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第二章
54話 亜神との出会い③
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それから数日間、僕は亜神に力の使い方を教わっていた。亜神は黒神術を分子レベルまで操れるそうだ。
僕は本能的に黒神術を操っていたけど、亜神は全て制御して操っているらしい。素直に尊敬した。
「クロは多分スキルで制御みたいだな。まぁ良くわかんねーケド。でもな、細かいとこまで把握出来る様になると面白ぇよ」
そう言って亜神は黒魔力の塊を僕の目の前に浮かばせる。
「クロは種族変化っつースキルを使って一々変化してるけど、こうやって細胞から黒魔力で構築すりゃ…ほら!」
浮遊する黒魔力が変則的にウネウネと色を変えながら動き、目の前に羊と昆虫の足、兎の耳が着いた鳥?が現れた。う…キメラだ。ぐったりとしていて、死んでいるみたいな様子で余計にキモい。
「あはは、ひでぇ顔。まぁ、細胞が死んでるから死体作りと変わんねぇな。生きているものを創りたければ、生きている細胞をそのまま取り込んで、それを題材に錬成すりゃいいよ」
ぶんぶんと首を振る。キメラは作りたくない。
「まぁまぁ、いつか必要になるかもよ」
にへらっと笑い、嬉々として薄気味悪い色の内臓や目玉と言った臓器を作り出す亜神をドン引きした目で見つめる。
「ん?クロもやってみろよー」
いや、いい!とそっぽを向くが、その僕の態度すら亜神はおかしいらしく、ケラケラと笑う。
そういえば彼は僕の事をクロと呼ぶけど、僕が彼を亜神って言うのは距離がある気がする?
一応、良くしてもらってるから名前くらいは呼んだ方が良いかな。そう思いながらチラリと亜神を見ると、何処かにやけた表情の亜神と目が合った。
「へー。俺の名前知りたい?」
べ、別に知りたくなんてないんだからねっ!って急なツンデレで言いたくなったが、やっぱり亜神君は少し怖いので普通に頷く。
「その前に、クロ。お前の本当の名を教えて?そしたら教えてやるよ」
亜神の意図が分からず一瞬きょとんとする。素直に自分の名前を教えようと…口を開く。
だけど、続いて声が発せられる事はない。
「あははーどうした?自分の名前くらい言えるだろ」
嘲笑うように顔が歪む亜神を前に、僕は混乱していた。
自分の名前が出てこない。苗字もだ。
思い出せない。僕の名前…名前…そんな事あり得る?名前を魔女に取られた訳でもあるまいし。
いや、今は、ど忘れしているだけだ。だってこの世界に来てから一度も使ってないし!
大丈夫、きっと思い出す筈。そう落ち着きを取り戻したところで、はっと気付く。
そういえば『お前がなーんも分かんないのは俺のせい!』って亜神が言っていたじゃないか!
僕の名前を思い出させろー!と言いながら猫パンチを亜神に叩き込む。
「おいおい、俺はお前が困ることはしていない筈だぜ?」
名前忘れるのは充分困るよ!
「くくく、俺がお前に小細工出来たのは記憶だけ。(もう一個の方は違うけどな笑)。お前が『消したいって願ったから叶えてやった』だけだぞー?」
な、そんな…僕が名前を忘れたいと望んだ?
「マジ俺って弟想いだよなぁー!逆に感謝されるべきなのによー不満があるならお門違いって奴なんだよね~…て•か!何で自分の名前すら思い出せない?あーれ、あれ変じゃねー?必要な記憶なら思い出せる筈だ」
わ、分からない。あ、あれ?
