君たちの時代にいたい

たかゆき宗也

文字の大きさ
8 / 19
第1章 出会い

第7話:護衛任務

しおりを挟む
「じゃあ、改めまして。私は第13小隊伍長、リラ」

 前線の話なんて聞いても湿っぽくなっちゃうと思うから、先月の少し変わった任務について話そうかな。




 



 <4月11日>

 「ん~! 空気が美味しいー! やっぱり水が綺麗な街は空気も綺麗なのかなぁ~!」

 時刻は午後17時。
 何時もなら前戦でヘルツカイナ軍と睨めっこをしている頃だろうか。
 
 しかし本日はアメッサ少佐からの命令で個別任務に当たっている。
 
 任務内容としてはとある政治家の護衛。
 どうやらここ数日屋敷付近を不審な人物が彷徨うろついているらしい。
 
 そして今日はその政治家の誕生日。
 還暦ということでどうしてもパーティが開きたいとの事だった。

 
 護衛任務の為に私は小隊から離れ、列車に揺られ、ここ水の都[ヴァッサ]という街に訪れていた。


「リラ様、お待ちしておりました。ミュラー家に仕えるメイドのアンナと申します。それでは、お屋敷まで馬車でご案内致します!」
 
「よろしくお願いします!」

 列車から出た私に声をかけてきたのは、アンナと名乗る物腰柔らかそうな同年代の女性だった。


 
 初めて乗る馬車というものは思ったより揺れが酷く、振動が直接伝わってきて正直尻が痛い…。
 
 これでも道は数年前に比べて整備されて来たんですよ。
 とアンナさんが微笑む。


 血と土砂物でぬかるんだ大地、鉄条網と遮蔽物ばかりで「全員通っても安全な道」なんて存在しない戦場と比べたら商人へ値切る声が聞こえてくるこの街の平穏さは身に染みる。
 

「私ヴァッサに来るのが今日初めてなんです。凄く綺麗な街ですね!」
「あら、そうでしたか! でしたら本日のお夜食はヴァッサのチーズを使用したパンをご用意しますね!」
「良いんですか! ありがとうございます!」

 
 アンナさんとの会話は弾み、お屋敷に着くと
護衛対象、アルバン・ミュラーさんが出迎えてくれた。

 
「初めまして、私はアルバン。今日はよろしく頼むよ」
「ルミエール国軍第13小隊伍長リラと申します!」
「君がリラ君だね。今夜のパーティまでは時間がある。アンナ、お客様をもてなしてやってくれ」
 
「承知しましたアルバン様」

 アンナはくるりとこちらを向き1つの提案をした。
 
「ところでリラ様。本日のパーティ、お召し物はそちらの衣装で参加なされますか?その……本日のパーティはドレスコードがありまして、リラ様が良ければこちらでお召し物をご用意してもよろしいでしょうか」
 
「えっ! 良いんですか!? よろしくお願いします! 出来れば咄嗟の時に動けるようなドレスとか、あったりしますか?」
 
「えぇ! アルバン様のお嬢様が幼い頃はそれはもう活発なお嬢様で……。お嬢様はもう家を出ておりますし、必要のないドレスが家に残っていますので汚れても気になさらないで下さい!」


 屋敷の一部屋を貸して貰いアンナさんを待つ。

「リラ様! お待たせ致しました……!」
 
 アンナさんが持ってきてくれたワンピース丈のドレス。
 紫色の生地に黄色のリボンが着いたとても可愛いらしいデザインだった。
 
 有事の際にはこれが汚れると思うと、着るのに気が引けてしまうが身にまとっている衣装のせいで不審者にバレてしまうのは避けたい。

「ドレスはこちらに掛けておきますね。パーティの1時間前には着付けの者が部屋を訪れます。また、何かご用がございましたらそちらのベルでお呼びください」
 
「ありがとうございます!!」

 失礼しますと言ってアンナさんは部屋から出て行った。

 
 さて、着付けの時間まで少しある。
 部屋で時間を潰すのは些か勿体無い気もするけど、任務以外で不用意に出歩いても迷惑だろう。

「今頃小隊の皆はお夕飯でも食べてるのかなぁ、」

 私は1903年の12月にテクネという島で生まれ育った。
 
 歴史の授業で習った事が正しいものなら東国ルミエール西国ヘルツカイナは元々1つの国で、思想の違いから反発し二大勢力となりやがて2つの国家となった。

 私が軍人を志したのは家族を守りたかったからだ。

 家族や友人に不幸な目にあって欲しく無い。
 東国ルミエールを守りたいって気持ちも持ってはいるがこれが何よりの原動力だ。



 物思いにふけているとドアがノックされた。
 いつの間にか1時間前になっていたようで、外も暗くなっていた。
 
「失礼します。リラ様お時間になりましたので着付けに参りました。部屋に入ってもよろしいでしょうか」
「はい! お願いします!」

 入ってきたメイドさんは凛とした人であれよあれよと私を着替えさせて行った。
 
 メイクやヘアセット、何から何まで完璧にこなしていくメイドさんはプロの腕前だった。

「何処か気になる所はございますでしょうか」
「いえ! 動きやすいし大丈夫です! ありがとうございます!」
「それでは失礼します」

 今からパーティ終了までの間護衛に当たることになる。
 
 当然いつも使っている剣は持ち込むことが出来ないので、その場で対応する事になるだろう。


 
 

