『闇属性黒猫の異世界救出物語』〜魔物転生!?いや人間になりたい!

藤村ゆんた

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第二章 

57話 神聖魔法

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何かが次々と書き変わっていく感覚。それが止んですぐにステータスを確認した。

【シャドーウルフ】

種族 : 闇影狼
闇属性

スキル : 《空殺鉤爪 》 《火狼の咆哮》《糾牙》《火炎達磨》《影化》《影移動》

特殊スキル : 《種族変化》 《黒神術 》 ◀︎ 《神聖魔法》《念話》
黒神術 :  《形状変化》《創造者》《生体感知》《暗黒魔法》◀︎ 《紫電化》《物質変換》

闇影狼、外見に合った名前になった。うわ、念話!!ついに手に入れた…だけどそれを喜んでいる場合じゃない。それよりも、神聖魔法?神聖属性でもないのにどうして…。

【神聖魔法】【別名:神の加護。治癒魔法と闇を打ち払う魔法などが使える。神聖魔力によって使える魔法。魔力があっても、神聖属性でなければ殆ど使えない。神聖魔法を使える動物は聖獣と言う高位の獣で、神の使いとして人間に崇められている】

神聖属性じゃないと殆ど使えないか…。
それでも一塁の望みを掛けて、ルシオスを前に神聖魔法である治癒を念じてみる。

治れ、治れ、治れ!

腹の底から何かが膨れ上がる感覚、身体が真っ白なオーラに包まれた時。

身体が燃焼し溶けるような痛みに悲鳴が上がる。
この地に残っていた神聖魔力が僕の身体の奥に直接雪崩れ込んでくる。内側から身体が消えていくようだ。

【神聖魔法:《治癒魔法》を獲得しました】

ルシオスの傷口がパッと淡く光った。傷が塞がれていく。治癒魔法が発動した事に喜ぶが、僕の身体は猛烈な速さで浄化されていく。

(ーーーー)

内側から神聖魔力が侵食し、治癒すればするほど黒魔力が消えていく。

消えてしまう、でも彼はまだ回復をしていない。

急速に消失していく黒魔力。影裂界の中にある黒魔力が残り5分の一を切った時、急に治癒魔法が途切れ痛みが止んだ。

あ…、れ…?

ルシオスはまだ完全に傷が癒えていない。後もう少し…と念じるが、何度やっても治癒魔法は発動しなかった。

そうか…。僕がスキルを使えたのは、聖獣の神聖魔力がこの地にまだ残っていたからか。
つまりこの神聖魔法は神聖魔力が周りに満ちていないと使えないスキルなんだ。

ルシオスの状態を確認すると、身体の内部は綺麗に回復していて、後は外傷だけだった。

生きるのに最低限回復が出来たっぽい。
それなら…良かった。

ガクッと身体が崩れ落ちる。種族変化が解けかけて、勝手に黒霧化が始まってしまう。

闇属性の僕が反対属性の神聖魔法を使うのは、やっぱり危険な行為だった。魔物の僕にとっては、自分を犠牲にしなければ発動しないスキルなんだろう。

いつも手足のように操作していた黒魔力が暫く動かせない。とてつもない疲労感と倦怠感。スキルを発動していない分身ですら同じ状態だ。『僕自身』がとても弱っている。

もしこのまま使い続けていたら、今度こそ僕は本当に消滅していたかもしれない。神聖魔力が丁度切れて命拾いしたんだ…と思う。

少し休んだ後、どうにか残りの存在している黒魔力を操作してルシオスを洞窟に連れて帰る。彼の側で寝たら、魔物である僕は怯えられる…若しくは殺されてしまうだろう。彼の側に沢山の食料を置いた後、影裂界の中で休む事にした。


*****


「クソッ!嵌められたのか」

彼、ルシオス・ヴェルグノイドは事の状況に気付き、焦りと怒りがない混ぜになった声で呟く。

アグナイダ戦神国、帝国とも呼ばれるこの国は周辺小国の吸収、又は属国化を進めている。小国メオロフを完全なる属国化へと進行する為、陛下の命によりメオロフへ向かっていたルシオスだったが、行く途中の国へ渡るための唯一の橋に起爆魔法が仕掛けられていた。

それはルシオス達が橋を通った瞬間に起爆し、騎士達と共に崖下の奈落へと転落する。

騎士達の半数程が散り散りになり、無事かどうかも定かではない。防御魔法でなんとか死を免れたルシオスだったが、その右手は負傷し使えなくなっている。だが、動けるだけマシなのだろう。ルシオスは動ける騎士達を集め負傷者の手当を始めた。

崖下の森は強大な魔物の巣窟となっており、メオロフに無事に渡る為には崖と崖を繋ぐ橋しかない。橋は双方に取って交易に必要不可欠なルートだ。橋の向こうには属国化の計画に入っていた小国ロンティアも存在する。橋が無ければ魔物危険区域の森に囲まれたに二つの小国は孤立する。両国にとって重要な橋が人為的に破壊されるなど普通ならばあり得ない事だった。

