『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第二章 

55話 探知対策

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嵐のように去って行った亜神。そういえば彼は神って名前に付くけど、神様な訳ないよね。僕と似た存在って言ってたし、恐らく彼も魔物の類いだろう。

亜神は師匠のようになんでも教えてくれたけど、僕が神様からこの世界ミウスに召喚された理由や元の世界に帰る方法は答えてくれなかった。答えない代わりに、彼は『強くなれ、そしてこの世界にもっと関われ』と言う。

元の世界に帰りたい。その思いは日に日に大きくなっている。この世界では、誰も本当の僕を知らない。忘れたまま、誰にも理解されないまま、一人でこの世界を生き抜くには余りにも孤独だった。

僕が神様に召喚された理由は、ミウスの神様について調べれば何か分かるはず。その使命を果たせば、元の世界に帰れるかもしれない。

この世界には魔法があるし、日本と繋がる魔法を手に入れる事が出来るかもしれない。ここに来れたのだから、戻ることもできる筈だ。

クローゼル家ではそんな魔法が記述された本は見つけられなかったけど、王族が管理する書庫や魔法学園の図書館には一般には出回っていない魔法書があるらしい。

本を読めるようになったし片っ端から情報を今すぐ得たい。人に聞くのが一番手っ取り早く感じるけど、この色と姿では色々と誤解されるし…僕は話す事は出来ないから意思疎通が難しい。かと言って、情報が見つかるかわからない王族の書庫や魔法学校にいきなり潜入するのはリスキーだ。

先ずは…【念話】や【人化】スキル取得優先の旅をしようかな。

亜神の事だから僕の居場所くらいいつでも分かりそう。もうここから出ちゃって大丈夫だよね。
そうして僕は亜神と過ごした静かな森を出る事にした。

***

僕が勇者達に探知されたのは、『アーフィタリア大陸中の全ての配下(竜種)を把握する事が出来る』竜王の存在が勇者の背後にいたらしい。

黒曜竜オルシヴィオンの情報が全て筒抜けだったようだ。黒竜は今変身出来る中で能力的にも一番強い魔物だし、竜王に存在をバレるからって変化出来なくなるのは手痛い。

そんな僕に亜神は探知魔法や追跡魔法を切る方法を教えてくれた。そのお陰で僕は今、黒竜の姿でも悠々と空を飛ぶ事ができている。勿論、騒ぎにならない様に幻影を纏っているから、生き物には僕の姿がカラスに見えている筈だ。

探知、追跡、感知、察知などのスキルや魔法は細かく言えば沢山種類がある。そのどれもが、情報を得たい対象が大まかに決められている。

竜王が僕を探知できたのは、竜王が持つスキルが『竜種だけを特定出来る能力』で、そのスキルが黒曜竜オルシヴィオンを『竜種』と判断したからだ。

亜神との会話を思い出す。

『黒竜に変化しながら、竜種だと判断されなければ良いってコト。簡単だろ?』

『(理屈は確かに簡単だけど、竜に変化してるのにどうやって…)』

『そもそも、クロが特異なんだよ。普通は、種族を易々と変えられる筈がねえの。クロは本来竜種じゃねーから、竜だと認識した竜王のスキルがポンコツってワケ』

『(確かに…まぁ、僕には種族変化っていうスキルがあるから変えられるんだけど)』

『クロは俺と似た存在で、この世界に存在する何よりも異質な存在だ。探知系の能力は殆どは形ある物質や生き物が対象だが本来のお前はそのどれもに当てはまらない、そうだろ?(ニヤッ)』

『(そうなんだ…?)』

『だから、そっくりそのまま《どんなモノ》に化けたとしても、本質は違う事を意識すれば良い。な?つまりフィーリングだーフィーリング』

そこから実践するのが大変だったが、なんとか感覚で掴める様になった。

始めはよく分からずに、表面だけ黒猫で中身が黒魔力だと思えば良いかぁなんて考えたら、見た目は黒猫だけど、黒神術しか使えない唯の黒魔力になった。

『ブッ、ーあはッなんだそりゃ、魔物の赤子の鼻息で消し飛ぶわ』

亜神が言うに本来の僕、黒霧状態の黒魔力は魔力抵抗が無く、明確に自分を意識しないと存在維持すら難しく一番危険な状態らしい。
だから、形ある何かに変化していた方が良いみたいだ。

