな、ここには」
「そういうことで早速移動しましょう、幸い少し遠いですけど俺が前回使った野営地があります。まだ崩れていなかったらですけど・・・どうします?」
「そこでいい」
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