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第3章 ヴァッサ攻防戦
第12話:レーション
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「アンジェ二等兵衛生兵。只今着任しました!」
「おはようアンジェ。毎朝ここまで来るの大変でしょう」
拠点に着くと、ソルジア上等兵が出迎えてくれました。
休日明けの出勤ということもありましたが。
毎日の出勤、退勤時に私は後方から前線まで往復しています。
「いえ! マサ軍医に就寝時は後方まで戻るよう言われているので!」
うんうんとソルジア上等兵は頷き。
その後、手を頬に置きため息をつきました。
「それに比べて、セキ上等衛生兵ときたら、これ以上歩きたくないって毎晩男子テントで寝泊まりしているのよ。アンジェを見習って欲しいわね」
「何何、俺の話ー?」
ソルジア上等兵と話していると、そこに黒髪の男性が割り込んで来ました。
「貴方以外ないでしょう」
黒髪の男性はソルジア上等兵に何かを渡すと、こちらに目を向けました。
「アンジェちゃんだっけ? 個別で挨拶出来てなくてごめんねー」
「はいっ! アンジェ二等衛生兵です!」
「俺はセキ。上等衛生兵でアンジェちゃんの先輩だねー」
「よろしくお願いします!」
「後、はい。アンジェちゃんの分」
「ありがとうございます!」
セキ上等衛生兵から手渡されたのは缶詰とお菓子の様な袋。
「食料ですか?」
「もしかしてレーション食べるの初めて?」
「はいっ野戦病院に居た時はキッチンがあったので!」
「そっかそっかー。よく噛んで食べるんだよ」
そう言い残しセキ上等衛生兵は去っていきました。
ソルジア上等兵と会話をしながら初めてレーションを食べる事になりました。
「こ、このチョコ、めっ、ちゃ固いですね……!」
分厚いチョコレートは石のように固く、とても歯が立ちませんでした。
「ほら、こっちのビスケットとか食べてごらん」
「ん……これは、喉が乾きますけど、食べれますね」
ソルジア上等兵から渡されたビスケットは、甘い訳でも塩気がある訳でもなく。
口の中の水分を奪っていくだけでした。
「夜は後方の拠点でお夕飯が食べられるから、これより美味しいと思うよ」
「楽しみです!!」
全力で頷きました。
「あっ、そうだアンジェちゃん。もし塹壕内でレーションが置いてあっても持ち帰ったり、食べちゃ駄目だからね」
「そうなんですか?」
少しでも食料の足しになりそうですけど。
仕事中にそんな呑気なこと出来ませんが……。
「チョコレートとか袋の中とかに爆弾が入ってたりするの。食べた瞬間どかんってね」
「うわ、あぁ……」
思ったより酷い内容でした。
「だからきちんと配給された分はしっかり食べてお腹が空かないようにするんだよ」
「は、はい!」
脅し文句を聞き、レーションをどうにか完食しました。
「第4中隊!集合!!」
ガーラン大尉の声を聞き私達は荷物を持ち慌ててテント前に整列しました。
「只今から第4中隊は最前線に向かう! しっかりと着いてくるように!」
『はっ!』
第1防衛ラインまで、途中小休憩を挟みながら進みます。
衛生兵は小休憩の間各隊員の体調チェック等をするので、殆ど休みがありません。
「前線に出たらゆっくり教えてあげられないから、攻防戦での動きを少し教えておくね」
小休憩の途中、セキ上等衛生兵が前線での動きを教えてくれました。
「俺達は隊の1個後ろの塹壕で待機。交戦が始まって1つ先の塹壕に進んだら俺達も進むよ」
セキ上等衛生兵は人差し指をくるくるしながら話しました。
「進んでいくうちに塹壕内に負傷兵がいたら治療をするって感じかな」
「分かりました!」
「撤退命令が出たら全力で後ろの塹壕まで走っていくこと」