形ある黒猫、種族としては紛れもない猫で、能力的にも誰の目にも限りなく猫の認識で間違いない。だけど、その本質は黒魔力であり、『人々が探す猫』では決してない。
何度目か、そう意識して変化すると亜神がニカニカと笑って頭を撫でた。

『そーれそれ!それなら猫探知にも引っかからない』

ステータスには黒猫と記載されているけど、確かにその時の感覚は何かが少し違う気がした。


風を受けながら森を見下ろし、人化スキルを持っていそうな魔物を探す。

今の姿は黒竜オルシヴィオン。
僕を一度認識すれば竜だけど、誰かが僕を認識しない限り、僕は誰にも竜だと悟られる事はない。
濃く薄く、空気のように質量が無いようで、底知れない闇のように黒く重みを持つ存在。それが、誰にも認識されない僕自身。

意識すればする程、自分を構成する黒魔力は穏やかに行き渡る。表裏一体のようで差別化しているようで、言葉にするには難しい感覚だった。
この状態だと生命感知にも引っ掛からないらしい。亜神が生命感知に反応しなかった理由が分かった。

ん?

目下に魔物の存在を多く感じて下降する。

濁った緑色の丸の点々…あれはゴブリンだ。ゴブリンは人型…とは言え、ゴブリンに変化しても人間と交渉する事は出来そうにない。ゴブリンは「グギャグギャ」とゴブリン語しか話せないし、人間を特に襲う魔物だから。

ゴブリンに対してさして何も思わず、その真上を通り過ぎようとした時。

「こ…んなとこで終わる訳には…ッごふぁ」

男性の掠れ声が聞こえた。真下?いや右の方か。声の先、ゴブリンの集団が取り囲む方へ飛ぶ。
そこには、死んでいると思われる複数の人間。血だらけでどう見ても満身創痍の男性がたった一人、剣を片手にゴブリンと戦っていた。

きっと他の人間達はゴブリンに殺されてしまったのだろう。彼が長くは持たないのは一目見て明らかだった。

降り立ったと同時にレッドウルフに変化して地面を蹴る。太い鉤爪で、人間に夢中でガラ空きのゴブリンの背中を次々と切り裂く。黒く澱む緑の体液が飛沫となって飛び散り、汗臭や獣臭より強烈な悪臭が鼻をつく。
グチャァとその液体がこびり付いてしまった前足をチラリと見てぶるっと身震いする。最悪だ、臭い、吐きそう。手を出さなきゃ良かった。めちゃめちゃ後悔しながらも、どうせ汚れたんだからクソー!とやっつけ気味にゴブリンを蹴散らし、最後の一匹を屠った。

「グルルルル」

鼻をもぎたくなるほどの臭いに、眉間に皺が寄って唸り声が漏れる。
そうだ、あの人を助けないと。

切り裂かれた腹を片手で抑え、血溜まりを作りながらも木に寄りかかり、辛うじて立ち続けている男。

「ぐふッ」

吐血し真っ青な顔になりながらも、意志の強い瞳で僕を睨みつけていた。

「…クソ、一思いに噛み殺せ」

このままだと僕が噛み殺さなくても、彼は勝手に失血死するだろう。早く血を止めて手当をしないと。
僕が彼に近付いて行くと、彼はふるふると剣を持ち上げる。死ぬ事を諦めていない。すごい胆力だ。
だけど、その剣は彼の手からするっと抜け落ち、続いて彼もぐしゃっと倒れた。

慌てて彼の全身を黒魔力で包み、出血を止める。弱いけど確かに鼓動を打つ脈拍。まだ生きている。
それでも酷い大怪我だ。黒魔力で直接全身を触れているから分かるけど、腕や足が骨折している。特にお腹が酷い。脇腹が溝打ちまで抉れ内臓が損傷している。止血だけでは…もしかしたら彼は助からないかもしれない。それでも彼を介抱する事には変わりない。やれる事をやろう。

巨木に洞窟のような丁度良い窪みを見つけ、黒魔力で包んだまま彼を置く。
血や土埃などの汚れを分離し、菌やウイルスなどを除去して消毒する。

汚れをとった彼の顔は、意外に幼さの面影が残っていた。
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