本格的に混乱してきた。亜神の言葉に揺さぶられながら考えるけど、考えれば考える程自分の中で全く気が付かなかった違和感が見えてくる。
僕の名前、誕生日、歳、外見、…こんなにも思い出せない。そんな事に今更気が付いた。
僕、僕は誰だ?僕は僕自身を忘れたかった?どいういう事?何もかも分からない。
「なぁ…思いだせよー。なぁ。なぁ」
狂気に満ちた瞳をぎらつかせ、亜神が僕の首を緩く締める。視界がガタガタと揺れる。そうか、思い出すのが怖い?一体何が怖いのか分からない。
「あーそういえばさぁ、クロ。元の世界に戻りたいって言ってたよな~?」
愉悦に浸った顔で見下ろす亜神。
「なぁ、本当に帰りたい?」
そうだ、帰りたい…筈だ。
「まじで~?なら思い出せるよなー」
ぐらぐらと思考が揺れる。僕が思い出せる事はなんだ?確かこの世界に来るまでの記憶が元から欠落していた事は知っている。
あ、でも。
僕には一つだけ、忘れていない事がある。それは大切な人との記憶。この記憶があるから、僕は元の世界に帰りたいと思えるんだ。その事を考えると、曇りかかった思考が晴れ渡るような気がした。
「へー」
その途端、亜神が興味を失ったように黒猫を持ち直し、膝の上に乗せた。
「ククク、ま、クロって素直だよなぁ。俺が適当に記憶消したって事疑わないの」
は、え、嘘なのかッ!?冗談なのかそうじゃないのかの違いが分からない。でも僕は今度こそ猫パンチを当てに彼へとスキルを発動した。
****
僕はこのまま亜神のせいで自分の名前すら思い出せないままなのかな。
「安心しろよ、何か一個思い出したら全て思い出せるよーになってるよ?まぁ、いずれ分かるんじゃね…絶対にな」
ふざけた調子の顔が、最後だけ一瞬表情が無くなる亜神。このコロコロした温度差が怖い。掴めない。やはりサイコパス。
「あはは、面白い事考えているだろ」
慌てて目を瞑る。
凄く可笑しそうなのに、瞳だけ何考えているのか分からない。そういうとこ怖い。
そんな亜神が急に真顔で言ったら、本当にそうなる気がしてならない。
きっと全て思い出せる筈だ。
でも、亜神の本名を知る事ができないのは、少しだけ…ほんの少しだけ残念に思った。
不貞腐れてそっぽを向く黒猫を見て、亜神が少し寂しそうに笑った気がした。
***
気ままな亜神さんと数日間過ごした。その間に黒神術の特訓とか言って、生きた魔物をスライムのように直接吸収する方法や、黒魔力を別属性に限りなく変化させる方法、仮想生物(オリジナル)になる方法を教わった。
魔物は影裂界の中で、細胞レベルでバラバラにしたりくっつけたりする事を特訓した。何故そんな残酷な事をしなければ…と思うけど、人間になる為には必要な特訓らしい。
黒魔力は別属性に変化させる事は出来ないが、それぞれの属性の魔法の見た目と効果を黒神術で真似する事によって、近いものが出来るらしい。
亜神は手に黒炎を出していたが、その炎の色を赤に変えた事で完全に炎に見えた。ただそれは見た目騙しで、実際の攻撃属性が変わる訳でなく、あくまでも黒神術の効果になる。
例え神聖魔法を真似して白くしても、神聖魔力に強くなる訳ではない。
特訓して僕は黒魔力の少しの間だけ色を変える事が出来るようになった。それでも物凄く疲労する事から、出来れば色は変えたくないと思う。亜神は虹色や透明化が出来るらしい。流石黒魔力の先輩だ。
亜神は今、青年の人型に変化しているが、幼児になったり女性になったり、僕と同じ黒猫にも変身出来る。僕は見た目の大きさや種族単位でしか変化出来ない。亜神は構成する細胞を変化させて変化しているらしい。
「クロのスキルの手に入れ方って特殊だよな。変化した種族のスキルを使う事が出来るってさ。あれじゃね?人間になりたいんなら、人化スキルを持つ種族に変化すれば手に入るんじゃ?」
亜神の何気なさそうに提案した言葉に顎が外れそうになった。
だ、そ、そそそれだーーーーー!!
なるほど、魔物の中には人化スキルを持つ者がいるんだ…その魔物をスキャンすれば…その魔物に変化して人化して…。ん?つまりつまり、人間に化けられる狸に化けるみたいなもん?なんか、それって結局人間自体にはなれていない…ような…。まぁ、見た目だけ人間になれるなら良いか。そしたら多少人間と仲良くなれるでしょう!!!
