君たちの時代にいたい

たかゆき宗也

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第3章 ヴァッサ攻防戦

第13話:応急処置

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「ほら立って」

 セキ上等衛生兵に手を差し出され、立ち上がる。

「1つ先の塹壕で一旦皆の様子確認するからさ。行くよ」

「はい……」

 やや放心状態のまま、セキ上等衛生兵の後を追って走りました。

「怪我してる人はこっち来てー」

 塹壕に入るとセキ上等衛生兵の声掛けで周りに数人の隊員が集まっていきました。

「お疲れ様。怪我は無い?」
「ソルジアさん……!」

「ソルジアさんは大丈夫ですか?」
「えぇ、無事よ」
「良かった……」

 突然ソルジア上等兵に抱きしめられました。

「ソルジアさん……?!」
「ごめんなさいね。子供がこんな場所にいるような社会で……」

 ソルジア上等兵は背中をゆっくり叩きました。
 
「いえ……私は志願して来たので」
「全部含めてよ。戦争なんて起きなければ…………」

 ソルジア上等兵の表情は凄く悲しそうでした。
 
「ソルジアさん、私のお母さんと同じ事言うんですね」
「ふふ、これでも一児の母なのよ?」
「そうなんですね……どうりで」

「ソルジア上等兵。ガーラン大尉が呼んでました!」
「あら、クラム。分かったわ」

 深緑髪の男の子に呼ばれ。
 ソルジア上等兵はガーラン大尉の元に走っていきました。

「すみませんお話の途中に……」
「いえいえ!ガーラン大尉の呼び出しですから!」

 深緑髪の男の子は申し訳なさそうに言いました。

「自分はクラムと言います。一等兵です」
「アンジェ二等衛生兵です」

「今年配属の衛生兵さんですね。自分もまだまだ新人ですが、何かあったら…………」
「おいクラム。無駄口叩いてないで、用が済んだならさっさと戻って来い」

 クラム一等兵の言葉を遮りアルヴァ一等兵が割り込んできました。
 
「アルヴァ……君はもう少し同期や部下への物言いを考えるべきじゃない?」

 クラム一等兵は少し怒った顔をしていました。
 
「俺は暴言なんて一度も吐いてないが」
「本っ当、ただでさえ第4中隊はデリカシーの無い男が多いんだから」
「俺をガーラン大尉やセキ上等衛生兵と一緒にすんな」
「はいはい」

 クラム一等兵とアルヴァ一等兵は、上官に聞かれたらこっぴどく怒られそうな事を言いながら去っていきました。

 暫くするとソルジア上等兵が帰ってきました。

「ガーラン大尉ってばちょっとした世間話だったわ。途中、副中隊長と揉めだしたから逃げて来ちゃった」
「えぇ、大丈夫なんですか!?」
「何時もの事だから良いのよ」

 副中隊長、私は遠目でしか見た事なかったのですが、ガーラン大尉と仲が良くないのでしょうか。
 
「それとアンジェちゃん。今日はもう後方に行っていいみたいよ」
「分かりました!」
「気をつけてね。また明日」
「はい!」

 ソルジア上等兵と別れ後方へ向かいます。
 
 ソルジア上等兵は優しい人……。
 きっと、戦場での心の拠り所を探していたのだと思います。
 自分が都合の良い存在だったとしても……。
 それでも、抱きしめられたのは温かくて好きでした。
 
 ふと今日の、亡くなった隊員の顔がチラつく。
 
 私はこの先ずっと、生きている隊員と亡くなっている隊員を確認していくことになるんですね。

「……ぃやだなぁ…………」

 重たい感覚が込み上げて来ました。

 頭を左右に振って。
 
 考える事を辞めました。

 拠点に着いたらすぐ寝よう。
 
 その宣言通り、私は拠点に着くと真っ直ぐ女性用テントに向かい眠りに着きました。
 
 