「……よし! 頑張るぞ――」


 

 突如バリンと窓ガラスが割れる音と共に1つの影が部屋に侵入してきた。
 
 慌てて体制を整える。
 
「誰だ……!」
「……」

 よく見るとその侵入者は若い女。
 服装や髪の毛まで黒一色の彼女は短剣を手に持っていた。
 
 どう見てもパーティの参加者ではなさそうだ。

 
 
「……ここは確か空き部屋だと聞いていたが、目撃者を発見、コードネーム[ゼロ]直ちに処理にかかります」

 
 自らをゼロと名乗った彼女は一気に距離を詰めてきた。

 
「____抜刀!」
 

 鞘から抜いた一撃は横に流されてしまった。
 
 相手は短剣、こちらは打刀。室内戦では分が悪い、隙を見て外へ誘導したい。
 

「君は西国ヘルツカイナの暗殺者かな。帰って報告しないとだね」
 

 私は割れた窓から外へ飛び降りた。
 ここは2階、しっかりと着地すれば怪我はしないだろう。

 
「……よし」

 
 問題なく着地する事が出来た。
 
 ゼロは……躊躇なく飛び降りてきている。
 着地するなり前傾姿勢のまま突進してきた。

「……!」
「わぁ!」

 
 刃は足を掠めた。
 
 機動力を削ごうとしたのか。
 西国ヘルツカイナ出身ではあっても軍人では無いのだろう。
 戦場での戦い方ではない。
 
「貴様、名はなんという」

「ルミエール国軍第13小隊所属リラ」

 
 そう名乗った時ゼロの元にカラスが飛んできた。
 伝書鴉だ。
 
 ゼロは距離を取りつつ数センチある紙を確認し、飲み込んだ。

「リラか。残念だが私は貴様や対象を殺す事より重要な任務が下された。続きはまたいつか」
 
「はぁ!? あっちょっと!」
 

 人の静止を聞かずゼロは塀の上に飛び移っていた。

 
「詫びと言っては何だが、貴様に手向ける薔薇はこの年一番の出来のものにすると約束しよう」
 
 そう言ってゼロは闇夜に消えてしまった。
 私の任務は対象の護衛。
 追いかけることは任務放棄だろう。

「薔薇って、献花にしては豪勢だな……」


 

 その後パーティは滞りなく終了した。
 その後アルバンさん達に侵入者の事を報告し、その日の夜も警護にあたった。

 
 

 次の日の朝、私はメイドさん達にお見送りされながら屋敷を後にし、馬車で駅まで送って貰った。

「リラ様、昨日は本当にありがとうございました。再度お礼申し上げます」
「いえいえ! 仕事ですので。それに、侵入者を逃がしてしまいましたし」
 
「えぇ……旦那様も新しくボディガードや門番を雇ったそうなのでセキュリティは大丈夫かと。ご心配ありがとうございます……!」

 ふとアンナは何かを思い出した顔で、鞄から紙袋を取り出した。
 
 紙袋の中から僅かにチーズの匂いがする。
 昨日馬車の中で話していたチーズパンだろうか。

 「リラ様、宜しければこちらどうぞ! 昨日お夜食を渡す事が出来ないままでしたので」
「良いんですか! ありがとうございます!」

 アンナさんは深々とお辞儀をし、窓から姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
 

 
 列車に揺られながら食べたパンはチーズが固まっていたが、それでも凄く、美味しかった。
 
 ヴァッサはこの国で一番水が綺麗なおかげで食べ物が美味しい。
 それに人柄も穏やかな人が多く彩のある街だ。
 休暇が入ったら観光に来よう。


 

 ルミエール国軍の本基地に着いた私は司令部に向かった。
 報告書をアメッサに提出する為だ。
 
「失礼します。アメッサ少佐、ルミエール国軍第13小隊伍長リラ、只今帰任しました」
「おかえりリラ、報告を頼む」

「はっ! 4月11日17時ヴァッサへ到着。その後20時より開会」

「同時刻ゼロと名乗る不審な女性と衝突、武器の型や発言からして西国ヘルツカイナの刺客と断定。10数分に及ぶ交戦の後逃亡」

「身体的特徴等は別紙に記載しています。護衛対象への危害は無し。その後問題はありませんでした。報告は以上です」

 アメッサ少佐へ別紙の資料を渡し、報告を完了する。
 
「ご苦労。報告書もしっかりと受け取った。ありがとう、下がってくれ。」
「失礼します」

 
 司令室から出てすぐ、緊張の糸が切れたのか安堵のため息が漏れた。
 
「……西国ヘルツカイナの暗殺者か」





 

 話が終わり、最後のサンドイッチを食べ手を拭くリラ。

西国ヘルツカイナから東国ルミエールに潜入して暗躍している人は一定数いる。国内の治安維持、護衛もルミエール国軍の仕事の1つなんだ」
 
「色々あるんですね!! ヴァッサのチーズかぁ~、食べたいなぁ」

 アンジェは食べ物に目がないようだった。

「機会があったらお土産を買ってくるよ」


 
東国ルミエール西国ヘルツカイナの歴史の話もあったな。……なら次は私が話そう」

 アメッサはそう言いスコーンを皿に移した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...