ふんふんふんめっちゃ良い事聞いた!と頷いていると、亜神が唐突に立ち上がった。
「あ、お前と似た全然違うの放置してたから、ソイツに会いに行ってみるわ」
僕と似た全然違うの?えと、いってらっしゃい。
「まぁせっかくだからついでに俺を探している奴らに会いに行ってくるわ。くろぉ、次会う時は人化出来てろよー?」
え、無理。そんな短時間で人化なんて出来ないよ。
「あはは、じゃあな」
ちょっと強めの力で頭を撫でた亜神は、その場でシュルッと姿を消した。
すぐに帰ってくると思っていた亜神は、それから僕の前には3年以上現れる事はなかった。
僕は本能的に黒神術を操っていたけど、亜神は全て制御して操っているらしい。素直に尊敬した。
「クロは多分スキルで制御みたいだな。まぁ良くわかんねーケド。でもな、細かいとこまで把握出来る様になると面白ぇよ」
そう言って亜神は黒魔力の塊を僕の目の前に浮かばせる。
「クロは種族変化っつースキルを使って一々変化してるけど、こうやって細胞から黒魔力で構築すりゃ…ほら!」
浮遊する黒魔力が変則的にウネウネと色を変えながら動き、目の前に羊と昆虫の足、兎の耳が着いた鳥?が現れた。う…キメラだ。ぐったりとしていて、死んでいるみたいな様子で余計にキモい。
「あはは、ひでぇ顔。まぁ、細胞が死んでるから死体作りと変わんねぇな。生きているものを創りたければ、生きている細胞をそのまま取り込んで、それを題材に錬成すりゃいいよ」
ぶんぶんと首を振る。キメラは作りたくない。
「まぁまぁ、いつか必要になるかもよ」
にへらっと笑い、嬉々として薄気味悪い色の内臓や目玉と言った臓器を作り出す亜神をドン引きした目で見つめる。
「ん?クロもやってみろよー」
いや、いい!とそっぽを向くが、その僕の態度すら亜神はおかしいらしく、ケラケラと笑う。
そういえば彼は僕の事をクロと呼ぶけど、僕が彼を亜神って言うのは距離がある気がする?
一応、良くしてもらってるから名前くらいは呼んだ方が良いかな。そう思いながらチラリと亜神を見ると、何処かにやけた表情の亜神と目が合った。
「へー。俺の名前知りたい?」
べ、別に知りたくなんてないんだからねっ!って急なツンデレで言いたくなったが、やっぱり亜神君は少し怖いので普通に頷く。
「その前に、クロ。お前の本当の名を教えて?そしたら教えてやるよ」
亜神の意図が分からず一瞬きょとんとする。素直に自分の名前を教えようと…口を開く。
だけど、続いて声が発せられる事はない。
「あははーどうした?自分の名前くらい言えるだろ」
嘲笑うように顔が歪む亜神を前に、僕は混乱していた。
自分の名前が出てこない。苗字もだ。
思い出せない。僕の名前…名前…そんな事あり得る?名前を魔女に取られた訳でもあるまいし。
いや、今は、ど忘れしているだけだ。だってこの世界に来てから一度も使ってないし!
大丈夫、きっと思い出す筈。そう落ち着きを取り戻したところで、はっと気付く。
そういえば『お前がなーんも分かんないのは俺のせい!』って亜神が言っていたじゃないか!
僕の名前を思い出させろー!と言いながら猫パンチを亜神に叩き込む。
「おいおい、俺はお前が困ることはしていない筈だぜ?」
名前忘れるのは充分困るよ!
「くくく、俺がお前に小細工出来たのは記憶だけ。(もう一個の方は違うけどな笑)。お前が『消したいって願ったから叶えてやった』だけだぞー?」
な、そんな…僕が名前を忘れたいと望んだ?
「マジ俺って弟想いだよなぁー!逆に感謝されるべきなのによー不満があるならお門違いって奴なんだよね~…て•か!何で自分の名前すら思い出せない?あーれ、あれ変じゃねー?必要な記憶なら思い出せる筈だ」
わ、分からない。あ、あれ?