「おはようございます!」
「おはよう。……よし全員健康だな」

 ガーラン大尉が明るい笑顔で出迎えてくれました。

「皆、今日も頑張ろな」
「今日も昨日と同じですか?」
「んや、多分敵さんが昨日の分を取り返そうとやってくるんやないかなぁ」

 ガーラン大尉は顎に手を当て考えるふりをしました。
 
「ガーラン!!」

 副中隊長がガーラン大尉を呼ぶ声が響きました。
 
「ほら、来なさった」

 ガーラン大尉は笑顔でそう言い。
 塹壕から銃を構えました。
 敵兵が突撃して来ているようです。

「アンジェちゃん。こっち来てー」
「は、はい!」

 セキ上等衛生兵に呼ばれ塹壕の奥に移動しました。

「今戻る訳にも行かないから、落ち着くまで待機ね」
「分かりました!」

「敵さん大人しくなって来たわ。そろそろ俺らも突撃すんで」
『はいっ!』

 交戦から暫く経つとガーラン大尉が突撃の合図を出しました。

 突撃の笛がなり一斉に飛び出した瞬間クラム一等兵がその場に倒れました。
 
「ぐあ、がっ……」
「クラムさん!」

 第4中隊の他の隊員はクラム一等兵に目もくれず。
 前の塹壕に攻めて行きました。
 
 セキ上等衛生兵と慌てて塹壕の前方に走ります。
 
「クラム引っ張るよ。ど……っこいしょ!」

 セキ上等衛生兵は慣れた手つきでクラム一等兵を塹壕の中に降ろし。
 素早く怪我の状態を確認していました。
 
「すみません……突撃合図出たばっかだってのに、」

 クラム一等兵は意識があるようでした。
 
「いいよ、敵だって命懸けだ。それにもう、1度や2度じゃないだろ」
「はは、間違いないです」
「弾は……埋まってるね。アンジェ消毒液とピンセット、包帯と止血剤用意して」
「はい!!」

「クラム水、飲める?」
「……用意できました!」
「ありがとう。それじゃ痛いから歯食いしばってね」

 セキ上等衛生兵はクラム一等兵に応急処置をしていきました。

「一先ずこれで大丈夫かな。一人で野戦病院行ってもいいけど、無理そうなら此処で待機してて」
「分かりました、ありがとうございます」

 セキ上等衛生兵は立ち上がり。
 前線の様子を観察し始めました。
 
「アンジェ、一応少しの間見ててあげて。後、撤退命令が出たら――」

 セキ上等衛生兵は一瞬クラム一等兵の方を見ました。

「クラムは置いていくこと」

 セキ上等衛生兵は言い終わると直ぐに走り出していました。

「え……置いて?」

 余りにもスムーズに見捨てろと言われ、体が固まりました。
 
「大丈夫だよ。置いて行くって言っても僕だって動けないわけじゃない」

 クラム一等兵が安心させるように、身体を起こしました。

「僕に手を貸して2人共死ぬより、衛生兵なんだからしっかり逃げて」
「は、はい」

 クラム一等兵はふぅとため息を付き、土の壁に寄りかかりました。

「セキ上等衛生兵達はよく言うけどさ。こんな状況に、慣れる訳無いよね」
「……はい、」
「志願したって、怖いもんは怖いし。痛いもんは痛い」

 クラム一等兵は手を開いたり閉じたりしながら話を続けました。
 
「その点アルヴァは凄いよ、同期の中で1番動けてて」
「そうなんですか?」

 アルヴァ一等兵はクラム一等兵よりやや小柄な人でした。
 なのでてっきりクラム一等兵の方が動けるものだと思っていました。
 
「うん。昔はあんな性格じゃなかったんだけどね」

 クラム一等兵は笑顔で言いました。
 
「あ、だからと言って今のあいつを許さなくていいからね。あいつは戦地だからって馴染もうとし過ぎてる」
「そうですね」
「僕たちを律するのは軍規と中隊長で良いんだから……っとそろそろ動いても平気かな」

 クラム一等兵はそう言い立ち上がりました。
 
「目眩とかありませんか?」
「うん。大丈夫そう。1人で野戦病院まで行けるよ」
「お気をつけて」
「アンジェ二等衛生兵もね」
「はい!」

 クラム一等兵は後方に駆け足で向かって行きました。
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