しかしルシオスを確実に殺すには恰好の場所に違いない。
誰が自分を殺そうとしたのか。恐らく帝国の者だろうと予想をつける。

帝国は今、帝位争いの戦火が激化しつつある。王は自らがそうしてきたように、三年後の建国記念祭までに最も勢力を拡大した王位継承者に王の座を明け渡す考えだった。
ルシオスは王妃の唯一の子であり、本来なら王族の中で最も王位に近い存在なのだが、現在継承順位は拮抗している。寧ろ、王妃の実子故に他派閥から最も命が狙われていた。暗殺など茶飯事だ。

(流石に帝国の足を引っ張るような真似まではしない、と考えていたが。ルートを事前に確認するべきだったな)

負傷者達の血の匂いを嗅ぎつけたのか、魔物の気配が強まる。馬は皆死んでしまった。今は反省に耽っている訳にはいかない。

「剣を出せー!気を抜くなッ」

次々と現れる魔物を片手で切れ伏す。

アイツらの思い通りにならない為にも、生き延びて守らなければ…!

しかし、騎士達は血に飢えた魔物によって、一人、また一人と殺されて行く。際限無く現れる魔物達を前に耐え続けるが、このままだと体力が持たない。非情な判断だが、動けない者を置いて進むしかなかった。

夜になると魔物の動きはさらに活発化する。ルシオスは夜の間は魔力が持つ限り隠蔽魔法を行使し続け、騎士達を休ませる。
極限の中、魔の森の中で半日を過ごしやっと朝を迎えた。その後も森から抜ける為に隠蔽魔法を行使していたが、運が悪い事に魔力が切れた瞬間に集団のゴブリンに見つかってしまう。

「なんで唯の緑鬼如きがこんなに強いんだ!?グワァァ」

崖から転落し、魔の森の夜も共に生き延びた騎士の一人がゴブリンによって呆気なく死ぬ。

ゴブリンは魔物の中で最弱と言われているが、実際には周辺に住む魔物のレベルによってゴブリンの強さは大きく変わる。同じ見た目であれど、この魔の森に巣食うゴブリンは普通のゴブリンとは一戦を画して強かった。

一体一体は倒せても、獲物を狩る蟻のように続々と群がるゴブリンを前に休まる暇など無い。体力の限界を超えた者は死ぬのも早かった。

「殿下ッ生きて下さ…がはッ」

最後までルシオスを護り続けていた騎士だが、ついに自分の限界を悟り倒れる直前に力を振り絞り最後の言葉を投げかける。

そんな言葉を投げかけられたルシオスも、当に限界を超えていた。
例えゴブリンから逃れたとしても、森の外へ脱出するのに何日掛かるのか。進む方角さえ分かっていない。

みすみす罠にかかり橋から転落した時点で、生き延びる方法など無かったのだ。

…幾度の暗殺も乗り越えて来たが、今回は流石に無理そうか。そう悟りながらも、胸を締めるのは絶望ではなく悔しさや心残りだった。

今ルシオスが死ねば、他の派閥によって母である王妃は殺されてしまうだろう。第三王子が王位につけばそれこそルシオスが守りたかった者は皆殺されてしまう。それを止める為に、守る為に帝位争いに臨んだ筈だった。

こんなところで終わる訳には行かないッ!行かないんだ!!

目の前に広がるゴブリンの群れ。どんなに固い意志があったとしても、精神力だけではどうにもならない。体内の魔力はまだ空に近い。

ーーせめて魔力さえあれば…!


しまったと思う間もなく、荒い鉄の錆びた刃が胸に突き立てられ横っ腹から抜けた。痛みを感じる前に察した。どうにもならない致命傷だ。

それでも。自分を守る為に倒れた騎士達に少しでも報いる為に、意地でも生きなければ。
血によって足が泥濘む中、片腕で腹を押さえながら剣をひたすら振るう。

口の中を満たす鉄の味。手足の感覚すら分からなくなっている。

意識がぷつぷつと途切れ始めた時、いつの間にか目の前にわんさかといたゴブリンが消えていた。

いや、消えたのではない。巨大な鉤爪によって弾けるように掻き消されたのだ。

「グルルルル」

地響きのような低い唸り声を聞かなければ、それは唯の巨大な影のように見えた。
漆黒の身体を持つ巨狼。光る青銀色の瞳は、夜の闇に浮かぶ銀鏡月のようだ。

一目見ただけで理解する。この森で会った魔物など比にならない圧倒的な威圧感。この森一体を支配する魔物だろう。

つまりは絶望に絶望が重なっただけだった。

「…クソ、一思いに噛み殺せ」

そう言いながらも、ゆっくりと近づく狼の化け物に向かって剣を向ける。来い、眼玉くらいは奪ってやるッ!

だが、持ち上げた手から剣は抜け落ち、目の前が暗くなる。血を流し過ぎたのだ。17年間足掻き続けたが、最後は滑稽な死に様だと自嘲する。己の無念さで怒りすら湧いた。

意識が無くなる寸前に、母上と弟の顔が思い浮かぶ。
まだ、終わる訳には行かない。



俺はまだ…、死ねない、!



護らな…いと



クソ…ッ






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