本格的に混乱してきた。亜神の言葉に揺さぶられながら考えるけど、考えれば考える程自分の中で全く気が付かなかった違和感が見えてくる。
僕の名前、誕生日、歳、外見、…こんなにも思い出せない。そんな事に今更気が付いた。
僕、僕は誰だ?僕は僕自身を忘れたかった?どいういう事?何もかも分からない。
「なぁ…思いだせよー。なぁ。なぁ」
狂気に満ちた瞳をぎらつかせ、亜神が僕の首を緩く締める。視界がガタガタと揺れる。そうか、思い出すのが怖い?一体何が怖いのか分からない。
「あーそういえばさぁ、クロ。元の世界に戻りたいって言ってたよな~?」
愉悦に浸った顔で見下ろす亜神。
「なぁ、本当に帰りたい?」
そうだ、帰りたい…筈だ。
「まじで~?なら思い出せるよなー」
ぐらぐらと思考が揺れる。僕が思い出せる事はなんだ?確かこの世界に来るまでの記憶が元から欠落していた事は知っている。
あ、でも。
僕には一つだけ、忘れていない事がある。それは大切な人との記憶。この記憶があるから、僕は元の世界に帰りたいと思えるんだ。その事を考えると、曇りかかった思考が晴れ渡るような気がした。
「へー」
その途端、亜神が興味を失ったように黒猫を持ち直し、膝の上に乗せた。
「ククク、ま、クロって素直だよなぁ。俺が適当に記憶消したって事疑わないの」
は、え、嘘なのかッ!?冗談なのかそうじゃないのかの違いが分からない。でも僕は今度こそ猫パンチを当てに彼へとスキルを発動した。
****
僕はこのまま亜神のせいで自分の名前すら思い出せないままなのかな。
「安心しろよ、何か一個思い出したら全て思い出せるよーになってるよ?まぁ、いずれ分かるんじゃね…絶対にな」
ふざけた調子の顔が、最後だけ一瞬表情が無くなる亜神。このコロコロした温度差が怖い。掴めない。やはりサイコパス。
「あはは、面白い事考えているだろ」
慌てて目を瞑る。
凄く可笑しそうなのに、瞳だけ何考えているのか分からない。そういうとこ怖い。
そんな亜神が急に真顔で言ったら、本当にそうなる気がしてならない。
きっと全て思い出せる筈だ。
でも、亜神の本名を知る事ができないのは、少しだけ…ほんの少しだけ残念に思った。
不貞腐れてそっぽを向く黒猫を見て、亜神が少し寂しそうに笑った気がした。
***
気ままな亜神さんと数日間過ごした。その間に黒神術の特訓とか言って、生きた魔物をスライムのように直接吸収する方法や、黒魔力を別属性に限りなく変化させる方法、仮想生物(オリジナル)になる方法を教わった。
魔物は影裂界の中で、細胞レベルでバラバラにしたりくっつけたりする事を特訓した。何故そんな残酷な事をしなければ…と思うけど、人間になる為には必要な特訓らしい。
黒魔力は別属性に変化させる事は出来ないが、それぞれの属性の魔法の見た目と効果を黒神術で真似する事によって、近いものが出来るらしい。
亜神は手に黒炎を出していたが、その炎の色を赤に変えた事で完全に炎に見えた。ただそれは見た目騙しで、実際の攻撃属性が変わる訳でなく、あくまでも黒神術の効果になる。
例え神聖魔法を真似して白くしても、神聖魔力に強くなる訳ではない。
特訓して僕は黒魔力の少しの間だけ色を変える事が出来るようになった。それでも物凄く疲労する事から、出来れば色は変えたくないと思う。亜神は虹色や透明化が出来るらしい。流石黒魔力の先輩だ。
亜神は今、青年の人型に変化しているが、幼児になったり女性になったり、僕と同じ黒猫にも変身出来る。僕は見た目の大きさや種族単位でしか変化出来ない。亜神は構成する細胞を変化させて変化しているらしい。
「クロのスキルの手に入れ方って特殊だよな。変化した種族のスキルを使う事が出来るってさ。あれじゃね?人間になりたいんなら、人化スキルを持つ種族に変化すれば手に入るんじゃ?」
亜神の何気なさそうに提案した言葉に顎が外れそうになった。
だ、そ、そそそれだーーーーー!!
なるほど、魔物の中には人化スキルを持つ者がいるんだ…その魔物をスキャンすれば…その魔物に変化して人化して…。ん?つまりつまり、人間に化けられる狸に化けるみたいなもん?なんか、それって結局人間自体にはなれていない…ような…。まぁ、見た目だけ人間になれるなら良いか。そしたら多少人間と仲良くなれるでしょう!!!
ふんふんふんめっちゃ良い事聞いた!と頷いていると、亜神が唐突に立ち上がった。
「あ、お前と似た全然違うの放置してたから、ソイツに会いに行ってみるわ」
僕と似た全然違うの?えと、いってらっしゃい。
「まぁせっかくだからついでに俺を探している奴らに会いに行ってくるわ。くろぉ、次会う時は人化出来てろよー?」
え、無理。そんな短時間で人化なんて出来ないよ。
「あはは、じゃあな」
ちょっと強めの力で頭を撫でた亜神は、その場でシュルッと姿を消した。
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