「はい!」
「じゃ、頑張っていきましょー」
ぱっと手を広げセキ上等衛生兵は隊列に戻っていきました。
塹壕に着くとガーラン大尉が私とセキ上等衛生兵に集合をかけました。
「それじゃあ、お前らとはここでお別れだな」
「分かりました……!」
「頑張って下さいねー中隊長」
「おう」
ガーラン大尉の合図で第4中隊は一斉に塹壕から飛び出して行きました。
「うんうん……お、少しずつ次の塹壕に向かい始めたね」
セキ上等衛生兵がじっと目を凝らし、観察していました。
「アンジェちゃん。そろそろ俺達も移動するよー」
「はい……!!」
セキ上等衛生兵が塹壕から飛び出し走り出す。
私も意を決して飛び出しました。
次の塹壕まで距離は離れていない筈なのに、凄く遠く感じます。
「……着いた、負傷兵は……?」
塹壕に飛び込み顔を上げる。
「あ…………」
今の東国軍は攻めている状態です。
前線が進めばそこには敵の死体があります。
当たり前の事でした。
それでも、余りにも多い。
特に銃を打つために足場がある様な場所には数え切れないくらいの死体がありました。
「重症の人は居ないみたいだねー。もう少し前の様子を見てから進もう」
セキ上等衛生兵が左右を確認しながら近ずいて来ました
一足先に塹壕に辿り着き、塹壕内を確認してくれたようです。
「うーん、2つ先の塹壕内に入ってはいるみたいだけど……ちょっと距離が近いなぁー」
「もう少し待ちますか?」
交戦しているのは随分先だと言うのに、稀にヒュンッと敵弾が頭上を通り過ぎる音が聞こえます。
「いや、行こう。道中倒れてる人も居るし……アンジェは先に塹壕内の確認お願い」
「この中を走るんですか……!?」
セキ上等衛生兵は視線だけをこちらに向け。
目を閉じ。
再度目を開けた時には、じっと前線を見つめていました。
「1番怖いのは突撃してる味方だからねー。この待遇も優しいもんなんだから」
「死んじゃいますよ!」
「そうだね。俺達も下手したら死んじゃうね」
セキ上等衛生兵の顔は戦場に居るとは思えないほど。
さっぱりとした笑顔でした。
「それでも君も人を助けたいんだろう?…………さっきよりは落ち着いたかな……。自分の命だから自分のタイミングで来なね」
そう言い残し、セキ上等衛生兵は走って行きました。
「私は…………」
私が衛生兵になったのは、それが大切なシユとの約束だったから。
シユの言葉を信じ続けて。
やっと志願出来たのに。
私が一番助けたいのはシユなのに?
私を狙ってない弾で死ぬかもしれないの?
遠くで銃声や爆発音が微かに響いていた。
塹壕から飛び出し目の前の塹壕目掛けて走り出す。
負傷兵の様子を見るセキ上等衛生兵や、死体に目もくれずに全力で走った。
絶対、絶対この戦争を生き残る。
生きてシユに会う。
衛生兵だって辞めない。
私がシユを助けるんだ。
勢いのまま塹壕に飛び込む。
「……衛生兵、です……負傷兵、は…………」
肩で息をしながら辺りを見渡す。
壁に寄りかかって居る味方の兵士が目に着きました。
胸の辺りが血で濡れ、今すぐに治療をしなければ死んでしまうかもしれません。
「あの、大丈夫ですか…………!!」
返事は無かった。
脈を測る為。
負傷兵の前に座り込む。
「失礼します……!」
首に手を当てようと顔を少し上げると。
その負傷兵の顔は、半壊していました。
「ゔぅあ゙……っ!?」
思わずその場で尻もちを着く。
顔に被弾していたらしく。
脈を測るまでもありませんでした。
「よっと、あれアンジェちゃんどうしたの?」
呆然としている中。
セキ上等衛生兵が塹壕に飛び込んで来ました。
座り込む私の前には既に亡くなった隊員。
セキ上等衛生兵は察したのでしょう。
「あー……見分けるの難しいよね。瀕死なだけかもしれないしさ」
セキ上等衛生兵は顔色一つ変えずに言いました。
