『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第一章 

とある勇者達一行③ アイピスの奇跡

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私のお母さんは5年前に氷血病を発症して、もう一年前から意識がある事が少なくなっていました。

お母さんの体は、赤い大小の幾つもの四角い結晶に厚く包まれ、私はお母さんの体を割らないようにその結晶を少しでも取り除けるものは取ってました。

時々お母さんが目を覚まして、私とお話ししてくれました。声を出すのも辛くて、凄く痛い筈なのに、母は「喋られる内に話さなきゃ」と穏やかな表情で…。

食事には意識がある時に集落の人が、王国で買ってくれたポーションを母に飲ませてくれました。

お母さんが目を覚まさなくなって一ヶ月目。お母さんは見る間に痩せてしまって、もう今度こそ駄目なんだと諦めていました。
せめて、良くしてくれた集落の皆んなのお手伝いがしたくて、銀鏡月祭の日に花を飾ることにし、花を摘みに森へ行ったそこでアイピスを見つけ、黒竜さんにも出会ったんです。

私はその時思わずお母さんに助けを求めてしまいました。もしかしたら、黒竜さんが見逃してくれたのはお母さんのお陰かもしれません。

無事に家に帰る事が出来た後、お母さんの側にアイピスを花瓶に生けました。少しでも、痛いのがなくなればいいなと。

次の日、お母さんは久しく目を覚ましました。もう喋る事も出来なくなっていたのに、お母さんが私に話しかけたんです。

「ミリシャ、ありがとうね。お花、とっても素敵だわ」

それだけでも、充分嬉しかった。最期の言葉を聞けて、良かったと思いました。でも次の日も次の日も、お母さんは目を覚ましました。

「この花不思議ね。氷で出来たような花なのに、この花に私がじんわり溶かされているみたい」

「なんだかね、この花がお母さんの悪いところを吸い取ってくれてる気がするわ」

「ミリシャ、安心して、お母さん本当に何処も痛くも辛くもないわ。あの花から良い香りがして、とっても心地良いの」

そんな会話が毎日続き2週間目。

ある日、ガラスの割れる音と、何か固い物が大量に地面に転がる大きな音がして、私は急いでお母さんの方に向かいました。

「え?」

そこで見たのは、ベットから上体を起こす母の姿。ポロポロと身体からキューブ状の結晶が綺麗に溢れ落ちていく。

「なんとなく起き上がっちゃったわ!」と笑顔のお母さん。私は一瞬倒れそうになりした。

それから、母の体を侵食していた赤いキューブは、お母さんの体から瘡蓋のように勝手に剥がれていきました。
氷結病は、どんな万能薬でも完全に直す事ができず、またすぐに再発すると言いますが、再発するときにするチクチクとした痛みは母には全く訪れる気配がありません。

集落の人は母がどんどん元気になる毎にお見舞いに来てくれ、そのうちにアイピスの花の癒しの力を知った集落の病気の方々が私の家に訪れ、瞬く間に病気が治っていきました。

それから、3階建の診療所が作られ、2階の部屋の真ん中にアイピスが生けられ、どんなに沢山の人が病気になってもアイピスの恩恵を受けられるようにしました。

*******

ミリシャの話が終わる頃には、診療所に着き、そこで本物の奇跡のアイピスを目の当たりにした。

ルアドは早々アイピスから強烈な神聖魔力の力をビシバシと感じ、「とんでもない効果のアイピスだね」と冷や汗をかいていた。

「とんでもないの度を超えているわ、もう神話級よ!
もしこのアイピスが他のとこにバレたら戦争が起きるわ…というか私のとこの皇国と聖教会が一番黙ってないわ!」


リリナは後々の事を考え、顔を赤くしたり青くしたりしてちょっとしたパニックになっていた。

「アイピスって花びらが薄っぺらで糸みたいに茎が細くて、そよ風が当たるぐらいで壊れちゃいそうな花だと思ってたけどぉ、凄いゴージャスで花びらいっぱいでキラキラなんだね!」

