『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第一章 

33話 憎悪

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その暗闇は、僕がよく知っている影裂界の中の感覚と違った。僕のよく知っている真っ暗な空間は、静かで安心感を抱く所。

それなのに、ここは、とても騒々しい。

数億、それ以上か。誰かの感情の一つだった『–––』が、犇き合って混沌としている。
 
今の僕には、あの黒魔力で出来た不可解な身体も存在しない。

行き場のなかった幾億の感情の本流が、決壊するように僕の精神の深くに雪崩れ込んでくる。赤裸で無防備な状態の僕は、抵抗の仕様がない。

【他種族による負の感情の直接的干渉を確認】

『–––』は全部同じ感情なのに、どれも意味は大きく違っていた。『–––』に至るまでに、どんな過程があったのか、具体的な事は何一つ分からないけど、『–––』に至る気持ちは酷く共感するものばかりだった。



【干渉者による負の感情を共有。変化なし】

[世ーーーにアクセス。現在接続率18.97%]

[世ーーーとの接続率から、高濃度の負の感情を負のエネルギーへと変換可能]

【特殊スキル:黒神術のレベルが上がりました】



『–––』が僕の中に入る事で、暗闇は徐々に晴れて行く。

やがて『–––』は僕の中の、奥底に全部入って馴染んでしまった。嘆き、叫び、苦しみ、狂い、興奮、いろんな形で表れていたけど、もう何も聞こえなかった。

感じるのは、目の前にいるグローファントムの戸惑いの感情のみ。

『–––』の事はよく知っている。誰でも持つ感情の一つで、僕はその感情が自分に向けられる事に恐怖を覚える。

でも、僕自身はよく分からない。
他人が『–––』を抱く理由は分かる。でも僕自身は理解出来ない。意味が分からない。

『–––』は、とても心に負担がある事だ。『–––』が、どれだけ重い事か、僕はよく知っている。『–––』が、凄く悲しい事も。

…でも、本当に分からない。
きっと僕みたいなものが、抱いてはいけない感情なんだと思った。



黒魔力の体の感覚が戻り、目を覚ます。僕を縛る鎖はいつの間にかボロボロになって千切れ欠けていた。だけどまだ辛うじて繋がっている。
ナーシア達が鎖に攻撃をしていたみたいだ。 

グローファントムは完全に僕をターゲットにしていて、ナーシア達の鎖への攻撃も御構い無しで再び魔力でスキルを発動する気配をさせる。

次はなんだ…。というかさっきのは《マインドブレイク》だっのかな。今のところ何ともないし、寧ろ…黒魔力保有量が一気に上がった気がするけど、思い過ごしか?
鎖が赤く妖しい光を放ち、生き物のように畝って黒猫をさらに雁字搦めにする。記憶を弄られるような感覚は初めての体験で、車酔いで酔ったような不快な気持ちになった。

唐突にレッドウルフに追いかけられる記憶が鮮明に蘇る。自分の記憶をそのまま見せられているせいか、迫力があってリアルだ。

あぁ、あの時怖かったなぁ、でも今はこのレッドウルフより強い姿に慣れるし、もう怖くないな。

そう思った瞬間、瞬時に切り替わる。今度はアルラモルモのイテスとジロフ村長さんが出てきた。

あぁ、二人の姿を思い出すだけで癒されるなぁ。
あ、切り替わった。ってうわターディベアだ。

ターディベアをぐちゃっと潰す感覚までもが忠実に記憶から蘇る。嫌がるのを分かってて見せているのか、延々と潰れる様子だけを見せてくる。

あの時の僕、本当によく頑張ったな。こんな気持ち悪いもの律儀に倒しちゃって…。まぁ、今の僕には影裂界でワープが出来るから簡単に避ける事が出来るけど。あ、変わった。

次に出てきたのはあの信じられないほど巨大で怖過ぎる邪神だった。超デカデカのあの目が怖い、今でも怖い。だけど…もう会う事ないかな…ワープの使い方も大分上手くなったから、あの大河で邪神に出会す事もないだろう。そう思ったらすぐ切り替わる。

そうして次々と懐かしい記憶が出て来るが、対処法や自分の中の区切りをつけた瞬間コロコロと変わって行く。

というか、この世界来てから、本当に思い出したくないような辛い記憶なんてないような…。
大変な思いもしてきたけど、ここに来る前の事を思えば––––



…あ、あれ?

ここに来る前って‥なんか辛い事なんてあったっけ…?

まぁ、いいや。そろそろナーシア達との記憶が差し掛かってくるな、と楽しみにしていたが、鎖が緩んでしまって現実に戻される。少し残念。

氷で出来た氷柱が飛来して、僕を縛っていた鎖を断つ。
これは…ゼフィルスさんの氷魔法?

鎖から解放された僕は、地面に向かって落ちて行く。駄目だ、思ったより疲れたみたいで、猫なのに受け身が取れそうにない。
だけど、僕の身体は、誰かの腕にぽすっと受け止められた。身体は動かないから視点だけ動かすと、いつもより強張った表情のビュラさんが見えた。
ビュラさんの暖かい腕の中で優しく包まれ、酷く安心した。すると、猛烈に眠たくなった。
優しく頭を撫でられながら、僕は意識を手放した。


【黒神術:他種族による高濃度の負の感情への干渉が可能になりました】


******



暖かい陽だまりと花の香り。
目を覚ますと、僕はナーシアの膝の上にいた。

「エヴィー!良かった、目を覚ましたのね!」

涙を溜めて、僕をそっと抱き締めるナーシア。
えっと、そうだ。確かグローファントムとか言う魔物に捕まって、気を失ったんだ…ってどうしよう、もしかして普通の猫じゃないってバレたかも!?気を失っていた間に、変なことになってないかな、不安だ。

ナーシアはオロオロと挙動不審になる黒猫を気にせず抱え込んで、そのまま屋敷を走り出す。

「お父様!ビュラ!エヴィーがやっと目を覚ましたの!」

ナーシアが突然部屋に入った場所は、ゼフィルスさんの書斎室。そこにいたビュラさんは驚いた顔で僕を見て、ほっとした微笑みを見せた。

「3日も眠ったままでしたからね。本当に良かったです」

そうか、3日も…ナーシアとビュラさんに心配をかけたんだ。申し訳ないなぁ。
ゼフィルスさんは、「あぁ、ナーシアもこれで本調子に戻ると思ったら、実に喜ばしい」とナーシアの頭を撫でる。だけど、僕の事をジロリと見て「フンッ」と鼻を鳴らした。
う、ゼフィルスさんには相変わらず嫌われているみたい。

でも、良かった。みんな無事そう。それに、変な猫だって追い出される事も無さそうだ。
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