「……ねぇ、本当に大丈夫?」
「……………………は、い」
どうして衛生兵の現実はシユの言ったことを全て破り捨てていくんだろう。
これじゃまるでシユが嘘つきみたい。
「おはようアンジェ。毎朝ここまで来るの大変でしょう」
拠点に着くと、ソルジア上等兵が出迎えてくれました。
休日明けの出勤ということもありましたが。
毎日の出勤、退勤時に私は後方から前線まで往復しています。
「いえ! マサ軍医に就寝時は後方まで戻るよう言われているので!」
うんうんとソルジア上等兵は頷き。
その後、手を頬に置きため息をつきました。
「それに比べて、セキ上等衛生兵ときたら、これ以上歩きたくないって毎晩男子テントで寝泊まりしているのよ。アンジェを見習って欲しいわね」
「何何、俺の話ー?」
ソルジア上等兵と話していると、そこに黒髪の男性が割り込んで来ました。
「貴方以外ないでしょう」
黒髪の男性はソルジア上等兵に何かを渡すと、こちらに目を向けました。
「アンジェちゃんだっけ? 個別で挨拶出来てなくてごめんねー」
「はいっ! アンジェ二等衛生兵です!」
「俺はセキ。上等衛生兵でアンジェちゃんの先輩だねー」
「よろしくお願いします!」
「後、はい。アンジェちゃんの分」
「ありがとうございます!」
セキ上等衛生兵から手渡されたのは缶詰とお菓子の様な袋。
「食料ですか?」
「もしかしてレーション食べるの初めて?」
「はいっ野戦病院に居た時はキッチンがあったので!」
「そっかそっかー。よく噛んで食べるんだよ」
そう言い残しセキ上等衛生兵は去っていきました。
ソルジア上等兵と会話をしながら初めてレーションを食べる事になりました。
「こ、このチョコ、めっ、ちゃ固いですね……!」
分厚いチョコレートは石のように固く、とても歯が立ちませんでした。
「ほら、こっちのビスケットとか食べてごらん」
「ん……これは、喉が乾きますけど、食べれますね」
ソルジア上等兵から渡されたビスケットは、甘い訳でも塩気がある訳でもなく。
口の中の水分を奪っていくだけでした。
「夜は後方の拠点でお夕飯が食べられるから、これより美味しいと思うよ」
「楽しみです!!」
全力で頷きました。
「あっ、そうだアンジェちゃん。もし塹壕内でレーションが置いてあっても持ち帰ったり、食べちゃ駄目だからね」
「そうなんですか?」
少しでも食料の足しになりそうですけど。
仕事中にそんな呑気なこと出来ませんが……。
「チョコレートとか袋の中とかに爆弾が入ってたりするの。食べた瞬間どかんってね」
「うわ、あぁ……」
思ったより酷い内容でした。
「だからきちんと配給された分はしっかり食べてお腹が空かないようにするんだよ」
「は、はい!」
脅し文句を聞き、レーションをどうにか完食しました。
「第4中隊!集合!!」
ガーラン大尉の声を聞き私達は荷物を持ち慌ててテント前に整列しました。
「只今から第4中隊は最前線に向かう! しっかりと着いてくるように!」
『はっ!』
第1防衛ラインまで、途中小休憩を挟みながら進みます。
衛生兵は小休憩の間各隊員の体調チェック等をするので、殆ど休みがありません。
「前線に出たらゆっくり教えてあげられないから、攻防戦での動きを少し教えておくね」
小休憩の途中、セキ上等衛生兵が前線での動きを教えてくれました。
「俺達は隊の1個後ろの塹壕で待機。交戦が始まって1つ先の塹壕に進んだら俺達も進むよ」
セキ上等衛生兵は人差し指をくるくるしながら話しました。
「進んでいくうちに塹壕内に負傷兵がいたら治療をするって感じかな」
「分かりました!」
「撤退命令が出たら全力で後ろの塹壕まで走っていくこと」
「はい!」
「じゃ、頑張っていきましょー」
ぱっと手を広げセキ上等衛生兵は隊列に戻っていきました。
塹壕に着くとガーラン大尉が私とセキ上等衛生兵に集合をかけました。