「それは言い過ぎだよ…。だけど、本当に普通のアイピスと全然違うね」

マノンのアイピスの批評に苦笑いしつつ、ルアドは豪華な花瓶に飾られたアイピスをまじまじと見た。

***

「取り敢えず、このアイピスが割れないように多重結界を出来得る限り張るわ。ルアドも手伝って」

魔法に卓越したリリナの指導の元、ルアドは神聖魔法を使って、アイピスを狙う者から絶対にアイピスを盗られないよう結界と付与魔法とトラップを仕掛けた。

『病人以外を通さない』『アイピスを結界の外に持ち運べない』『結界の中で暴動が起きたら森の外れに飛ばされる』『神聖魔法以外魔法を使えない』などの制約が組み込まれた強固な結界は、リリナとルアドによって診療所に設置された。

因みにマノンとヴィグルは神聖魔法が使えないので、アイピスの側のベットで寝ていた。

***

「よし、黒竜を探しに行こう」

診療所のアイピスの措置に集落の人に盛大に感謝され、本来の目的を忘れつつあったマノンとヴィグルがルアドの呼びかけにハッと思い出す。

「ワープ使える逃げ足の速え黒竜なんか、捕まえるのダリィわ」

「いや大丈夫。実はさっき結界張ってる時に、竜王が黒竜の居場所を突き止めたっていう連絡が入ってたんだよね」

「連絡が入ってたって…ちょっと早く言いなさいよ」

はは、ごめんとルアドは謝りながら、竜王のメッセージを展開し、横からマノンが覗き見る。

「『黒竜、東の迷いの森の中央に確認』だってー。ぷっ黒竜ちゃん迷いの森にバリバリ迷い込んじゃってるじゃんっあはっあはははははっ」

迷いの森は森の深部に入ってはならないという決まりがあった。一度森の深部に入ってしまうと、森の中央から抜け出せなくなってしまうからだ。また、森には方向感覚を狂わせる植物や、遠くの地形が変わる幻覚などで、森の深部に自然と誘われるようになっている。それは、ワープ地点が決まっていないタイプのワープや瞬間移動でも、森から抜けられないようになっていた。

黒竜が迷っている姿を思い浮かべてマノンはお腹を抱えて笑っていた。

「ほら、そんなに急がなくても大丈夫だったでしょ?」

アルトの言葉に、リリナはフッと困った顔をして笑った。

「確かに魔竜なら、こっちに渡るのが今回初めての線が強いし、精霊王の森から一気に迷いの森にワープしたならワープ地点も置ける余裕も無かったでしょうし…まぁ、当分黒竜は森の中に閉じ込められてるわね」

「ん、じゃあさ、もう黒竜討伐しなくても良くね?」

「は?何言ってんの、竜種は魔力が無くならない限り餓死して死ぬ事もないし、永遠と森に魔竜が住み続けられたら困るじゃない。魔王や邪神の使い魔って言われる魔竜なのよ。ワープで他の魔物とか呼び込まれたら大変なことになるわ」

「リリナの言う通りだね。不安要素はなるべく潰した方が良い。竜王だって嫌な気配って気味悪がってるし」

「あーすまん」

面倒で思わず零してしまった言葉にルアドとリリナに正論を言われてヴィグルはバツが悪そうに頭を掻いた。

それから、リリナがワープ地点を設置し、迷いの森に繋がる移動魔法を組み込んでいる時にルアドが竜王からメッセージを受け取った。

「一旦展開を中止するわ。竜王からなんて?」

「えーっと…『黒竜の反応が忽然と消えた。先程まで森に居たはずだが、迷いの森だけでなくアーフィタリア大陸全土から黒竜の存在反応が消失した。補足だがワープを使ったような反応は見受けられなかったと言っておこう』……え?」

「え?」と勇者達は固まった。

「消えたのー?」

「もしかして、ワープ地点が大河エオランテの向こうにあって…元いた場所に帰ったんじゃない?」

「でも竜王がワープ使ってないって言ってるぞ」

「…じゃあ何処に黒竜は消えたのよ」

「死んだんじゃね?」

「貴方に聞いた私が馬鹿だったわ」

****

竜察知のスペシャリストである、頼みの綱の竜王からの黒竜反応消滅報告によって、勇者達の黒竜探しの目的は突然終了した。
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