「それじゃあ、お前らとはここでお別れだな」
「分かりました……!」
「頑張って下さいねー中隊長」
「おう」
ガーラン大尉の合図で第4中隊は一斉に塹壕から飛び出して行きました。
「うんうん……お、少しずつ次の塹壕に向かい始めたね」
セキ上等衛生兵がじっと目を凝らし、観察していました。
「アンジェちゃん。そろそろ俺達も移動するよー」
「はい……!!」
セキ上等衛生兵が塹壕から飛び出し走り出す。
私も意を決して飛び出しました。
次の塹壕まで距離は離れていない筈なのに、凄く遠く感じます。
「……着いた、負傷兵は……?」
塹壕に飛び込み顔を上げる。
「あ…………」
今の東国軍は攻めている状態です。
前線が進めばそこには敵の死体があります。
当たり前の事でした。
それでも、余りにも多い。
特に銃を打つために足場がある様な場所には数え切れないくらいの死体がありました。
「重症の人は居ないみたいだねー。もう少し前の様子を見てから進もう」
セキ上等衛生兵が左右を確認しながら近ずいて来ました
一足先に塹壕に辿り着き、塹壕内を確認してくれたようです。
「うーん、2つ先の塹壕内に入ってはいるみたいだけど……ちょっと距離が近いなぁー」
「もう少し待ちますか?」
交戦しているのは随分先だと言うのに、稀にヒュンッと敵弾が頭上を通り過ぎる音が聞こえます。
「いや、行こう。道中倒れてる人も居るし……アンジェは先に塹壕内の確認お願い」
「この中を走るんですか……!?」
セキ上等衛生兵は視線だけをこちらに向け。
目を閉じ。
再度目を開けた時には、じっと前線を見つめていました。
「1番怖いのは突撃してる味方だからねー。この待遇も優しいもんなんだから」
「死んじゃいますよ!」
「そうだね。俺達も下手したら死んじゃうね」
セキ上等衛生兵の顔は戦場に居るとは思えないほど。
さっぱりとした笑顔でした。
「それでも君も人を助けたいんだろう?…………さっきよりは落ち着いたかな……。自分の命だから自分のタイミングで来なね」
そう言い残し、セキ上等衛生兵は走って行きました。
「私は…………」
私が衛生兵になったのは、それが大切なシユとの約束だったから。
シユの言葉を信じ続けて。
やっと志願出来たのに。
私が一番助けたいのはシユなのに?
私を狙ってない弾で死ぬかもしれないの?
遠くで銃声や爆発音が微かに響いていた。
塹壕から飛び出し目の前の塹壕目掛けて走り出す。
負傷兵の様子を見るセキ上等衛生兵や、死体に目もくれずに全力で走った。
絶対、絶対この戦争を生き残る。
生きてシユに会う。
衛生兵だって辞めない。
私がシユを助けるんだ。
勢いのまま塹壕に飛び込む。
「……衛生兵、です……負傷兵、は…………」
肩で息をしながら辺りを見渡す。
壁に寄りかかって居る味方の兵士が目に着きました。
胸の辺りが血で濡れ、今すぐに治療をしなければ死んでしまうかもしれません。
「あの、大丈夫ですか…………!!」
返事は無かった。
脈を測る為。
負傷兵の前に座り込む。
「失礼します……!」
首に手を当てようと顔を少し上げると。
その負傷兵の顔は、半壊していました。
「ゔぅあ゙……っ!?」
思わずその場で尻もちを着く。
顔に被弾していたらしく。
脈を測るまでもありませんでした。
「よっと、あれアンジェちゃんどうしたの?」
呆然としている中。
セキ上等衛生兵が塹壕に飛び込んで来ました。
座り込む私の前には既に亡くなった隊員。
セキ上等衛生兵は察したのでしょう。
「あー……見分けるの難しいよね。瀕死なだけかもしれないしさ」
セキ上等衛生兵は顔色一つ変えずに言いました。
「……ねぇ、本当に大丈夫?」
「……………………は、い」
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